第104話 絆1・ヒサメ
樹竜最後の衛竜である“激樹竜ラフレシア”は、リザードマンと樹竜達が戦っているのを湖の浮島で密かに見守っていた。
『へっへっへっ、見てろよリザードマン。弱ったところを俺っちが仕留めてやるぜ』
この竜は、犯罪迷宮都市ケイオス襲撃時に一頭だけ不参加を貫いたやつだ。基本的に事なかれ主義で、王竜の元でぐーたらしておくのが性に合っていた。
しかし、他の衛竜は皆やられ、王竜も行方不明のまま。となれば自分の立場は危うくなり、徒竜も心なしか命令を聞かなくなっていた。
そこで仕方なく、まだ言うことを聞く樹竜仲間を引き連れて信頼回復のためにリザードマン狩りに出てきたというわけだ。
『おほー、いいぞ鳥花樹竜。そのまま押し切れ。そして俺っちに花を持たせろ』
首回りが赤い花型で襟のようになっている姿のラフレシアは、サーカスでも眺めるように興奮して戦闘を見学していた。が、その時。首に茨の鞭のような何かが巻き付く。
「捕まえたよん」
気付けば、青い全身鎧を着た人間に背中へ飛び乗られていた。
『ひ、ひぃぃ! 何で人間が!? イタイイタイ、首痛い!』
首に食い込む棘を見る。衛竜である自分の鱗を簡単に貫く武器。よく見ると薔薇樹竜の茨だった。
「死にたくなかったら上に行ってねん」
青い鎧の人間は、砦樹竜の方を指し、何かを話していた。
激樹竜は、死んだ仲間の衛竜、天樹竜エンジェルオーキッドから人間の所作や言葉を聞きかじっていたので、それがどういう意味なのか何となく理解していた。
(く、逆らうと殺される……!)
仕方なく、相手を刺激しないようにゆっくり空を飛ぶ。
生きた心地のしないまま、すぐに砦樹竜の上にたどり着いた。
「うふふ、良い子だねん。竜がみんなキミみたいに大人しければ良かったのに」
青い鎧の女——ヒサメは、竜の頭を撫でてやりながら、眉をひそめた。
(ひいぃ! 誰か助けてぇぇ!)
その彼女の所作にパニックになる激樹竜。だが、ここで起死回生の一手を思い付く。人間は、友好の証に笑顔で対応すると聞いたことがあった。
(これしかない!)
激樹竜は、歯をむき出しに精一杯の笑顔を作った。
「へぇ、ここに来て仲間は売れないってこと? ヒサメさん好きだよ、そういうの」
残念ながら、ヒサメには威嚇に見えていた。
『え、いた、やめ——』
気付けば首が落ちていた。
◇
ヒサメは、砦樹竜ハイペリオンの死骸の上で一つ伸びをしていた。
手には薔薇樹竜の素材でできた紅い茨型の新武器“薔薇竜鞭剣・紅蓮”を持っていた。手元の引き金を引くことで剣形態と鞭形態を自由に変えることができる変則的な竜器だ。
「ヒサメさんってトゲトゲしたもの好きなのかもねん」
もう一つの武器“氷桜”も側面が尖っている。この時、平和になったら薔薇の花でも育てようと思ったヒサメであった。
それにしても、と、衛竜の屍を見る。
「まさか、衛竜を狩れちゃうなんて、漁夫の利ってやつ?」
彼女は、黒狼団から一時的に離脱して、リザードマンを追っていた。彼の行きそうな場所を経験と勘から推理して、持ち前の運の良さから発見に至ったのだ。さらに衛竜も倒せたとなると自分の豪運に口元を緩ませるしかない。
と、お花畑な思考をしながら眼下のリザードマンを望む。
「神様、お久しぶりだねん。英雄ヒサメさんの登場だよん」
『フッ、覚えがないな』
リンドウは律儀に自身の腕に文字を刻んだ。
「あはは、相変わらずカワイイなぁ。ともあれ借りは返したよん。後は自力で何とかしてねん」
リザードマンに向けて手を振る。だが、彼は愛想が良くないようで、フン、と鼻息で返事をするだけだった。
ヒサメが肩をすくめていると、黒い触手が巻きついてくる。
「キミは……神使様?」
ケイオスでフラズグズル姉妹を助けていた謎の触手。姉妹曰く、神様の使いの神使様らしい。
神使は、向こうに投げろと催促。
「んもう、二匹とも世話が焼けるなぁ」
文句を垂れつつもリザードマンの方へぶん投げた。
「お、流石ヒサメさん。投げるのも天才的だねん」
自画自賛しながらリンドウが上手く掴んだのを見届けて踵を返した、瞬間。
「う、くさっ!」
兜の上から鼻を抑え、臭いの根源を見ると、激樹竜ラフレシアの死体だった。
しかめっ面をしていたヒサメだが、何かを思い付いたのか眉を上げる。
「これは使えるかもねん」




