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2:世界がヤバい!

 私と『あたし』が統合されるまで、多分一時間ぐらいの間、私は混乱し続けた。



 前世で私がなぜ死んだのか、全く思い出せない。


 私は、週に五日働いて、二日休む、普通の会社員だった。

 勤務先はIT系で、VPSや専用サーバー、レンタルサーバー、ドメイン管理と幅広いサービスを取り扱う会社だ。


 サーバー関連は基本的に二十四時間三百六十五日稼働しているので、何かあれば夜中でも対処しなくてはならない。

 アラサーで、社長直下の役職にまで昇進していた私は、原則土日祝が休みだった。

 けれど、カスタマーサービスのスタッフが心病んで頻繁にやめていき、現場は常に人手不足状態。私が休みを返上して、突然開いた穴を埋めることが多かった。専門的な分野だけに、交代要員はなかなか育たない。

 朝は八時出勤で、夜十時、十一時まで残業する過酷な日々を思い出す。

 残業代だけで、月十五万はあったが、使う暇がなかった。


(サーバー会社に、サイトの作り方を教えろってゴリ押ししてくる輩の多いこと! あと、ゲームのサーバーを立てたいのなら、もっとLINUX勉強しろ! MODの入れ方とかサーバー会社にきいてくるんじゃねぇぇぇ! などと、今更異世界から言っても仕方ないね! もう死んだし関係ねぇ!)


 以上、私がいなくなった世界への最後っ屁。

 今世を共に生きる人、もしくは前世でも別業界の人には、何を言っているかほぼわからないに違いないが。


 仕事だけではなく、帰ってから夜中までゲームをやりこんでいたせいで、私は慢性的に睡眠不足だった。それで、健康を害して死んだのだとしたら、半分は自業自得だろう。


 プレイしていたのは、『闇より出でて光を求め』、通称『ヤミヒカ』のシリーズ三作目だ。

 一作目の主人公はエルフ族の王子、二作目の主人公はその子孫に当たる女の子。


 数年ぶりに発売された三作目は、プレイできるキャラが二人いた。古代エルフ王族の末裔で、モスタ王家の血も引くザイオンと、召喚魔法が得意なエルフの女の子、レティ。この二人のキャラを交互に操って、二十章もある討伐ミッションをクリアしていく。キャラ名を変更したり、DL販売されているキャラクター外観に差し替えることもできた。




 その、三作目主人公ザイオンが、今私の目の前にいる。

 3Dどころか4DXで、リアルタイムに動いている。


(こんなこと、あり得ない)


 家族と一緒に食卓につき、食事し、尋ねられたことに答え、相づちを打つ4DXザイオンを見ながら、私は考えていた。


 転生したこともあり得ないが、ここでもう十年もアメリアとして生きて来た身。

 今更転生の事実を拒絶し、葛藤することはやめよう。


 それよりもあり得ないのは、ザイオンだ。

 彼は国王の隠された庶子で、大人になるまで、城の敷地内にある離宮で幽閉されているはず。

 離宮を出るのは、プロローグが終わってからだ。

 時系列や内容はよく覚えていないけれど、ゲームスタート時には、ザイオンは成人していた。少年期に、城の外に出てくるような展開は絶対に無かった。




 私、アメリア・カラドカス十歳は、本編はおろかプロローグにさえ全く出てこないモブだ。公爵家も、由緒正しい家ではあるが、やはり名も無きモブ一家。


 魂と記憶だけ携えてこの世界に転生してきた私にとっては、両親も兄も姉二人も、十年間共に暮らしてきた愛すべき家族。

 それでも、モブはモブなのだ。

 王家の親族であろうと、高位貴族であろうと、このゲーム世界では何の意味もない。


 主人公ザイオンは、我々モブ一家と一緒にいるべきではない。


 彼には、ここじゃない別の大陸で、魔王復活を止めるための全二十ミッションに亘る、凄惨で過酷な戦いに身を投じてもらわないと……。


(でないと、この世界も、この国も公爵家も、私も終わりだ……)

 私は、外面だけはお上品に、肉を切り分けて食べていたが、私の中の人は頭を抱えている。

 テーブルをだんっと叩いて、いったんあんた、ここで何やってんだよ、と4DXザイオンを問い詰めたい。


 このままでは、私と私の家族は、魔王の放つ超絶強力な闇魔法、『マグネター召喚』で、大陸ごと、身体の一片さえ残さずに消えてしまうだろう──。






⋈ ・・・・ YOU LOSE ・・・・ ⋈


「空が裂けていく……」

 レティが悲しげに空を振り仰ぐ。

「魔王が、マグネターを召喚したのね」


 長い戦いは、無に帰した。

 辛うじて生き残ったレティとザイオンは、瓦礫だらけの大地に立っている。

 彼女もザイオンも、闇の魔術師による魔王復活を阻止する事ができなかった。

 身を挺して二人を守った召喚ドラゴンは、立ったまま息絶えていた。


 仲間達の殆どは、強大な魔王の力になすすべもなく倒れ、今は瓦礫と共にある。

 エルフ族、人族、獣人族、竜人族と、特徴がわかる者はまだましだ。

 炭化して、四肢が砕け落ちてしまった遺体もある。


 レティが振り仰いだ空には、無数の亀裂が走っていた。

 裂けた空の向こうに見えるのは、漆黒の闇と、銀色に光る真円。

 その正体は、恒星の遺骸だ。

 強力な磁場とエネルギーを持ち、この距離で実体化すれば、大陸はおろか、惑星ごとバラバラに引き裂かれてしまうだろう。


 強い風が巻き起こり、立っていることが難しくなり始めていた。

 ザイオンが、レティを引き寄せ、抱きしめる。

 氷の王子とも称される彼が、そんな感傷的な行動をとる事など、これまでにはなかった。


「俺のせいだ」

 震えるザイオンの身体を、レティが抱き締め返す。

「俺の憎しみが、この結果を招いた……みんなを殺し、君を殺してしまう」


「違うわ。全ては、あの魔術師が引き起こしたこと。貴方のお母様をさらった時から、こうなる事を狙っていたのよ」

 レティが悲しげに微笑む。


「俺は諦めない」

 ザイオンは、自分と同じ色の、レティの瞳をのぞき込む。

「力を貸してくれ。俺の命と、君の命。この世界に在る、全ての命を使って、時を戻す──」


 全てが光に飲み込まれる。

「君を、絶対に死なせはしない」

 世界が回帰する直前に聞こえる、微かな声。

「……してるんだ──」


⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈





 このバッドエンドを迎えるたびに私は、討伐任務をやり直した。

 時を戻す魔法は、現実には、そのミッションをリセットするだけだ。

 リセットしても、得た経験値とアイテムは消えない。

 一度クリアしたミッションでは、何度もやり直しができる。隠し要素を全て見つけるまで、私は全てのミッションをしつこく繰り返した。

 ほぼ全ての隠し要素と武器とアイテムを見つけ、レベルも解放して、ようやくバッドエンドを回避できる。


 バッドエンドを回避した後も、ミッションごとの評価を最高値SSSに上げるまで、私はゲームをやり込んだ。


 今生きているこの世界でも、時を戻す魔法は、使用可能なのだろうか?

 まだ魔法が使えない、ただの少年に過ぎない4DXザイオンに尋ねても、答えは返ってきそうにない。


(いや、本当に、ここで何やってるの、ザイオン?! 困るよこんなの)


 このままだと、ゲーム本編に、主人公ザイオンが登場しない事になる。


 黒幕の魔術師を止める者がいなくて、禁断の魔術、使い放題!

 魔王復活し放題!

 世界がヤバい!











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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