第101話 獣竜戦2
天井に穴の開いた国境地下の大空間。
リンドウは、大鷲獣竜イグルーの配下である徒竜八頭をあっという間に壊滅させた。
『おい、お前は仲間を呼んで来い』
イグルーは、象型の竜に指示を出し、仲間を呼びに行かせた。一頭だけになり、遥か上空で羽ばたきながら獲物へ向き直る。
『やるな、劣等竜。だが、ここから逃げられると思うなよ』
出入口は、すべて立方体の魔法ブロックで封鎖されており、抜け出すには竜殺しの血液を使って破壊するしかない。しかし、血を温存したいリンドウにとって、ほぼ無限に出るブロックを破壊しながらの脱出は不可能。
ならば取る行動は。
『逃げるまでもない。殺してやるよ』
言うが同時、壁をヤモリのごとく【吸着歩法】で駆け上がる。
『簡単に近づかせると思うなよ!』
イグルーは、すぐに両手を翳し、魔法を発動。手のひらサイズの四角い箱の群れがリンドウを狙う。
『悪いがおもちゃ箱で遊ぶ歳でもないんでな』
壁に手を着き、右に左に躱していく。
木を渡る猿のように移動し、あと数歩という距離まで詰めた瞬間、壁から長方形のブロックが飛び出して行く手を阻んだ。
『いかに貴様が強くとも、近づけなければ負けはない』
『ああ、そうだな。だから今日は帰らせてもらうぞ』
塞がれていない天井から地上へ抜けようとするリンドウ。
『なっ! 逃がさん!』
イグルーは、焦りながらも魔法でしっかりと蓋をしていく。さすが衛竜だけあって発動速度も量も雑魚と段違いだ。あっという間に自身の真上以外を塞いだ。さらに立方体の弾丸でリザードマンを仕留めにかかる。
『オラオラ! まだおもてなしは終わっていないぞ! ゆっくりしていったらどうだ!』
敵の波状攻撃により、リンドウは対面の壁まで追いやられた。その時。
『追いつ〜いた!』
両爬竜達が合流。壁からミミズ型の竜が次々と現れる。イグルーは空間に穴を開けられ、露骨に嫌な顔を浮かべる。
『ちっ、邪魔だ。下がってろ』
『や〜だね。リザードマンは俺達の獲物だ』
『雷王様の言うことが聞けないのか!』
『お前は雷王じゃないだろ〜?』
『バカが。死んでも文句は言うなよ』
内輪揉めが終わり、イグルーが両手を広げると、拳大のブロックが顕現した。腕を振るとそれらが流星のごとく降り注ぎ、リンドウを襲う。
『単調だな。それでは俺を殺れんぞ』
壁を横に走り、回避。砂礫と砂埃が舞う。
『黙れ。いま殺してやる!』
壁に埋め込まれたブロック達が寄り集まり、大きな竜の手の形に変形した。それがリンドウを掴みにかかる。が、長い舌を天井に伸ばして避けた。
『次は鬼ごっこか。ガキの遊びが好きなようだな』
『減らず口を!』
リンドウは逃げながら下に鱗を飛ばしていた。それが両爬竜達の目や翼を削る。
『いてぇ〜! だが、こんなもんでやられるか! 舐めんじゃねぇぞ!』
怒った両爬竜達が飛び上がった。体が魔法で螺旋状になり、リンドウを穿つべく回転体当たり。
だが、リンドウの驚異的な動体視力で見切られ、踏みつけられる。
『ぐぇ』
リンドウは、足で切り裂きながら空中を移動、何頭か雑魚を足場にして最短距離でイグルーに迫る。
『くそっ、馬鹿ども! 敵に足場を作ってどうする!』
イグルーは、急いで魔法を放とうとする。しかし。
(遅い!)
リンドウは、右眼から【血涙】を飛ばした。
——サバクツノトカゲは、目から血を飛ばし、敵を撃退する——
流すことしか出来なかった血は、鍛え続けたことで高速で射出できるようになっていた。
『な』
焦るイグルー。胸に矢のごとき速さで飛来する血を反射的に回避するも、肩口と翼を撃ち抜かれた。
『ぐ、だが、まだッ!』
血を吹き出しながら彼我の間にブロックを引き延ばした巨大な壁を出現させた。
(チッ!)
行き場を失ったリンドウは、カメレオンのごとき長い舌を伸ばし、一度壁に退避した。
イグルーは、傷口を抑えながらリザードマンを睨む。
『くっ、やはり帝王竜を屠っただけはある。だが、次はないぞ』
『ああ、もう遊びは飽きた。ちょうど迎えが来たようだぞ』
『戯言を——』
言い終える直前、イグルーの腹から黒い触手が生える。
『な……!?』
黒い槍状になった“コバコ”が腹を貫いたのだ。
敵は魔法で屋根を作ったせいで、獲物を捉えにくくなり、仕方なく自分の高度を下げて天井付近に位置していた。つまりそこは地上一階と同義。地上にいた相棒でも容易に敵を攻撃できたのだ。
『な、に』
混乱状態に陥る敵をリンドウは下から襲いかかり首を刎ねた。死体と共に着地し、コバコに向き直る。
『遅いぞ』
『えいゆーはおくれてとうじょうするもの』
誰に似たのか壁に文字を書き、軽口を叩くコバコ。
ともかく、勝利を収めた二匹は拳を突き合わせて喜びを分かち合った。




