いつまでも美しい世界を
ただ、衝動に従って生み出してしまった…
そして、駄作が…
ではお楽しみ?ください!
「俺たちはこれから勇者五人衆だ!」
「なによ急に」
太陽のような笑みを浮かべながら叫ぶ赤毛の少年をセラは呆れたように見つめた。
「この世界を変えれるのは俺たちしかいない!そこら中に蔓延る魔物どもをぶっ倒して一緒に世界を明るくしよう!そして俺たちは!英雄になるんだ!」
そう言って赤毛の少年はいつものように突発的に思いついたことを叫んで一緒に遊んでいた4人を見渡した。
「そんなことを言ったって5人の中であの化け物どもを倒せるのはお前だけじゃねぇーか。お前の言う勇者とか英雄とかになるには誰にも負けねーくれーに強くなきゃいけないんだろ?」
赤毛の少年の体はまだ子供ながら服越しに見てもわかるほどに鍛え上げられており、黒髪の少年…アルの言ったように彼一人でもこの世界に蔓延る魔物と呼ばれている化け物に互角以上に戦えることを窺わせた。
それに対して、彼を除いた4人はどうだろうか。
そう考えながら僕は自らの体を見下ろしてみたが、その目に写ったのはお世辞にも引き締まっているとは言えない可もなく不可もなく、といった体だった。そして、それは何もアレン1人に限った話ではなく、4人全員に言えたことであった。
……うん、仮に僕たち4人だけで魔物に挑んだところで待っている結末は返り討ちだけだろう。
アレンはそう考えながら1人うんうんと頷き、落ち着いた声で言った
「それにいくら君だって僕たち4人を連れて戦うとタダじゃ済まないと思うよ?」
「そんなことはない!」
僕たちの否定的な言葉にそう言ってルートは快活に笑ったが、4人の中でその言葉に納得のいっている者は一人もいない……いや、1人静かに微笑みながら成り行きを見守っているシェリーがいるのだが、それはいつものことなので彼女のことはこの際おいておこう。
「なによ、あんたは私たちが魔物に勝てるとでも思っているわけ?勝てないわよ?」
「その通りだ、1秒ももたねーよ」
だが、そんな2人の言葉はルートにとっては想定内であったようで先程までと変わらない太陽のような笑顔をしていた。
「今はそうかもしれないが、これからは違う!これから俺たちで特訓をして、強くなってから世界中を救って回るんだ!」
「…はぁ、特訓って言ったって何すんだよ、今までみたいに棒を振りまわしゃいいのか?」
「いーや、ちょうど俺たちの村にいる冒険者たちがいるからその人たちに教えてもらおう!」
そう言ってルートは村の隅にある冒険者の住処に走っていき、それをいつも通り4人は少し遅れて追いかけた。
冒険者とは世界中を巡りながら魔物を狩る者たちの総称で共通点としては人よりも大きな力を持っていることが挙げられる。
ちなみに勇者とは今では物語上の存在で彼らも元は冒険者であったと伝わっている。
そんな冒険者たちがその時、村に滞在していたのだ。
僕たちは時間がある時はいつも5人で遊んでおり、その冒険者たちに弟子入りするのもまた5人一緒だった。
思えば、この時までずっと5人は同じ日常を繰り返していた。
突発的に何かを思いつき、何も考えずに突っ走るアレン。
それに呆れながらついていくセラと文句を言いながらついていくアル。
そんな3人を楽しげに見つめるシェリー。
そして、そんな日常が永遠に続いていくと信じて疑わなかった僕。
だが、この時、冒険者に弟子入りした瞬間から僕たち5人の運命の歯車は誰にも止められないほどに大きく動き始めていたのだろう。
それは僕たち勇者五人衆の始まりの物語。
もう十数年も昔の話だ。
懐かしい夢を見た気がする。
いつものように突然思いついたかのように行動するルートに僕たち4人がついていく、そんな古くも恋しい日常を。
だが、今はそんな幸せな思い出に耽っている場合ではなかった。
僕はいま僕たちの…いいや、世界の敵、魔物の親玉の棲家へと続く道の途中だからだ。
ここまで辿り着くまでに出会った魔物は全て倒してきた。
きっとそれは偉業で、多くの人たちを救ってきたことだろう。
多くの人の希望になれているのだろう。
…僕たちは?
「なぁルート、もう少しで僕たちの夢が叶うぞ」
『そうだな!あと少しで、世界を救える!』
「そうだね、あと少しだね」
一歩、足を踏み出し夢を叶えるため、決戦の地に向けて歩く。
「なぁセラ、どう思う?」
『どう思うって何よ!ここまで着いてきゃったんだから、最後までついていくしかないでしょ!』
「…そうだね、ここまで来ちゃったしね僕たち」
また一歩、
「なぁアル、僕たちって勝てるのかな魔物の王に」
『正直今でも厳しいんじゃねーかって思ってるけどよ、ここまで来たならもう倒すしかねーだろ』
「……だね、このために僕たちは何度も死にかけながら…鍛えてきたもんね」
…また一歩、
「なぁシェリー、…何のために来たんだっけ僕たち」
シェリーは仕方がないなぁといったふうに微笑んだ気がした。
「魔物の王を倒して、世界を救って、勇者になって、世界中の人に感謝されて、その後は…?」
これまで少しずつ歩いてきた僕の足はいつの間にか棒になったかのように動かなくなっていた。
「僕たちは……いや、僕はもう、この先に夢も救いも、何も…あるように思えないんだ……」
そう項垂れる僕の背中がふっと暖かくなった気がした。
『大丈夫ですよ。私たちはいつも一緒です。過去も、今も、これからも、この先ずっと。…だから、何も迷うことなく今はただ進みましょう』
「そう…だね。今は、ただ進むよ。世界のためなんかじゃなくて、ただ…僕たちのために」
僕はいつのまにか目の前に現れた禍々しい扉を見据えた。
それからのことは僕の記憶に残っていない。
ただ夢中になって戦った。
ただ僕たちの夢を背負って。
そうして気づいた時には僕の目の前には魔物の王が死んでいて、暗く澱んでいた空は青く澄み渡っていた。
そんな場所に僕はただ1人立っていた。
「…ああ、叶えた。…ついに、やったよ」
僕は立っていることもできず、その場に倒れ込んだ。
自分の死期を悟っていた。
今、死ぬんだと。
当たり前だ。人間は片腕を失って、血を流し続けて生き続けていられるほど強くない。
でも、僕に悲しい気持ちはない。
……ただ安心したんだ。
「……僕も、行くよ。……仲間はず、れなんて……酷い….じゃ、ないか……」
仲間たちが呆れたような顔をして僕を見つめている気がした。
「ずっと…い、っしょ……に…」
そうして僕たちの物語は終わった。
美しい世界を取り戻したと。
魔物の王の亡骸と勇者の遺体のある場所に1人の人間が近づいてきた。
「凄まじいですね、これが1人の人間が成し遂げたことですか」
そこにはおよそ2体の生物が起こしたとは思えないほどの戦いの跡が残っていた。
「私は祈りましょう。……あなたたちには、ただ、いつまでも美しい世界でありますように」
それが、現実とはかけ離れたことだとしても
いつまでも美しい世界を (完)
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(この後書を読んでいる人はいるのだろうか)ボソッ