第105話 絆2・紅鷲団、テイル、マジョ
全身赤い鎧に包まれた紅鷲団ブラッドイーグルの面々は、ファフニール帝国周辺に散らばっていた。
「団長! ファフニール帝国周辺を爆破、それから混合竜の翼を落として解放しました!」
「うん、よくやったね。ありがとう」
赤毛タレ目の中年団長アーツ・サームは、北東の故郷へ帰る前にリザードマンを助けるため急造の策を実行していた。
まずファフニール帝国の周りを爆破して陽動。さらに残っていた混合竜の翼を切り落として各地に放った。こうすることで、“翼のない竜”を狙うもの達を撹乱し、情報が錯綜するように仕向けたのだ。
団長の元に団員である黒髪くせ毛のダイニンが歩み寄る。
「まさか団長がリザードマンを助けるなんて言うとは思いませんでしたよ」
「やだなぁ、まるで血が通ってないような言い方して。私だって人の子だ。受けた恩は返すさ」
「と言いながら、逆に恩を売り返す腹積もりでしょう?」
「無粋だねぇ。奇術師のタネを裏から見るタイプかい?」
「否定はしません」
そこまで言ってダイニンは、一度溜まった熱を放出するように兜を脱いで、汗で濡れたくせ毛をかきあげる。
「……我々はリザードマンを信頼してもいいのでしょうか。彼は人類にとっても脅威です。突然、反旗を翻されたら手も足も出ないと思います。そうしたら、我々の行為は悪魔に手を貸すことと同じになってしまう」
ダイニンは、自身の竜鎧を見る。竜器は竜の体からできており、リザードマンの血液で簡単に壊れてしまう。故に敵になれば人間に勝ち目はないだろう。
団長アーツが不安そうな顔のダイニンの竜鎧に小石を当てた。
「彼は竜だが人を殺していない。これ以上に信頼を得る方法があるかい? もし、彼が人類を虐殺するようなことがあれば、すべて私のせいにすればいい。ムダに歳を食ってないからね、責任の取り方は知っている」
酸いも甘いも知った男の笑顔には、不思議と説得力があった。
その表情に安堵するダイニン。
「……返す言葉もないですね。貴方が団長でよかった。他の方ならきっと見捨てるか不干渉を貫いたことでしょう」
「代わってみる? 王様の小言が聞けるし、部下に陰口叩かれるし、楽しいよ」
「遠慮しておきます。私にその席は大き過ぎる」
「人間“慣れ”だよ。座り続けたら案外馴染むもんさ」
「体のいいこと言って。代わってあげませんよ」
「あはは、聡い部下を持って鼻が高いよ。さて、楽しい会話は後にして祖国へ帰ろうか」
椅子代わりの箱から立ち上がり、遠くを望む。
「我々ができるのはここまでだリザードマン。せっかく命張ったんだ、軍事費分くらいは生きてよね」
そう笑って呟き、団長は踵を返した。
◇
団子髪の運び屋テイル・フェアリーと、謎のやけど顔の女マジョは、リザードマンの居場所の遥か南東にいた。
「本当にやるつもり? 雷王竜に見つかったら終わりよ」
「ああ。だが、ここで恩を返さずにいつ返すってんだ」
次々と大陸中心に集まっていく竜を見て、リザードマンが追われていると察した二人は、彼を助けるべく見晴らしのいい崖に位置取っていた。
「当てられるの?」
「この九つの琥珀武器の一つ“アルフボウ”なら必ず当てられる。それに矢もこいつ専用のやつだから強度も問題ない」
矢も一本丸々琥珀色の謎素材で出来ており、そう簡単には壊れない。しかし、四本しかなく、その貴重な一本を使用するつもりだ。それほど彼はリザードマンという生物の可能性に賭けているのだ。
一方、マジョはというと、鷹竜望遠鏡をテイルの目に当てて補助していた。
「少し右にずらしてくれ」
「これくらい?」
「ああ、助かる」
身体能力を上げる竜衣に力を込め、矢を引き絞る。
狙うは象型の徒竜。いかにも探知に優れてそうな見た目で、なおかつ他の竜が代わる代わる象型に報告を行なっていることから、リザードマンの位置の把握に一役買っている可能性が高い。この竜を潰せば、あるいは逃げ切れるかもしれない。
「…………」
テイルは息をすることも瞬きをすることも忘れ、ただ一点、敵に狙いを定める。
風が止む。と同時。一線。
矢はわずかに弧を描きながら象獣竜の頭部へ飛んでいく。
「行け!」
「当たりなさい!」
二人の思いの一撃が、それに応えるように象獣竜の頭を見事砕いた。
『ぐげ』
象獣竜は何がおきたかもわからず絶命して落下していく。
「よっしゃああああ!」
「やったぁ!」
思わずハイタッチする二人。そういう、はしゃぐような性格ではないが、奇跡に近い御業に嬉しくなるのも無理もない。
「よ、よし。これで借りは返した。雷王が来る前に逃げるか!」
「そ、そうね。急ぎましょ!」
照れを隠すように二人はそそくさとその場を後にした。
◇
『報告! 各地で異臭! 臭気系探知が効きません!』
『報告! 各地で翼のない竜が出現しております! 本物か偽物か判別できません!』
『報告! 象獣竜パオンの消息が不明! 探知兵の統率が取れません!』
『ら、雷王様! いかがなさいますか!?』
数々の報告を聞いた雷王竜は、口元を三日月状に歪める。
『クハハハハ! 仲間か? 魔法か? どちらでもいい! 面白い、面白いぞリザードマン!』
錯綜する情報に、混乱も怒りもなく純粋に楽しんでいた。
『狩りはこうでなくてはな』
雷王は、尻尾を振って喜んだ。
その様子を二頭の獣竜が目を輝かせて見ていた。
『雷王竜様があんな楽しそうに笑っておられるにゃん』
『ああ、五年前の人類蹂躙以来だ。今日は終わったら宴だブル』
『ありがたやありがたやにゃん』
配下である猫獣竜と闘牛獣竜はしみじみと分かち合った。このようにリンドウが死闘を繰り広げる一方で雷王竜達には、まだまだ余裕があった。
そして、リザードマンの終わりなき戦いが続く。




