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【完結】竜殺しのリザードマン 〜竜に支配された世界で自分だけ“竜殺し”の力を手に入れて“劣等竜リザードマン”になった男の逆襲物語〜  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第4章 リザードマン殺し編

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第100話 獣竜戦1

 両爬(りょうは)竜と雷鼠(らいそ)の猛攻を退(しりぞ)けながら国境地下を西へ進んでいたリンドウは、(ひら)けた場所にたどり着いていた。


(ここもか……)


 そこには混合竜の死体や骨が散乱していた。紅鷲(あかわし)団がファフニール帝国を攻める下準備として捕まえたか、あるいは製造した混合竜をここに閉じ込めていたのだ。


 その時、轟音(ごうおん)突如(とつじょ)として立方体のブロックが現れ、すべての出入り口を封鎖された。


 そして天井が崩れる。


『さぁ、狩りを始めよう』


 信号と共に十頭の獣竜が現れた。


 それぞれ異なった容姿をしており、(つばめ)(はやぶさ)(たか)獅子(しし)、チーター、ガゼル、犬、モグラ、象型の徒竜(とりゅう)。そして、一番上には四枚の翼を持った大鷲(おおわし)型の衛竜がいた。


 ——大鷲獣竜イグルー。衛竜。立方体の魔法物質を生む“ブロック魔法”を使う——


 リンドウは、そのサーカス団のような敵連中に鼻でため息をつく。


『群れないと劣等竜一頭も狩れないのか』


『何とでも言うがいい。狩猟(しゅりょう)に万全を期すのは当然のこと』


 イグルーは、見下して不敵に笑う。そこに獅子型の竜が信号を飛ばした。


『イグルー様、そろそろ()っていいっすか』


『構わん。生意気な犬には(しつけ)が必要だ。圧倒的な力を見せてやれ』


御意(ぎょい)


 獅子型の竜が腕を振ると、獅子の魔法体がいくつも出現し、リンドウ目掛けて空を()ける。


『獅子か、剣闘士興行を思い出すな』


 昔、剣闘士をしていた頃の思い出に半分(ひた)りながら、攻撃を器用に(かわ)し、反撃の好機を(うかが)う。


 が、その時、敵の魔法体が急加速。リンドウの鱗を削った。


(…………!)


 チーター型が“加速魔法”を使ったのだ。


 さらにリンドウの周囲を囲むように複数の六角形の平面が出現。


 (つばめ)の“反射魔法”とガゼルの“弾性魔法”により作られた空間で、それを足場に獅子型魔法体が縦横無尽に駆け回る。


 獣竜達の必勝の魔法連携技だ。


『まるで大道芸だな。チップはないぞ』


『ヒャハハ! てめぇの魂で払いな!』


 高速で跳ねる敵を見切れないリンドウではないが、身体能力が低下している今、脅威(きょうい)的だ。


 打開策を考えながら、最小限の動きで回避していく。だが、完全に()なすことはできず、生傷が増える。


『ハハハ! 踊れ踊れぇ!』


 (はやぶさ)型の竜が嬉々(きき)として信号を飛ばし、自身の手をかざす。すると、鍾乳石(しょうにゅうせき)のような(とが)った土塊(つちくれ)がリンドウの頭上に現れて急襲する。


(……(くそ)魔法だな)


 悪態をつきつつ、どうにか回避するが、わずかに腕を(かす)る。それを見て隼型の竜がニヤリと笑った。


『どうだ我が降下魔法の威力は! 対応できまい!』


『加速魔法の下位互換だな』


『な、なんだと! だ、黙れぇぇ……あ、あれ?』


 反論しようとした隼型の竜の首が飛んでいた。


 リンドウは、敵が魔法を操るのに夢中になって動きが止まるのを待ち、【鱗変化・竜速(りゅうそく)型】により、一瞬で距離を詰めたのだ。


 数が多くなれば能力に(かたよ)りが出るのは自明の理。彼は一番の雑魚を見極めるため、()えて攻撃を受けたのだ。


『何という速度! だが、空中に体を投げ出すとは()骨頂(こっちょう)。死にな!』


『お前がな』


 リンドウは、空中に体を投げ出すと決まって返ってくるフレーズに飽き飽きしながら口を大きく開く。


「ぐぎょ」


 リンドウの血を混ぜた毒攻撃【毒射(どくしゃ)】により、ガゼル型の頭部が消し飛んだ。


『舐めるな小僧!』


 仲間の死に(ひる)むことなくチーター型が炎のブレスを浴びせる。しかし、リンドウはその場から消えていた。


『な!?』


『こっちだ』


 リンドウは、鷹型の敵の背中に飛び乗っていた。両爬(りょうは)竜と戦った時に拝借(はいしゃく)しておいた避役(ひえき)爬竜の透明な舌で敵にくっ付いたのだ。


『チキショウ! 降りやがれ!』


 鷹獣竜が暴れる。


 この竜に飛び乗ったのは、鷹獣竜の魔法が“未来視魔法”だということを事前に知っていたからだ。


 鷹獣竜は、鑑定鏡やジャンヌの竜眼などに使われる人気の素材で、それゆえに情報も豊富。リンドウも把握していたので、攻撃魔法じゃないコイツが最も飛び乗るのに相応(ふさわ)しいと考えたのだ。


『マヌケが! 足場を与えるな!』

『構わん、鷹ごと殺せ!』


 周囲の竜の胸部が一斉に(ふく)らみ、ブレスを放つ。


『ば、ばかやめ——』


 鷹型の敵は丸焦げになって墜落(ついらく)


 リンドウは、当然回避していた。ついでに厄介そうなモグラ型と犬型の首を()ねた。


『こ、こいつ! しかし、まだ無防備だ! 畳み掛けろ!』


『やめておけ。離れたほうがいいぞ』


 リンドウが信号を飛ばしたと同時、空間が(ゆが)むと錯覚するほどの刺激臭。


『なんだ、この刺激臭……まさか! 血だ! 血を気体に変えたんだ!』


 一斉に距離を取る竜達。だが、リンドウにそんな強力な技は使えない。


 能力【臭気(しゅうき)変化】を使用したのだ。


 ——シュウダという蛇は、警戒時に体から刺激臭を放つ——


 竜殺しの血を知られたことを逆に利用し、“血は嫌な臭いがして自在に形を変えられるもの”と敵が思い込むよう、たった一手で誘導したのだ。


 竜達は、警戒して壁際まで距離を取った。


(終わりだ)


 リンドウは、いたずらに刺激臭を放ったわけではない。もう一つ、匂いを仕込んでいた。


 突如、周囲の土壁が(ふく)らみ、中から次々と蛇が飛び出す。


 ——雌蛇はフェロモンを出して雄蛇をおびき寄せる——


 いざとなった時のために体内で蛇のフェロモンを作っておき、おびき寄せていたのだ。


『な、なんだこいつらは!? 離れろ!!』


 敵に(から)みついた蛇の何匹かが突如(とつじょ)(ふく)らむ。


 蛇は、密かに壁に付着させておいたリンドウの血液を吸っており、眷属化の過程で肉体が耐えきれず、竜の背中で破裂した。即席の血液爆弾だ。


「グガァアア!」


 竜達は断末魔の叫びを上げて墜落(ついらく)していく。結果、象型と大鷲型以外の獣竜は全滅した。


『く、伊達(だて)に帝王竜を倒していないということか』


 圧倒的な力を前に冷や汗をかく大鷲獣竜イグルー。


 リンドウは悠々(ゆうゆう)と竜の死骸と共に着地していた。ゆっくりと天を仰ぐ。


『どうした? 生意気な犬を(しつけ)なくて良いのか?』


『言ってくれる……!』


 冷静な大鷲獣竜もこの時ばかりは、顔をわずかに(しか)めた。

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