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ステージ:7~9

 ……


 “570”


 一人のサラリーマンが言った。


 “「俺はもうこんなところにいたくない!早く誰か!ここから出してくれ!」”


 だが、無闇に逃げようとした彼は、ただ口だけにした願いが叶えるはずもなく、無残に死んでいた。


 “540”


 一人の中学生の少女が言った。


 “「な、なんで……そんなことをするの……わたし、信じてたのに……!」”


 “「願いは叶えられるんだよ!だからなー俺が死ぬ前にせめて一緒に楽しいことをしようよ!お前はここで、俺のOO器になるんだよ!」”


 “「い、いや……いやー!」”


 中学生の少女は、欲望にのまれていた教師に非人道的な行動を取られ、そのまま精神崩壊し、自ら死を望んでいた。


 この二人組は、なんとか前半のステージをクリアしたが、悲しいことにクリアできず、先に諦めた人によって、全てが崩壊した。


 “480”


 三人組――モデルっぽい女性と二人の男子高校生――この三人組はありきたりのセリフから始まる。


 “「こ……ここはどこだよ!」”


 “「し、知らねえよ!というか……お前はレン?」”


 “「ま、まさか君は……冬木なのか!」”


 二人の男子高校生は幼馴染みたいのようで、しばらく喋っていると――


 “「ね、ねえ、二人とも、ここは一体……」”――モデルっぽい女性は不安そうな感じに二人に話しかけた。


 “「え?あ……いや、俺たちも――」”レンは、俺たちもよくわからないと言いたげだった。


 “「きれい……」”レンの話は冬木に挟まれた。


 “「おい!冬木!こんな場合ではないだろう!」”(こそ話)


 “「だ、だって本当にきれいだし!」”(こそ話)


 “「あのー」”モデルっぽい女性はもう一度二人に話しかけた。


 “「いや!おれ……私達もよくわかりません!い、一緒に調べましょうか?」”


 “「……冬木!」”


 “「うるせぇな!」”


 二人のやりとりに、モデルっぽい女性はこっそりと笑っていた。それは、決して微笑ましい笑い方ではなかった。


 “420”


 それからのことは、もはや見るに堪えらないほどひどい話だった。最初順調に進んでいたが、だんだん雲行きが怪しくなっていた。


 ……


 “「なんでレンはずっと俺のことをいちいち止めようとするんだよ!」”


 “「そ、そんなの、友だちとして当たり前のことだろう!むしろあの女はずっと――」”


 “「友だちだと?友だちなら、友人のやりたいことを応援するのが一番だろうか!それとも何?まさかお前……ヤったのか?」”


 “「はあ?!何言って――」”


 “「もうやめて!私のために争わないで!」”


 ……


 “「ひ、ひどい!私はただ……二人のために……」”


 “「何やってんだ!レン!」”


 “「うるさい、冬木!お前はこの女に騙されたんだよ!」”


 “「わ、私が騙そうとするだなんて……!」”


 “「そうだよ!レン!おかしいのはお前の方だ!」”


 “「なんだと?!この……分からず屋!」”


 レンは冬木を殴りに行った。二人はこのまま殴り合いが発生し、その後も同じように色々いざこざが起きつつある。三人組の最後の末路は――


 “「……ふふ。馬鹿な男ども。でも、これで全ての願いは私の物に――」”


 ――二人の男子高校生は女のために争っている間、ステージをクリアできず、無残に死んでいた。


 二人の死に関わるその肝心な女も、最初は一人でステージをクリアし、二つの願いまで叶えたが……


 “「……では、そろそろこのゲームから本気に脱出したほうがいいわ。」”


 “「さあ!私はもうゲームをクリアしたわ!早く私をここから解放しなさい!」”


 自分が賢いだと思っている女は、ずるな願いをしようとして、そのまま命を落とした。


 “360”その後も一組、料理人、スポーツマン、店員……


 “300”更にもう一組、音楽家、研究員、学生……


 ……


「……なんなの、これは?」


 これは私が自分の目で確認した「過去の記録」。同時に、私がなぜ“デスゲーム”ということに連想させる原因である。


 ****


 “600”


 小早木さんの“沼人”という交流から、何秒が経過した。金髪男がどんどん「蘇生」されて、俺の心も次第に引き締まる。


 せっかくの休憩時間だ。


 無駄な時間を過ごせないものだ。


 無駄な争いも当然、避けたいものだ。


 俺はこのことを思っている間、金髪男がやっと蘇生されて、再び目を覚めた。


 そして、目を覚めた彼はすぐ何か嫌な思い出が浮かぶ感じにしばらく固い表情のままだった。だが彼はすぐ落ち着いたようで、周りを観察し始める。かといって、(俺の目線からすると)ここは特に何もないため、彼は一通り目をやると、目線はやがて俺たちの方に落ち着いた。


 目付き、雰囲気からして、明らかに警戒している。警戒の上に嫌悪感も感じられる。主に小早木さんへの……小早木さんに何か恨みがあるのか、それとも小早木さんに何にされたのかということまで考えていたが、どれも当たった感じがしない。


 むしろ小早木さんも怯えている様子で、なかなか話しかけられそうにない。


 俺は面倒ごとを避けたいため、いち早く確認するよう金髪男に話しかけた。


「君……大丈夫ですか?記憶は?」とりあえず、無難なところから。


 しかし、金髪男の返事はただの「ああ」だけだった。 


 この返事はいいのか悪いのか全くわからない。知っているのは彼が簡単に心を開いてくれそうにないことだけ。


 ダメだ。全然話が聞けそうにない……協力を求めるにもこれじゃダメだ。早くどうにかしないと――俺は焦り始めると、金髪男が先に話しかけた。


「……俺はどうしたんだ?」


 普通に自分の身に何が起こったという意味だろう……俺が一瞬回答を迷った隙に、小早木さんは先に答えてくれた。


「死にました……でも、このように再び生き返りました。」


 自分が死んでいて、生き返ったというのに、金髪男は眉一つもびくともしない。


 奇想天外な話なのはずだが、何の反応もくれない――ということは、やはいこの場所について何か知っているに違いない。


 俺は小早木さんにアイコンタクトで視線を送った後、彼女は肯定するように静かに頷いた。同時に、9の意味する手ぶりの合図を示してくれる。


 “540”


 あと9分か……時間の確認を短縮させるために、ステージクリアの一言が交わせる時間で、彼女と事前に合図を決めたのだ。


 小早木さんはちゃんとやってくれた……でも、動きは大きいな。


 動きが大きいから、金髪男もジェスチャーを見ることができる。俺は反応を窺おうと思ったら、彼は直接「ふん」と冷笑していた。この反応を見るからに、明らかに俺たちのことをバカにしているようだ。


 この態度、この反応、どうにも協力の気配が感じない。


「君、その……名前は何でしょうか?」


「教える必要がある?」なんてとげとげしい態度……


 なるべく自分の偏見に囚わず交流しようと思ったが、最初からそのたいどでいるつもりなら、もうやめたほうがいいだろう。


 それに、仕事がらみでよく聞いたことがある。不良に舐められたら、調子に乗り続けられるだけ。ここは――


「言いたくないなら、直接“お前”と呼ばせてもらいますね?」――強引にでも行こう。


 俺の意志がちゃんと伝わったようで、金髪男は片眉を上げて、「てめぇ……」と言い始めた。


 これ以上時間を無駄にしたくないので、俺はすぐ彼の口調を無視し、名乗った。


「俺は田中太郎と言います。」偽名を名乗った後、彼はすぐ引き攣った顔で睨んでくる。


 さすがに偽名ということがわかるか。でも、小早木さんもそうだけど……もし俺のこの名前が本当だったらどうするんだよ……田中太郎さんに失礼だろう!


 俺が無駄なことを考えている間、小早木さんもこの流れで勢いよく「わ、私は小早木です!」と自己紹介した。


 いけない。まだ余計なことを考えてしまった……さて、どんな反応をするのか?


 俺は金髪男の反応を窺って、しばらくすると、彼はチッと舌打ちした後、やっと渋々に名乗ってくれた。


「……俺はカノウだ。」


 カノウ……偽名――じゃなさそう。


 意外と素直に名乗ってくれた。


 “480”


 でも、残りは8分しかない。彼の返事を待つだけで時間が無駄にされてしまう。


「それで、カノウさん。」


 カノウは返事をしない。目線だけ見つめてくる。


 ふん……不良の威圧なんて、知ったこっちゃない。


「カノウさんはこの場所について、何か知って――」


「知らん。」


 ……速い。質問を聞くまでもない白々しいほど速かった。


「たとえ本当に何が知ってても、お前らに教える義理はない。」


 この話を加えたら、もう確信してもいいくらい。


「……そう。」俺は適当に相槌を打ったが、今度相手の方が責めにきた。


「そもそも、何で俺に聞くんだよ?おっさん。」


「……というと?」


「お前がわからないと思うが、アイツのほうが先に起きた人間だぞ!」カノウは「アイツ」と言った時、小早木さんに指差して言った。


 うん?この流れ……


「いわゆる、第一発見者みたいなもんだ。聞くなら、むしろあの女に聞いたほうがいいだろう?」カノウは堂々と言った。


 この流れは……間違いない。


 カノウは、俺の疑いの指標を小早木さんに仕向けたかったのだろう。


 第一発見者は何らかの工作を施せる可能性が一番高いし、誤魔化す理由も探しやすい。なんなら、自分が犯人ということもありえなくはない。


 実際、小早木さんの行動や反応など、疑われる要素がかなりあるものだった……しかし、こういうのはすでに考え済みだ。


 正直、探偵業をやっていなかったら、俺は動揺するだろう……だが、探偵は警察と同じ、ある程度の証言を信じなければ調査が進まないものだ。


 故に、俺は小早木さんを信じる。


 そもそも、この場合では第一発見者という類似で例えるのはむしろおかしいほうだ。


 明らかに注意を逸らそうとしている。


 ここは……話に乗るふりをしよう。



 “420”


 カノウは指で小早木さんに指しているため、俺は自然に視線を小早木さんに向いた。


 不安げな表情。首も横に振っている。その潤う瞳は完全に「信じないで」って俺に訴えてくる。そして、やはり素直に時間を教えてくれる。


 この素直さを見たら、普通に「カノウを信じてないよ」と告げたかったが……


 すまん。今、アイツにボロを出させたい。


 時間を確認した後、俺は「なるほど……」と悟ったふりに言いつつ、少し小早木さんと距離を取っていた。


 俺の動きを見て、小早木さんは「え?」と、そのまま姿勢と表情までも固まった。


 ……このままだと不安になるだろう。何らかの合図を送ってあげよう。


「一理ありますね。」俺は言いつつ、もう少しカノウの方に歩いて、自然のように小早木さんに「ストップ」という感じに手を挙げた。


 これは、小早木さんだけが知っていること。俺は自分の身体でカノウの視線を遮って、挙げた手のひらを開く、五本の指を立てる。


 5分ということだ。彼女は察しが悪くないから、気付くはず――いや。気付いてほしい!


「……なん、デ?」震える声をしている小早木さんの動きを見て、脳裏に一つの感想が自然に浮かぶ。


 ――うん!これはダメだ。やはり彼女は一般人だ!


「はぁ……なんでって、こういうことを知っていれば、話が変わったんですよ。“普通に”。」


「か……カワッタって!デモ、ワタシハ!」


 俺は彼女が言いたいことより早く、強引に話を挟む。


 “360”


「俺はバカではないんだよ。今まで、散々俺のことをバカにしてきたんだが……」


 カノウの反応が見たいから、俺は身をひっくり返して、二人と同じ間隔の距離に立っていて、続いて言った。


「俺はこう見えて、実は“探偵”なんです。」


「へぇー、人は見かけによらずだな。」カノウは少し意外な表情と意外な声。


 やはりこいつも……俺は自分の推測に確信を得た。


 一方、


「……」変に不自然に口がパクパクしている小早木さん。


 うん。この子はやはりダメだ。


 さっき、小早木さんはちゃんと俺の身振り手振りに気付いてくれた。


 気付いてくれるのはいいけど……演技が下手!さっきの大根役者っぷり、もし俺が強引に話を挟まなかったら、絶対バレる!


 今彼女の表情は驚いている意味で自然に見えるけど……ここはもう一肌!


「まあ、前からおかしいと思っていましたが、彼女が最初に起きたというのなら、全ての辻褄が合います。」俺は言いながら、腕を組んでいるふり、下に組んでいる手だけが小早木さんに見えるよう指示を出す。


 両本の指でXにする。「今は静かにしてて」と。


 彼女はちゃんと察してくれたようで、そのまま口を閉じた。だが、その表情には少し不満そうな感じがする。


「へえ。さすが探偵というべきだろうか?もう何かの見当がついたのか。」とカノウが言う。


「まあな。ある程度の推測ができています、確信はないけどな……」と俺は手を下ろし、仕方ないような感じに肩を竦める。


「なるほどな。じゃあ、今は聞くチャンスだな。どうだ、女?2対1だ。」と、カノウが小早木さんを睨んでいる。


 “300”


 なんか……変に小早木さんに固執しているな。もしかして、本当に小早木さんとなんか恨みとか――いや、そうなると、ある情報と矛盾があるな……


「……」


「おい!ちゃんと自白したらどうだ?女。」カノウは不敵な笑みを浮かべてこう言った。


「おい」と「女」という呼び方……性別……偏見……?あるいは、過去に「女性」と何が悪い経験でもあるのか?そうだとすれば、この態度が納得できる……ちょっと、試してみるか。


「……まあ、そうですね。小早木さん。早く自白してください。何も言わなければ、こっちも困るんです。」こっそり、合図を……


「……ひどいです。」小早木さんは見た後、すぐこう言った。目尻に涙を汲みながら。


 あ、彼女は泣きそうだ……直感でわかる。


 あれは本当の涙。


「二人にして……ひどいです!私はそんなの……していません……!」本当のことを言っているから、彼女は自然に涙を流しながら言える。


 演技じゃないから、罪悪感が……


「何を泣いてんだ。こっちのほうが泣きたいんだよ。わけもわからないまま変なところにいたし、お前も散々バカにされたんだろう?なあ、おっさん。」


「あ、ああ、そうです……」ダメだ。迷ったらバレてしまう。


「おっさん。何迷ってんだ?」


「いやぁ、流石に泣いたらなあ……おっさんには、ね?」今はもう適当に繕うしかない。


 カノウは疑って――いない。



 “240”


 でも俺は改めて認識した。やはり小早木さんみたいな人は苦手だ。


 探偵でも人間だ。情がないわけではない。彼女のこういう感情的な部分は……むず痒い。言い方を変えれば――今とても演じにくい。



 俺は元々続けて責めるつもりなんだが、泣いたら一瞬言葉が詰まった。


「おっさんさぁ……」とカノウはもう一度俺に声をかけた。


 もしかして、演じているのがバレちゃった?俺は内心で警戒しつつ、「なんですか」と返事した。


 だが、カノウの視線は終始俺のほうに向いていない。むしろ、呆れたとも言える。


「いいことを教えてやるよ。女の涙はなー……」


 カノウのこの態度について……俺はもう確信した。


「大体、嘘泣きなんだよ。」ダ、ダ、ダ――


 恐らく、カノウは過去に何らかの経験によって、「女性」に対して嫌悪感を抱いているだろう。


 そのせいで、矛先はずっと小早木さんに狙い定める。


 俺が軽々しく寝返ったにもかかわらず、その矛先は一度も俺に狙ってこない。


 視線、集中力、注目度……全部俺に向いていない。


 でもよ。


 俺もそんなにいい演技ができる人間のわけではない。これくらいの自覚がある。俳優じゃないし。


 だけど、彼は俺のことを信じてくれた……信じてくれた?いや、ただの気にしていなかっただけの間違いだ。


 つまり、カノウは俺が気にしなくなるほどの女性のことに気に食わない。


 この場合は小早木さんにあたるもの。


 当然こういう結論を出すには早いかもしれない。


 でも、


 でも――



 実はこれが彼の演技だとも考えていた。


 実は信じているふりをして、あとで俺をおびき寄せることもこっそり考えていた。


 案外俺が知らない合図で、二人が裏で連絡を取り合っているまでも考えていた。


 だって、合理的に考えればわかるものだ。仮設すれば考えられるものだ。


 考えられる可能性を考え尽くす。そして一つずつ可能性を潰す。一番可能性があることから陰謀論の推定まで――探偵の役目は先入観や偏見に頼らず情報を判断すること、その上で結論を出す。


 つまり俺はちゃんと考えた。


 考えていた。



 じゃあ、


 じゃあ――



 仮に、とある人が自分の罪を他人になすりつけようとする人間がいるとしよ。


 口喧嘩で責任転嫁ができるのであれば、暴力を振るう必要がなくない?


 口頭で解決できるなら、わざわざ手を出す必要ないじゃない?


 ない。そう。ないはず。


 だって、罪をなすりつけるつもりなんだから。


 だって、手を出したらなんでもパーになっちゃうから。


 だって、意味がない。


 こういうのに普通に考えればわかるはずだ。


 なのに――


 なぜだ?


 なぜだ?



 一瞬、疾風怒濤のような、旋風のような、色々な思考が竜巻みたいに脳内に巡り、ひらめき、掠めていく。


 考えている癖がある俺だが、人生初めて、考えるより本能的に動いていた。


 俺は、手を上げているカノウの背中より、先に視線を小早木さんのほうに映す。泣いている顔には何の傷もない。


 当然だ。俺が手を止めたのだ。カノウは小早木さんを殴ろうとした。俺が止めた。そして本気だ。演技ではない。彼の動きを止めるために、相当な力で止めたのだ。


 尻込みしている小早木さんはとてもかわいそうな様子。ガクガク、プルプル……蒼白な面容。暴力が降りかかる前に、カノウが目の前に来るにもかかわらず、逃げていない……いいえ。逃げられなかった。避けられなかった。


 フリーズになっている。本能がそうしていた。


 たまに、ボールが目の前に飛んできそうなのに目を閉じてしまうやつがいる。そして、「何で避けないんだよ」と聞くやつもいる。


 俺はそういうやつが嫌いだ。


 だってやってない人にとって、それは怖いものだ。できないことだ。それを強要するのは道理ではない。


 だから、彼女の行動に対して俺は責められない。責めるわけがない。


 苦手って言っても、良心がなくなったわけではない。探偵と言っても、感情がなくなったわけではない。論理的な思考ができるだけ。


 論理的≠無感情。俺は探偵の前に人間なのだ。何をやるべきか、何がやってはいけないか、ちゃんとわかっている。


 俺は演じることをやめて、明らかに小早木さんに手を上げるつもりのカノウに聞いた。


 彼の腕を握りながら。


「カノウさんは……何をするつもりですか?」


「何って……“自白させる”に決まっているんだろう。」


「暴力で?」


 カノウはあからさまなため息をついた後、


「あのな、生ぬるい方法では人に自白させられないんだよ。」と言った。


 たった一回の経験だけど、この話はどっかの取り調べ室に悪徳警官が言ってたのを思い出した。全然思い出したくない記憶だが……


「小早木さん。」


「は、は……い。」震えている声。今回は怯えている意味で震えている。


「君は何について隠していましたか?」なるべく優しく、なるべく自分が演じているのをやめたと伝える。


「チェック機能の、記録……全部、言ってません、でした……」察しがいいから、気付いてくれる。


「それ以外は?」


 首を横にぶんぶんと振っている。


「つまり、これで充分――」「嘘だね。」話が強引に断たされた。


 “180”


「おっさん。女はすぐ嘘をつく生き物だ。これは演技だよ。」


 まさかここまで思い込んでいるとは……過去の経験はそれほどひどい話だろう。それでも、なおさら……


「カノウさん。」


「あ?」


「俺は、どんな悪い人でも、先に手を出した方が負けだと、思っています。」


 全然聞く気がない様子――いや。聞いているかもしれない。


「……だから?」でも無意味だと感じちゃう。そんな感じ。



 これは探偵の勘だ。


 今のカノウはどうしても自暴自棄の感じがする。過去の経験があるにもかかわらず、同じ過ちを犯そうとする。間違ってもいいと、どうせ失うものはもう何もないという自暴自棄感。


 彼のことが気に食わないけど、放っておけない。主に放っておくと、悪い未来しかたどり着けない予感がする。


 小早木さんといい、カノウといい。この二人が争ってはいけない。これは探偵の勘だけではなく、人としての気持ちも含めている。



 だから、俺はカノウの標的を――


「だから、穏便にすましましょう?」俺は作り笑顔で言う。


 ――自分に向けさせたい。


 1


 2


 3


 ……


 今、残りはあと何秒だろう。途中で数えるのをやめたから、詳しくわからないが……何となく3分切ったに確信できる。


 静寂になる空白の時間は決して長くない。それでも返事を待っている間は長く感じてしまう。


「……いい加減、手を離せないか?おっさん。」


 静寂。


 不穏。


 ひりひり。


 鳥肌。


 この後何が起こるか、推定しなくてもわかる。


「……小早木さん。ゲームの開始時間まであとどれくらいですか?」


「え……あ!」


「……おっさん。俺を騙したな?」カノウはやっと俺の方に向いた。怒る目付きで。


 さすがにここまでしたら、俺が誰の味方なのか理解できるだろう。



 なるべく1分内で解決しよう……暴力の手段は嫌いだがな。



「あ、あと、2分半、くらい――ひ!」小早木さんの声はまるで試合の鐘を打ち鳴らし、俺とカノウは同時に動いた。


 カノウは俺を殴りにきた。


 “151”


 “150”


 不良だからこそだろう。喧嘩のやり方はただ相手に痛みを与えることに主体している。ちゃんとした素人の考え方だ。


 拳や足、一つ一つの動きがあからさまの上に、軸もブレブレ。格闘や武技など、学んだ経験がないのは明らかだ。


 俺は自分の顔面を狙っている拳を避けた後、次も同じ避け続ける。


 “140”


 最初は少しカノウの動きを見て、隙を窺うつもりだ。しかし、人間の行動は常に予測不可能。予想外の出来事が発生するのだ。


 俺は、このことを忘れていない。


「け、喧嘩は……!」小早木さんは喧嘩を阻止しようとした。


 元々殴りにきたカノウが小早木さんに手を出すかもしれないと、俺はずっと両方のことを気にかけていた。


 普通なら、彼女に構う余裕なんかない。だが……


「小早木さんはここを離れろ!」俺は強引に小早木さんを押しのけた。


「はっ!」カノウが冷笑した。カノウは殴りかかってきた。


「あ!あぶない……っ!」


 避けられない俺は、「うっ!」腹にパンチ一発をくらった後、更に追いうちの二発目、三発目の拳を容赦なく背中と顔面に振ってきた。


 いってぇー!だがこれで……


 当然のことだが、小早木さんに構うと俺は隙が生まれる。気が散ると普通に集中できないから。そして、相手も当然この隙で攻撃しにくる。実に合理的だ。


 だからこそ、これは素人の考え方だ。


「な……!」


 ……これで、カノウはちゃんと引っかかった。


 俺はあえて小早木さんに関心した自分が隙をできてしまったという状況を作った。この前ぶりは当然カノウに見せかけるためにやっている。


 多少痛みを喰らう覚悟でやれば、反撃できる。


 俺はカノウの腕を掴んで、そのまま自分の態勢をくるりと後ろに回り、警察から身につけた絞め技で、自身の体重ごとカノウにのしかかる。


 身体が暴れさせないよう、頭突きとかで喰らわないよう、首の可動域をちゃんと手でくっつき、体重はしっかり下半身の方に乗せる。


 喧嘩は、先に相手に行動できなくなるほうが勝ちだ。


 カノウは不意に突かれて、一瞬で俺に制圧された。



 “120”


「もう、スッキリした?」俺はカノウに聞く。


 絞め技はあくまで行動を制限させるもので、喋れないわけではない。


「……くっ!ふざ……けんな!」


 まだ不満のご様子だ。


 こっちは三発のパンチも喰らってるし、少しでも怒りを解消してほしいんだが、カノウの様子からして、全然収まりそうにない。


 むしろ俺に抑えられて、逆恨みのせいで更に興奮が昂っている。証拠は暴れる力がまだ鎮まっていない。


「あ、あの……田中さんは、大丈夫ですか?」恐らく俺が三発のパンチを喰らっているから、小早木さんは心配な様子で聞いていた。


 口の中に鉄臭いの匂いがする。決して大丈夫ではないが……


「まあ、大丈夫です。痛いけど、そんなにひどくない。でも今は近づかないでほしい。」何かの力によってもっと暴れるかもしれないし……それに、俺はあくまでカノウと比べて小早木さんを信じているだけだ。


 つまり、彼女のことを信じ切っていない。


 もし手を組んでいるなら、彼女は何をしようと思っているなら、今は好機だ。たとえ陰謀論だとわかっていても、本心で心配してくれていても、こういう最低限の警戒心を解くつもりはない。


 この考え方は、“いつの時代”でも変わらないはずだ。


「……わかりました!」小早木さんは言われた通りちょっと距離のあるところに見ていた。直感だが、たぶん彼女は俺と同じ思惑だ。


「でも、時間は教えてください。」


「あ、はい!今残り……1分半!」


 はは……ちょうど一分か。


 “90”


 力を抜けないために、俺は力を入れ直して、もう一度カノウに聞く。


「ではカノウさん。そろそろ教えてほしい。ここはどこですか?知っていることは全部教えてほしい。」


「……教えるもんか!」カノウが締められたままに言う。


「せっかくのチャンスだ……教えるもんかよ!」


 意識していないだろうか、それとも元々の自暴自棄の由来だろうか。元々わかってはいたが、この言い方はほぼ自分の罪を認めるに変わりはない。


 前も分析していたが、カノウが(聞こえは良く言えば)果敢で行動派の人間だ。こういう行動派の人間は、やけくその気持ちになれば、簡単に自白と似たようなことを言い出す。


 普通の対応ではいけない。彼の口を開けるには親切に接してはダメ……だから、「弱みを突く」しかない。


「カノウさんは辛い過去があるかもしれません。だが、ここは協力しなければ――」


「お前に何がわかるんだ!俺の何かわかるんだ!」激しい反応。


「わかるさ!女が嫌いだろう!女に騙されたことがあるだろう!嫌になるほど女を殴りたいだろう!」特に確信のない推測だが、想像がつく話だ。


 推測が正しかったようだ。カノウの反応は激しくなった。


「ならば俺を阻止するんじゃない!」


「だからこそ阻止するんだよ!一度の経験があるなら、同じ過ちを犯すな!」


「同じ過ち……?」こういって、カノウは嵐が来る前の前兆のように一瞬動きが止まった。


 同時に、小早木さんは俺に身振り手振りで何かを伝えてくれた。


 “60”


 ゲームが始まるまで残り1分……


「……だったら、なんでアイツらが同じことをしていいわけ?」

「なんでアイツらは平然と関係ない人に暴力を振えるわけ?」

「俺は反抗しただけだ!」

「先にやったのはアイツらの方だ!」

「なのに!なんで俺ではなく、家族に手を出した!」


 正直、カノウは何を言っているのか、俺ははっきりとわかっていない。だが、彼は「憎い誰かが」と混同しているのは明らかだった。


「あの女は俺の前に全部言った!」

「ゲスの笑いをして、『全部俺が悪い』だと!『これは社会のゴミを掃除するため』だと!全て!俺の反応を見るために!そして、最後は家族までに手を出した!」

「ふざけんな!」号泣とも言える叫び。その声に悲しいと怒りの感情が含めている。絶望までも感じてしまう。


「……悪いのはアイツらだろうか!なんで反抗した人は責められるんだ!」

「……女は全部、同じ存在だ!」

「……だから、俺を止めるな!」


 ここまで言ったら、カノウは何に対して怒っているのが何となくわかった。その激しい思い込みも、怒りの矛先も、何でずっと小早木さんに向かっているのもわかってきた。


 要は、八つ当たりだ。


 カノウは反抗の力が小さくなっていた。気晴らしのように脱力の感じがした。しかし、安心したわけではない。


 人間の行動は予測不可能だ。実はこれは油断させるための行動だったりありえなくはない。だから俺は同じ態勢を保って、話しかけた。


「だったら――」と俺がカノウの間違いを指摘しようとしていたこの頃。


「……だったら、私を殴れば、カノウさんは気が済みますか?」小早木さんは突然わけのわからないことを言い出してきた。


 小早木さん……?!目を見開いて、小早木さんを見ている。彼女の目的は次の話でわかった。


「もう説得する時間がありません。」小早木さんは三本の指を立てていた。


 3分は特に過ぎていた。これは、


 “30”秒


「私は、カノウさんのことがわかりません。あの女というのも誰のことなのかわかりません……」

「ですが、女に対して、良くない思い出があるのはわかっていました。」

「もし私を殴れば気が済めるなら、私は“女として”、受け答えます……その代わりに、私たちと、協力してください。それはどうか……」決意のある目。小早木さんは動揺しそうにない。


 俺は小早木さんの言動を目にして、改めて認識した――人間の行動は本当に予測不可能だと。


 俺は元々カノウに指摘するつもりだった。小早木さんのことをよく見ろと。


 しかし、小早木さんは俺と真逆なことをしていた。“女として認識してもいい。ただし、私は君と知っている女ではないだ”と。方法は違えど、目的は同じ。


 つまり、もう一度君の目の前の人への認識を正してほしい。


 正直、かなりリスクのある方法だった。相手はある程度の理性がないと悪化してしまうだろう。その結果も後に知れる。


 “15”


「田中さん。カノウさんを離して。」


 “14”


「あ、ああ……」だが、俺は元々驚いているあまり、半分も力抜けていた。


 カノウは易々と俺を押しのけて、立ち上がる。


 “13”


「……この――」


 “12” 


「嘘つきが!」


 “11”


 カノウは小早木さんに向かって歩き出した。


 “10”


 目の前に近づくと、カノウは手を上げた。


 “9”


 小早木さんは覚悟して、目を閉じた。


 カノウの拳は――


 “8”


 “7”


 ……


 “1”


 “0”


 “それでは、ゲームを始めましょう”


 ――ゲームが始まっても、振ることはなかった。


「くそ……くそ……!」



 カノウは、過ちを犯さなかった。



 ……


 “ステージ:7”


 “おめでとうございます!”


 “ステージ7クリアしました!”


 “ステージ:8”


 “おめでとうございます!”


 “ステージ8クリアしました!”


 “ステージ:9”


 “おめでとうございます!”


 “ステージ9クリアしました!”


 ……


 “ゲームステージをクリアしたプレイヤーは、ご褒美を選ぶ権利があります!”


 “1.残機数を1体増やす(上限:3体まで)、現在の残機数、残り:3 (上限に達しました)”


 “以後、上限に達した残機数は減らすまで、1.のご褒美はご褒美として機能しません……でも、選べます!”


 “それでは、無駄な選択を選ばないようお気を付けください!”


 ……


 “600”

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