#14 あたしの夢は【後編】
あたしの十七年間は歌とともにあった。
光の差さない闇色の日々の中で、歌を聴いている時間だけが輝いていた。
涙を飲まねばならないとき、怒りの矛先が見つからないとき、消えてしまいたくてたまらないとき。行き場を失った裸の感情に、音楽だけが寄り添ってくれた。そこに歌があれば、あたしは独りにならずに済んだ。苦しみ抜いて命を絶つ必要もなくなった。
あたしを救ってくれた音楽を、今度はあたしが奏でたかった。何も持たないあたしでも、誰かを救えるのだって確かめたかった。だからあたしは歌手を夢見たのだ。お金儲けだとか、誰かに認められたいだとか、そんな動機はすべて後付けだ。
けれども現実は無情だった。念願かなってレイナスのメンバーとなり、歌手活動を始めたあたしは、あたしのスタイルのままでは売れなかった。あたしは生きるために歌い方を変えなければならなかった。歌姫と呼ばれ、些細な承認欲求を満たされながら、理想と現実のねじれに内心では矛盾を感じ続けて、とうとうそれに耐えられなくなった。間違えたままの道を逃げて、惑って、もう現在地も分からないや。
︎︎ああ。
︎︎あたしは今度も間違えたのだ。
︎︎差し伸べられた手も、相棒の愛情も、いっときの悲観に任せて振り払って──。
ばしゃばしゃと水たまりを踏みつけながらあたしは走った。悪あがきを続ける街宣車のコールが日暮れの街に轟いている。首都高のオレンジ色の光が頭上に並んでいる。無我夢中で走って、走って、ようやく駒田駅前にたどり着いた。スマホの時計は二十一時半を差していた。愛梨はすでにバイト先から帰宅しているはずだった。
部屋の中には明かりが灯っている。震える指で呼び鈴を押し込むと、キンコーン、と間の抜けた音が虚しく響き渡った。愛梨がドアを開けて出てくることはなかった。何べん試しても同じことが続いて、とうとうあたしは両手を膝についた。疲れ果てて息も上がって、口角は上がらない。空洞になった胃がシクシクと痛みを発している。
「……そりゃ、そうだよな」
消え入りそうな声でつぶやいたら、重たい失望があたしを飲み込んだ。
きっと居留守を使われているのだ。もう関係ない、関わるなといって愛梨を突っぱねてから、気づけば丸一日も経ってしまった。いまさら縒りを戻したいだなんて、いくら何でも身勝手が過ぎるよな。
ふらりとあたしは歩き出した。
手綱を解かれ、厩を追われた馬のように。
どこへ流れ着くのか自分にも分からなかった。家も失い、お金も失い、みずから居場所を捨ててきたあたしを、いまさら迎え入れてくれる軒下があるようにも思えなかった。
吸い寄せられるように駒田記念公園へ踏み込んで、硬いアスファルトを踏みしめながら歩いた。秋雨の降り続く園内には人影もなかった。鬱蒼と並ぶ木々の向こうに、積み木のおもちゃを組み上げたような姿の塔が見える。中央広場の一角に屹立する、高さ五十メートルのオリンピック記念塔だ。その足元に広がる石畳の広場で、あたしは愛梨と出会い、そして初めての野外ライブを開いたのだった。
塔の真下は修景池になっている。
つま先を入れると、ぬるい水の感触が足首にまとわる。夏の熱気に淀んだ水道水の腐臭が、あたしを暗いほうへと誘い出す。
じゃぶじゃぶと水をかき分けながら、頂上へ続く階段を見上げた。水面には誰の姿も映らない。警備員があたしを見つけて咎めることもない。ただ、あたしを責める誰かの言葉が延々と頭に響いている。背中を押されるようにあたしは階段を昇った。公園の景色は眼下になり、雨上がりの温い風が耳元を吹き抜けてゆく。東京の夜景はあたしを照らしてくれない。ただ、蛍のように彼方で明滅するばかりだ。
ここから先は埒の外側。
踏み越えてしまえば、もう道には戻れない。
庇のへりに腰を下ろして、はらりと笑って、いつもの手癖でスマホを取り出した。投稿したMVの再生回数がどこまで伸びたか、こんな状況でも気にかかって仕方なかった。
あたしの罪を赦されたかったわけじゃない。
ただ、心慰みが欲しかっただけ。
あたしの生きた爪痕がそこにあると確かめたかっただけ。ほんのわずかでも爪痕を残さないと、死んでも、死にきれなくなる気がしたから。
「あ……」
FunTubeを起動した途端、声がこぼれた。タイムラインの一番上に表示されていたのはディーバの投稿動画でもなければ、流行りの新曲のMVでもなく、曲のタイトルだけが書かれた単調なサムネイルの動画だった。【あなたへのおすすめ】と表示されている。視聴傾向をもとにシステムがあたしの好みを分析して、勝手に載せたみたいだ。
〈君だけのRecord〉。
サムネイルに浮かぶ曲名を、あたしは頭の中で反芻した。
あたしの生まれるよりも前に、厩戸駆という無名のシンガーソングライターが発表した歌だ。そういえばずいぶん昔、ハマって聴き込んだ時期もあったっけ。ほじくり返したかさぶたを剥がすように、あたしは動画のサムネイルに指先を押し当てた。悲惨な人格形成期に親しんだ曲がどんなものだったか、冷やかし半分に聴いてやろうと思ったのだった。
イントロが始まった。
アコースティック・ギターの奏でる陽気なメロディが、単調な東京の夜空をジャカジャカと無神経に彩り始めた。
《♪生きた証を分かち合おう
聴かせてよ 君だけのレコード》
朗らかな歌い出しがイントロに続いた。若い男性とおぼしきボーカルの音色には、翳もなければ捻くれもない。あたしは首をすくめた。ベースの弦楽器とパーカスが合流して、曲はいよいよ賑やかさを増した。
優しい声だ。
︎︎羽毛の湛える熱みたいに、響いた場所から言葉が染み渡る。
不意に、からりと音を立てて何かが解けた。手のひらを胸に押し当てると、冷えきった胸に裂け目が生じて、心臓の痛みが漏れていた。岩を割って清水が染み出るように。
《♪耳をすませてごらん 春先の街角
誰かがレコードを抱えて歌ってる
口ずさめば分け合える痛み 悩み
僕らは誰も詩人なのさ
ほら 君の胸にも手作りの大きなレコード
刻んだ歌は針を待ってるのに
どうしてかな 君の顔にはまだ
春のような笑みは戻らないね》
スマホの使い方を覚えたばかりの十歳の頃、動画サイトの片隅でこの曲を見つけた。制作者の厩戸駆はまったくの無名歌手で、ヒットにも恵まれることなく、すでに芸能界を引退していたようだった。父親の好むジャズやクラシックしか音楽を知らなかったあたしは、会ったこともない人の詞に熱中した。将来を悲観して傷つき、自死を考えるたび、動画サイトを開いて溺れるように聴きふけったのを思い出した。
華やかな旋律はBメロへなだれ込む。
夜風のなかであたしは目を閉じる。
棘のない朗らかな歌声が、氷のような胸に沁みてゆく。ひび割れが広がって、また痛みが滲み出す。
《♪つたない言葉 ちぐはぐなメロディ
みんなの歌はもっと上手なのにって
比べて 嘆いて うつむいているんだろ
君の心は君にしか歌えないのにさ》
“君の心は君にしか歌えない”。
わずか十二文字のありきたりなフレーズは、あたしの地獄を真っ白に塗り替えてしまった。
たとえ誰に蔑まれようとも、あたしの想いはあたしが歌い上げるしかない。あたしにしか歌えない言葉が、旋律が、華奢な身体のどこかに眠っている。それがどんなものかを知りたくて、あたしは見よう見まねで〈君だけのRecord〉を歌い始めた。日を追うごとにレパートリーは増え、膨大な経験は確かな歌唱力に収束していった。手にしたものの輝きにようやく気づいたとき、あたしは少しだけ、歌う自分を好きになっていた。
あたしの原点はここにあったのだ。
あたしを生かしてくれた歌が、ここに。
ツンと目頭が熱くなった。結んだ唇が震え、押し当てた袖で画面が見えなくなった。滲み出た痛みが足元にひたひたと広がってゆく。それは恨み言でも、憎しみでもなく、あたしを引き留めようとするあたし自身の命乞いの声だった。
《♪なくさないで 君だけのレコード
聴かせておくれよ 君だけの歌を
一番でも満点でもない軌跡
歌が教えてくれるだろう
なくさないで 凸凹なレコード
いつか勲章になる黒の盤面を
きっと僕ら春のように笑い合える
嗚呼──そのときまで》
自然と、声がまろび出ていた。あたしは鼻声で歌い始めた。鼻を啜るたびに声が引っ掛かり、歌の体をなさなくなった。こんな不格好な歌、誰かに聴かれたら今度こそ本当に死ねる。誰が何と言おうと、このまま庇から飛び降りて修景池の赤い染みになってやる。
嬉しかったな。
音楽の先生に歌声を褒められたとき。
お小遣いを貯めて入った人生最初のカラオケで、九十七点もの高得点を叩き出したとき。
あの賞賛が、九十七点のスコアが、まるで生きてゆくための免罪符のように思えた。これさえあれば、あたしは生きてゆける。いますぐに報われることはなくとも、いつか誰かに愛されて、人並みの幸せにも手が届くのだって、あのころは確かに信じていられたのに。
ごめんね、あの頃のあたし。
あのとき思い描いた夢も、未来も、もう台無しになっちゃった。
あたしだってこんなところで終わりたくない。みずから死ぬ未来なんて選べないよ。だけど、もう、どうしたらいいのか分からないの。
五線譜の果てが見えた。明るい余韻を引きながらアウトロが途絶え、再生の終わったスマホは沈黙した。あたしはなおもぐずぐず泣きながら、スマホを手繰り寄せようと手を伸ばした。ふやけて触覚の鈍った指先が、なにか柔らかなものに触れた。
「あ」
素っ頓狂な声を発したのはあたしではなかった。
ぎょっと振り向いたあたしの目に、見覚えのある人影が映った。毛先の跳ねたボブカットの黒髪、短パンから伸びる筋肉質な両足、大小の光を宿した真ん丸の瞳。
「愛梨……!?」
「やっと、見つけました」
立ちすくんだ愛梨があたしを見下ろしていた。声を、足を、小刻みに震わせながら。
「すっごくすっごく探したんですよ。バイトも休んで、家にも帰らないで、昨日から一日じゅう……。いつからここにいたんですか。何をしようとしてたんですか」
「どうして、見つけたの」
「梨子ちゃんの声が聴こえたからに決まってるじゃないですか。他に何があるんですか」
あたしはもう何もかも枯れ果てて、力なく笑った。ああ、またしても不格好な歌を聴かれちゃった。しかも聴かれた相手が愛梨とあっては、せっかくの飛び降りる覚悟も台無しだ。
愛梨の出で立ちは部屋着同然だった。ゴム製のサンダルは土気色にまみれ、ドルフィンパンツの紐が風になびいている。髪の跳ね具合も普段よりいくぶん酷い。まさか本当に一晩中、あたしを探し回っていたのか。
「わたし、どうしても、謝りたくて」
くしゃりと愛梨は顔をゆがめた。
「わたしのせいですよね。わたしが無理して野外ライブなんか開いたり、押し付けの新曲をたくさん歌わせたりしたから、振り回されて疲れちゃったんですよね。それで色んなことが上手くいかなくなって、リスナーにも叩かれて、もう歌手なんか辞めるって……」
「ううん」
あたしはへらりと口角を上げた。
「愛梨のせいじゃない。愛梨はよくやってくれてたよ。ダメ人間なあたしのために」
「なに言ってるんですか、梨子ちゃんはダメ人間なんかじゃ──」
「ダメ人間だよ。勉強もダメ、運動もダメ、歌う以外のことは何もできない。家族とも同級生とも上手くやれなくて、居場所をなくして、あげく舞台からも降りちゃってさ……」
たはは、と情けなく笑ってみる。表情筋に力が入らず、取り繕いきれなかった感情が目頭からあふれ出した。
「あたし、本当はずっと歌手になりたかったんだ。アイドルを目指してたわけじゃなかったし、ちやほやされたいとも思ってなかった。だけど、そうしなきゃ売れなかったし、売れようとして自分を変えることにだんだん耐えられなくなって、結局レイナスを飛び出したの。あたしのわがままで、愛梨やファンの気持ちもぜんぶ踏みにじっちゃった。謝らなきゃいけないのはあたしの方だ」
「梨子ちゃん……」
「さっきの歌、幼い頃にあたしを救ってくれた歌なの。歌い方も、歌手への憧れも、全部あの歌に教えてもらった。そんな歌手にあたしもなりたかった。あたしの歌で誰かを支えたかったし、あたし自身も誰かに愛されたかった。だけどあたしにはそんな資格も才能もなかったんだって、もう……嫌になるほど分かっちゃった」
冷え始めた秋風が、ぼろぼろの身体に擦り傷を増やしてゆく。これでいよいよ愛梨にも幻滅されただろうなと、胸の中に予防線を張りながらあたしはうなだれた。
視界の外で、愛梨が息を吸い込む音がした。
「──分かってないです」
「え」
「何も分かんない。勝手にそんなこと分からないでください。わたしの立場はどうなるんですか。梨子ちゃんの歌に支えられて、梨子ちゃんに惚れ込んで、こんな危ない塔の上まで梨子ちゃんを追いかけてきた、わたしの気持ちはいったいどうなるんですか!?」
愛梨の声は絶叫にも等しかった。ごうと風が強くなった。座り込んだあたしの手を、愛梨の手のひらが強く握り込んだ。逃がすまいと、確かな意思や熱を込めて。
「わたしなんか普通の高校にも通えてない。友達だって一人もいないし、お母さんも帰ってこない。音楽なんか作ったって誰にも聴いてもらえない。それでも今日まで生きてきたのは、明日は明日の風が吹く、胸いっぱいの幸せが待っているって、梨子ちゃんの歌が教えてくれたからです! 梨子ちゃんの歌のおかげで自分を好きになれたのに、どうして梨子ちゃん自身がそんなに自分を貶すんですか!? わたしのことも同じ言葉で貶すんですか!? いつかきっと報われる日が来るって、もう励ましてくれないんですか……!?」
生半可な返事を許さぬ気迫に、あたしは衝動の栓をすっかり止められてしまった。へなへなと座り込んだ愛梨が、ぐったりと濡れた声で「やめてほしくないです」と畳み掛けた。
「梨子ちゃんの歌が聴きたい。あなたの歌がなかったらわたしも生きてゆけない。わたしがダメなら他のユニットでも、レイナスに戻ってくれても構いません。梨子ちゃんがどこかに居場所を見つけて歌い続けてくれるなら、他には何も望みません。わたしのせいで梨子ちゃんの歌が聴けなくなるのは絶対に嫌です……。わたし……あなたの歌に……すっごくすっごく救われたんですっ……」
すすり泣く愛梨の丸い背中に、そのとき、幼い日の自分が重なって見えた。まぶたを閉じ、心を閉ざしても、その内側で音楽は鳴り響く。厩戸駆の〈君だけのRecord〉があたしに寄り添ってくれたように、あたしの歌もまた、愛梨の胸のなかで響き続けていたのだろうか。そうだとすればそれは、あたしの歌が誰かの心を確かに震わせた、否定しがたい証拠なんじゃないのか。
「あたしが……」
つぶやきかけて、また俯いて、それでもやっぱりあたしは顔を上げた。
鈴虫の独唱が響いている。
寝静まった東京の街並みを、夜の帳が覆い隠している。
記念塔に照明は灯っていない。奈落の闇で息を殺すあたしが、誰かの目に留まることはない。けれどもまだ声は出せる。あたしには歌がある。届け足りない詞がある。そして、あたしの歌を愛してくれた、たったひとりの味方がいる。ぜんぶ失くしたと悲観する前に、もっと身の回りに目を向ければよかった。あたしの声は、歌は、ちゃんと届いていたじゃないか。
「愛梨」
呼びかけると、愛梨がしゃくり上げた。その髪にへばりついた枯れ葉を、あたしは指先でつまんで拾い上げた。
「……なんで頭に葉っぱがついてんの」
「茂みの中とか、探しに入ったから」
「そんなところにあたしが隠れてると本気で思ったわけ……?」
「だって諦めたくなかったんですもん……っ」
「ありがとう。愛梨が来てくれなかったら、あたし本当に死んじゃってたかも」
あたしは愛梨の手を握り返した。触れ合った場所から温かな血が流れ込んで、身体中に巡ってゆく。ぐず、と愛梨が鼻を啜り上げた。
「もう、どこにも行かないでくれますか」
「行かない。ちゃんと生きる。いつか報われる日が来るまで、しつこくしぶとく生きてやる。そのためにもあたし、歌うよ」
「梨子ちゃん……っ」
「それでさ。歌手をやるならやっぱりあたし、愛梨と一緒がいい。あたしの歌を誰よりも分かっている人に、あたしの可能性を預けたい。だからお願い、また一緒に歌を歌ってよ。悪評も下馬評もぜんぶ引っくり返るような歌を二人で作って、回らない寿司、食べに行こうよ」
あたしの決意はようやく確かなものになった。そこに愛梨という結晶がある限り、あたしの夢は夢のままで終わらない。それさえ分かっていれば、あたしは明日を生きてゆける。いつか夢見た境地に手が届くまで、声が嗄れるまで歌って、お金を稼いで、意地汚く生き延びてやるのだ。
愛梨の顔は紙屑みたいになった。もういちど鼻を啜って、強張った口元を緩めて、愛梨は「約束ですからね」と小指を差し出してきた。自分の小指を絡めようとした途端、矢庭に「コラ──ッ!」と野太い怒鳴り声が響いて、はたとあたしは眼下を見た。いつの間にか足元の中央広場に警備員の姿がある。懐中電灯の光に手元を照らし出され、とっさにあたしは愛梨の手首を捕まえた。
「逃げよう、愛梨」
「わたしお腹ペコペコで走れないですぅ……」
「カツ丼食わされる羽目になりたくないでしょ。公園の出口まで走るからね!」
「そんなところで何をしゃべってる! いいから降りてきなさい!」
あたしは愛梨を連れて階段を駆け下りた。靴のまま修景池を蹴散らして、初老の警備員から全力疾走で逃げた。肺が苦しい。お腹が痛い。この痛々しい生の感触を、いますぐ歌に乗せてマイクにぶつけたい。この言葉が通じる一億人の有象無象に、一円の値打ちもないあたしの生き様を歌い届けたい。不格好なあたしをみんなは笑うだろう。笑って、共感して、前を向いてくれたら、いまはそれでいい。
逃げるな、里見梨子。
あたしはもう一人じゃない。
舞台に立ってマイクを取って、生きてくために歌を歌え。
──まだ、届けたい歌がある。
みずからの生きる意味を確かめ、ふたたび歌手になることを誓った梨子。
失ったものはまだ数え切れない。一億円の夢は茨道の彼方。それでも愛梨と二人三脚で、足元を固めながら歩いてゆく。その道程にはいつしか、一人、二人と同行者が増え始め──。
物語は【〈2nd Turn〉ふたりで奏でる、明日の二人】に続きます。
「ええと、肩書きは何でしたかね。寿限無寿限無五劫の擦り切れ……」
▶▶▶次回 『#15 《ネクストブランド認定審査》』




