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最終ステージ&......

 “600”


「それでは、じっくり話してもらおうか。ここはどんなところなのかを……」と俺は目の前の金髪男――カノウと呼ぶ人に話しかけた。小早木さんと一緒に。


 俺たち三人は今、話し合うところだ。


 ゲームの途中では話し合う余裕がなかったため、三つのステージをクリアしてから、休憩時間に話し合うつもりだ。


 だが――


「話すも何も……俺から教えることがないと言ったはずだろう。」


 ――カノウは不機嫌な感じでそっぽ向いて、普通に喋ってくれそうになかった。


 カノウの言動から、全く心が開いた感じがしない。


 人はそう簡単に馴れ合えないとわかってはいた。特にカノウみたいな訳アリの人ならなおさらだ……が、やはりずっと八つ当たりの態度に取られると、普通に苛立つものだ。俺も例外ではない。


 たとえ過去に何かあったとしても、その八つ当たりの態度でずっと俺たちに向けてどうかするものだろう。


「あのな……カノウさん。これはせっかくの休憩時間だ。あまり無駄にしたくないんだ。」俺はなるべく自分の気持ちを抑えこんで言った。


「はっ!知ってるさ。だがさっきの言った通り、教えることはない!」


 まさかこんなに協力してくれないとは……やはり親切に接してはダメなのか。


 正直、三つのステージをクリアしたら、少しも心を開いてくれるじゃないかとこっそり期待していた。


 特に、ステージのクリアも渋々ではあるが、協力してくれた。また、意外なことかもしれないが、俺と小早木さんは一度ご褒美が何を選ぶべきかと悩んでいたら、カノウも“助言してくれた”。


 ここで大事なのは“勝手に選んだ”のではなく、“助言をくれた”ということ。


 つまり、この一件で、カノウはまだ完全に落ちぶれた人間ではないことに俺は確信したのだ……が、それとこれは、“人との付き合い”がまた別の話だったかもしれない。


 “540”


 時間の余裕があるし、ここはもう、怒ってもいいだろう。


「……いい加減にしろ!」暴力を振るいたくないから、俺は自分の拳で床に叩いた……痛い。


「……はぁ?」カノウだけでなく、小早木さんも表情が固まったまま俺を見ていた。


「お前に過去に何かあるのかわからんが、その態度は慎むべきものなんだと言っている。」


「ああ?!」青筋が立っている。怒っているのが目に見えている。だが、怖くない。もし原因がわかれば、こいつが威張っているところは全然大したことじゃない。


「ま、待って。田中さん。もう少し……」


「小早木さん。ここは言わせてほしい。」


 そもそも、カノウがやっているのは八つ当たりみたいなもんだ。子どものわがままみたいなものだ。


 過去のことに引きずられて、ずっと俺たち無関係な人にぶつけている。


 こんなのは、ただの迷惑だ。

「悲惨な過去があれば、俺も同情はする。同情はするけど、俺は小早木さんと違う。直接なことを言う……」当然、このまま言わないけど、言うことは言うものだ。


 人にしっかりさせるには人によってそれぞれの方法が適切だ。小早木さんは然り。カノウも然り……カノウには、甘えてはダメだ。


「ですが……」恐らくまた喧嘩になりそうだと思っているだろう。小早木さんはおろおろと言っていた。阻止するつもりだ。


「小早木さん。心配しないでください。それに……」俺は直接カノウに向けてこう言った。


「こいつと喧嘩になっても、俺は負ける気がしません。」


 カノウは少し「くっ……!」と悔しそうに唸っていた。


「そ、そういう問題じゃないと思いますけど……」


「すみません。だが、俺はもう決めたのです。小早木さん。」


「うう……」小早木さんは本当に優しい子だ。これでもカノウに心配かけている……一応、彼女のこの感情は罪悪感のものかまで考えてはいたが、とある情報から、小早木さんはカノウと面識があるという可能性はすでに潰したのだ。


 だから、小早木さんの優しさは罪悪感の可能性ではない。彼女はただの優しい女性だ。


「……ちなみに、残りの時間は?」


「……もうすぐ8分です。」


「わかりました。ありがとう。」


「いいえ……」小早木さんはそのまま心配な目でカノウを見つめていた。


 これは、黙認ということだろう。


 俺はカノウに話しかける。


「カノウさん。」


「うるせぇ……!」


「聞け!」


「く……」


「カノウさん……本当に家族のことが大事なら、今は過去に囚われるんじゃない。素直に助けを求めることだ。」


「……そんなことをするかよ!今更誰が助けたって――」


「しろ!というか……そういうことがわからないから、君は藁でも縋る気持ちで“願いを求めている”んだろう?」


「……なっ!」


「何で知っているのかと聞きたいのか?簡単な話だ。俺は探偵だからだよ。」バカみたいな理屈。でも、こういうバカみたいな理屈が聞きたいだろう。


 ――真面目な話だが、カノウは目的があるのは確実だ……というより、その目的はあからさまだった。彼は、家族のために、“願いを求めている”。


「まあ……本当のことを言うが、今までの手がかりを合わせて考えてみれば、それに、君自身が言った“家族までに手を出した”ということからして、答えが簡単に一つの可能性に絞り出せる。」


 ――あの女は家族に手を出した。カノウの自暴自棄さは、あの女によってのものに違いない。どん底に陥った人生。つまり、カノウはすでに追い詰められている状況なのだ。だから、藁でも縋る気持ちで“願いを求めている”。


 少なくとも、“当時の俺”はそう推測した。


 ****


 古木のような家具、天井の扇風機、最近やっと仕入れることができたブラウン管パソコン。まるで実家のような安心感……いや、そもそも俺の家だ。


「……どうでしょうか?これは、私自身が経験した不思議な体験でした。参考になりましたか?依頼人さん。」俺は目の前の依頼人さんにそう問いかける。


 彼はハット帽子を被っていて、粗大なフヂを所有しているメガネをかけている、実に質素な男性の方だ。彼は取材のために、探偵の仕事について素材がほしいという――一人の作家の依頼人。


 “今までのこと”がちゃんと聞いているようで、今も帽子がなければ、後頭部が直接見えるような態勢で色々なメモを取っている。


 でも、“俺の話”が途中で終わったことに不満があるらしく、依頼人さんは少し眉をひそめて、やっとずっと紙に向かっている顔を仰いだ。


「いやー、面白いですよ!参考になりましたし、面白かったです……が、その後、どうなったんですか?途中で終わると、気になるではありませんか!」


「ですが、その後のことは全然大したことではありませんよ。要は、カノウさんが協力してくれるようになって、三人で一緒にゲームのステージをクリアしたということです。」


「いやいやいや、他にまだあるでしょう!ほら、例えば……あれだ。何でマイコーさんへの認識は古着のホームレスだーとか、死に戻りの条件や一体何の空間だったなど、他にいっぱいあるでしょう!」


「依頼人――いや、コーディンさん。ここまで“自分の考え”まで詳細なことを話したら、もうわかると思いますが、そのほとんどのことは実は確定のしようがないことですよ?

 若干推測のしようはあるが、それが事実なのか、二人はちゃんと伝えた通り言っているのか、俺にはわかるようがありません。だから、伝えるわけにはいきません。」


「そ、それは、確かにそうなんですが……」納得できない表情。


「でも、マイコーさんは予想があるはずでしょう!こんな中途半端な感じに終わると、読者は受け入れませんよ!」


「え?どういうこと?まさかコーディンさんはこの件まで書くつもりなんですか?」


「え、ダメ……ですか?」


「ダメ、ではありませんが――」俺は少しあざとい感じで、ちょっと肩を竦めた。


「でもほら、アレなんですよ。一応、プライベートのことだから。」


「……ああ。なるほど。」コーディンは少し落ち込んでいる。


「……まあ、でもアレだ。ちゃんと名前とか偽名を使ったら、大丈夫ですよ。私みたいに、『田中太郎』って。」


「……そういえば、よくその日本人の名前を思いついたんですね!マイコーさん!」


「はは。でもあの二人には全然受けられないんですけどね。一応四分の一の日本人の血が流れていますが、やはり両親の受け継ぎが明らかなんでしょう。」


「え、マイコーさんはハーフなんですか?!」


「いや、爺さんばあさんのほうですよ。そこまで特徴的ではないから。」


「じゃあ、もしかして田中という苗字は本当に――」


「いや、ばあさんのほうが日本人でしてね。それに、苗字も『スズキ』という。」俺は首を横に振った。


「え、じゃあなんで……」


「コーディンさん。私の身分を忘れました?」


「……あ!」コーディンは思いついたようだ。俺も答えを口にした。


「私は探偵ですよ。仕事がらみで、何人の日本人と付き合いがあるのでね。」


「なるほど!」コーディンは興味深い感じで再び自分が取ったメモに目を通した。


 すると、一つ気付いたようで、すぐ俺に問いかける。


「だからマイコーさんは『日本語』も喋れましたか!」


 やはり作家だけであって、もう気付いたな。


「……いいえ。」俺の答えを聞いて、コーディンは少し目を見開いた。


「……え?」


「これが面白いところなんですよ――」


 俺はこのことの故に、自分の推測を言うつもりがない。


 だって、自分の推測がはずしたら、恥ずかしいし、加えて、やはり作家のための”想像の部分”を残したい。


 この事実は、必ず想像の材料になる。


「――私、一度も日本語を喋ったことがありません。」


 END

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