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ステージ:7~9?

 俺はカノウ。


 カノウ ライト。


 昔の言葉で言うと、荒野に光を照らすと書いて、光野かのうと呼ぶらしい。


 こうやのひかり。これは俺の名前の意味。


 正直、自分には似つかわしくない名前だと承知の上だ。


 それでも俺は、なるべくこの名前を名付けてくれた人に恥をかかせないよう生きているつもりだった。


 ……


「おい!カノウ!お前、先生の言うことを聞かないならまだしも、女子生徒までにも暴力を振るったのか?!」それは、一人の先生に“指摘された”ことから起きたことだった。


 ことの発端は、とある女子生徒の告発だった。


「はあ?!そんなことをやってねえって!」


 “「うわぁーまたカノウかよ……」”


 “「本当、昔から喧嘩ばっかりするんだよなぁ……」”


 “「嫌いだわ、ああいう“不良”は……」“


 “「迷惑ばっかり……」”


 教室中の他人の戯言は耳に届いている。


 だが、そんなのどうでもいい。


「先生と一緒に教務室に来い!」


「だから俺はやってねえって!」メガネの先生に引っ張られそうになると、俺はすぐ抵抗して、その手を振っていた。


「クッ!貴様!反抗する気か?!」


「どうとても言え!やってないことについて行く必要がないだろう!」


 俺は先生に掴まれないよう後ろに何歩下がると、後ろの方向から――廊下から、一人の女性の小さな悲鳴が聞こえた。


 その聞き覚えのある声に、俺は廊下のところ、半ば老朽化した自動ドアの近くに目をやると、二人の女子生徒がそこに立っていた。


 一人は、見覚えがある子だ。


「……あ!お前!あの時の――」俺はその子に一目を見ると、少し嬉しくなった。俺は彼女に何が言って欲しかった。何が良いことを言ってくれないかって。


 この学校では他のハイテクのと違って、まだ「昔の記点制」の制度が残っている。


 だから、掴まれたら本当に面倒くさい。


 だから、言って欲しかったんだ。


 でも、


「きゃぁー!ち、近づかないで!」彼女はすぐ怖がっているように俺のことを止めた。


 ビビっているように、怖がっているように、自分の顔を隠し、守っているように身体の側面だけ向いてくる。


「え……?」背筋がゾッとした。


 今まで、こんなことがなかったから。それに、嫌な想像が浮かんできた。


「な、何言って――」


 俺はただ近づこうとしたが、隣にいる子がすぐ横入りした。


「近づかないでって言ったでしょう!」


 隣の子はまるで俺がとんでもない悪い事をした感じに、俺に近づかないように両手を開いてあの子の前に阻む。


「はあ?!」思わず眉をひそめる。


 最初は俺が動物の世話をするところが見られてしまった。そのせいで(おかげで)、あの子と関わった。その次の日、また次の日も……


 正直俺は、あの子――「あの女」を“友だち”だと思っていた。


「下がれ!カノウ!」俺は先生に乱暴に掴まれて、強制的に距離を取らせられた。力の成り行きで地面に尻込みをしてしまった。


 俺は先生の力に反抗できないわけではない。ただ先生の次の話に気を取られてしまった。


「何でしたっけ……たしか、“私に告白して、拒絶されたから、暴力を振った”、でしたね?」


「は、はい……私は彼のことを、“ただの友達だ”と思っているから……でも、彼はしつこくて……それで、私に……うう!」この時、俺はまさか女の涙がこんな簡単に絞り出せるとは思わなかった。


「……はあ?」寒気。


「な、泣かないで!サンドちゃん!」鳥肌。


「サンドさん……普段大人しいから、先生も心配したんだが、友達の付き合いとか、ちゃんと人を選びましょう?な?」なんだこの先生は?


 “うわぁ、最低!元々素行不良なんだし、まさか素性まで……”“本当最悪……なんでこいつと同じクラスなんだよ……”“人間のクズ……”同時に、周りの戯言も嫌になってくる。


 同じクラスメートの囁き、先生の態度、横入りする自分が正義だと思っている女……そして、地面に座り込んだ俺だけが見える……あの女が吊り上げた笑顔。


 まるで、“私の告白を受けなかった君が悪いよ”というように、気味悪い笑顔。


 俺は、我慢できなかった。


 俺は、やってしまった。


「このクソ女がああぁー!」


 ……


 ……


 一ヶ月後。


 家。


「はい……はい。そこはなんとか――はい……退学……ですね。はい……わかりました。伝えて……おきます。」


 プツ


「アナタ。学校のほうは……どう言ってた?」


 今にも鮮明に覚えている。親父の目に何も映ってないような、怒鳴る気力もなくなっているような、全てを諦めた目……


「と、父さん!これはきっと、何か誤解があるはずです!兄さんはそんな――」


 親父はただ、無力に手を挙げて、妹の話を止めた。その次に、俺に言ったのは――


「カノウ……」


「……はい。」


「お前もわかるはずだ……たとえ、本当になにか誤解があっても、あんな状況で手を出したら、もう……」


 終わる。全てが終わる。今は嫌でも、心に刻まれている。


「お前と……縁組みしたのは、間違ってたかもしれないな……」


「……アナタ!」「父さん!」


 “「カノウ。お前はこの家から、出ていけ……」”


 ……


 ****


 ”600”


 ……


 ペタっと。一瞬、暖かいものに触られた気がする。


「きゃっ」それは女性の声。


 う、うっ……なんだ?


 身体は少し鈍い気がする。そして、頭痛もした。


 俺は自分の身体の異変に気付いて、ゆっくりと動かそうと、できなかった。だから、しばらくそのまま自分の記憶を探っていた。


 昨日はたしか、じじいと酒を飲んで……ああ、これはもしかして、「二日酔い」というやつ?


 “な、なに……ここ……それに、なんなの、これ?”“お知らせ……?”女の声がまだ続いている。


「……っ」身体は、まだ動かせそうにない。


 重い。意外に重い。二日酔いは、こんな感じなのか……?なんか違和感が……


 “触れない……”“何なんだろう……これ。”


 ……うっせぇな。


 身体はまだ動かせそうにない感じだが、俺は少し女の声に苛立ってきた。そもそも、俺は女に対していい思い出がなかった。


 “パソコン……?”


 っていうか、なんだこの声……もう女の声で喋るな!


 “え?!”


 “え?!え?!何なの?!”


 うぜぇー……ああ、腹が立ってきた。


 俺は少しずつ、怒りによって体を動かせる感じがした。どうにか動けられるような気配がした。


 “え?待って。これ……まさか、時間なの?!”


 ああー


「……ーるっせぇな!」大声を出しながら、俺はやっと、身体を動かせた。


 “170”


 すると、「ひゃぁ!」と、また女の声が聞こえた。俺はとりあえず女の声を無視して、まず自分の拠り所に注目した。


「……なんだここは。スラム街の倉庫じゃ……ないらしいな。」怪しい空間、この一言に尽きる。


 だが、目に入った範囲では、俺は三つのものに気を取られる。


 旧式のガラス画面。旧式の調査機。更にアレは……骨董品だろう?俺は一度、じじいのところに見たことがある。アレはたしか――俺は一瞬思い出そうとしたところ、女が邪魔しにきた――声をかけられた。


 “150”


「あ、あのー……」おどおどしている女があの骨董品の前に立っている。その声も若干ベタベタな気もする。


 いや、そもそも、肉声している時点で気に入らない。「あの女」の姿と重ねてしまう。


 というか、今気づいたんだが……俺、“スーツ”を着ていない。外着だけ着ている。どうりで動きが鈍いわけだ。


「……おい!女!」


「な、なに……?」ビクとした驚いた姿。


 “120”


 不快だ。どうしても演技みたいに見える。


「俺の“スーツ”をどっかに持っていたんだ?盗んだのか?!あん?!」


「す、スーツ……?し、知りません!そんなの……!」涙を堪え、泣きそうな声。すぐにでも自分の口を隠そうと顎の近くに挙げているその手……


 俺はすかさずその女の付近に近づいた。


「嘘つけ!お前が隠したんだろう!」


 特に確証はない。だが、女はすぐこうやって騙そうとしているに決まっている。


「か、隠してませんし……そ、そもそも、何の様子なのかもわかりません!」まるでぐっと、俺の態度に気に食わないようで、毅然とした態度に変わり始めた……涙を咥えながら。


 ホントウ、女はすぐ泣く。だが……


 “90”


 ……口答えはいいし、様子からして、嘘ついてない感じもするが。それでも、気に入らない。いや――


「じゃあ、ここはどこだ!答えろ!」――これはきっと、演技だろう。


 最初に起きたやつ、女、気絶している、それぞれの状況から考えると、これは紛れもない誘拐の事件だろう……


 つまり、こいつがくそくらえの話だ――俺がもう一歩近づくと、


「だ、だから知りませんってば!」と女はすぐ俺を避けて、俺が全然気付かなかった床に横たわっている人のところに駆けつけた。


 一瞬その人に気を引き取られて、自分が手を出そうとしたことが忘れてしまった。


「あ……?誰だそのおっさん?」見た目から見た感じ、「じじい」と同じホームレスみたいな存在だった。


「し……知りません。」


 この答えばっかり。でも……


 自分の脳にじじいの様子が浮かんできた。スラム街ではかなり世話をされていたじじいのこと、あの人もホームレスだった……だから、俺はホームレスのことに対して、あまり悪い印象がない。


 いや、むしろ――俺は自分の感情をあらわにしないよう、一瞬自分の目線を下に伏せる。


 それで、


 “70”


「あっそう……」再び女の方に注目し、返事する。


 女は返事しない。ただただ警戒している様子。気に食わないが、まだ危害を加えるつもりじゃないようだ。


 ここは少しの情報でも……俺は女の動きに注意しつつ、骨董品の近くに歩いた。もしかして、何かの手がかりがあるじゃないかと考えていた。


 また、その骨董品に何が映っていないのかという意思もある。


 しかし、近くにいると、


「な、何も触んないで!」あの女に止められた。


「あん?これはお前のもんか?」と俺は骨董品を指して言った。


「ち、違うけど……ただ、この人にも……知らせておきたいと思うから。」女は近くに横たわっているホームレスのことに指して言った。


 ふーん……


 嘘、ではないらしい。


 “40”


「じゃあ、ここの調査設備はいいだろう?見た感じ、ボロ屋からの旧式の『調査機』だし……」ここはどこなのか、これで調べられ――と俺がそう思う途中、女の話に気を取られた。


「あそこに……何があるの?」


「ああん?う――っ」と俺は“嘘を言わないでくれ”とかいうつもりだったが、すぐ自分が考えついたことに言葉が詰まった。


 この女……もしかして「調査機」のこと、見えないのか?


 そんなことある?俺はすぐ自分がふと思いついたアイデアに、試しにやると決めた。


 こっそりと……


 彼女は俺の動きに敏感になったようで、すぐ口で止めにきたが、俺は次の言葉で確信した。


「と、とにかく、この人が起きる前に、あのパソコンを触んないで!」


 ……ああーそうだ。この骨董品の名前、「パソコン」だった。そう思い、俺は女の目線を確認しつつ、こっそりと――いや、今度こそ、“正々堂々”に――


「じゃあ、『約束』するか……パソコンには触んない。ほら、この通り――」と言って、


 ウェートレスみたいに手のひらに「調査機」を持ち上げ、煽るように皿を置く感じで腹の前に出す。


「――触っていません。」


 “30”


 女は俺の動きに戸惑っていたが、それでも「わ、わかっているならいいんですが……」と答えた。


 やはり!女は俺の手に持っている「調査機」のことが見えない。俺は確信した。


「……んで、早く起こしてみたら?」俺はこう言いつつ、直接彼女の目の前に「調査機」を起動した。


 次の瞬間、俺は自分の身に起きたことに目眩をした。


 “20”


 ――「そんなの言わなくても――」という女の声を無視して、


 ――まるで抜け出たものが返ってきたように、全ての記憶が脳裏に流れ込んでくる。色んな情報、今までのこと……そしてここにいる“経緯”。


 身体はまるで電流の刺激を感じたように一瞬震えていた。


 俺は全てを、思い出した。


 ****


 全てを――


 “「家族を救いたいんだろう?坊ちゃんよ……」”


 ――思い出した。


 **** 


 ……


 あのじじい――!


 脳裏に湧き上がる記憶に憤慨しつつ、次に聞こえたのは、「ここは……?」という一人のおっさんの声だった。


 聞き覚えのない声から察して、もうあの倒れているホームレスの声に違いないだろう。


 だが俺はもう……こんなところにいられねえ!


 もしあのじじいの話は本当なら――


 “それでは、ゲームを始めましょう”


 ――こんなゲームなんか、すぐクリアしてみる!


 ****


 *“それでは、ゲームを始めましょう”


 “ステージ:2”


 *“お人形ちゃんをゴールまで運びましょう”


 *“残機数、残り:1体(上限:3体まで)”


(*:以後、同じ内容のメッセージは略します)


 “ゴールまであと25メートル”


 ……


「今回、舞台はちゃんと変わったらしい!曲がり角、あとバケツがあります!……というか、断層があるのに……板がない?!」


「田中さん!あの……断層の下に、消火栓があります!」


「え?!」


 ……


「……本当だ!」


「た、試しに操作してみますね!」


「おうー!」


 ……


「――こんな水の出し方はないだろう!ちょ、ちょっと待て……まさか?!」バケツを水柱の上にかぶると――


「……こいつ!物理法則を無視しやがった!」とてもシュールな景色。ぬいぐるみは水の上に歩いていた。正確には、バケツで塞いで通じた「道路」だが……それでもおかしい話だ。


「なんか、古いアニメ風のギャグっぽい……」


 ……


 “ステージ:3”


 “ゴールまであと12メートル”


「今回は何もない――いや!罠がここで出始めやがった!」


「こ、こちらは何もできません――」


「どうすれば……いや、どうするもなにも、こうなったらもう仕方ない!うおおおおお!」


「田中さん――っ!」


 ……


 そして、俺たちはやっと、なんとか罠の部分を乗り越え、このステージ3をクリアすることに至った。


 ここは前のステージと比べて、少し一息が入れる時間があった。それでも短い時間だった。


 その原因は――


 “ゲームステージをクリアしたプレイヤーは、ご褒美を選ぶ権利があります!”


 “ぜひ次のステージに行く前に、ご褒美を選びましょう!”


 “30”


「……ご褒美?」小早木さんから、すぐご褒美のことを伝えてくれた。


 俺が死んだから見えないか、あるいはまだほかの法則性があるのかわからないが……


 とにかく、今はそんなことを考える場合ではない。


「は、はい!どうやら、このステージをクリアしたら、ご褒美がもらえるらしいです。ちなみに、あと25秒くらいです!」


 考える余裕がないな……簡潔なことを聞こう。


「何があります?」ここは無理やりでも……


「ええと、三つの内容がそれぞれ――」小早木さんはご褒美の内容をそのまま伝えてくれたが、簡単に20秒くらいの時間がかかってしまった。


 でも、これなら無理やりでも、結論に結びつける!


 “11”


 “10”


「どうします?田中さん。残りはあと10秒です!」


「とにかく、『時間』だ!『休憩時間』がほしい。このままだと話し合う時間が無くなります。」俺はすぐ自分の要望を伝えた。


 このままゲームをし続けると、間違いなく精神が崩壊しちゃうものだ。疲れが溜まりやすいうえ、死の記憶が……


「わかりました。でも、いいんですか?願いの部分はさっき伝えた通り――」彼女の心配がわかる。恐らく、叶えられないことを考えているだろう。


「大丈夫だ!俺の推測が間違っていなければ、この願いはかなえられる……」はず……俺はあえてこの言葉を伏せて、確定の感じに言った。


 今の彼女には不確定な言い方を避けたい。もう迷う時間がないから。


 “3”


「わかりました!そうします!」


 “2”


「ご褒美は、3!」


 “1”


「休憩時間がほしいです!」


 “0”


 彼女がそう言い終えた後、


 “あなたの願いは叶えました”


 “どんなゲームを遊ぶとき、ぜひ30分に10分の休憩時間を取ってください!”


 “休憩時間:600”


 新しいメッセージが出てきた!


 ……


 これらのメッセージの内容を見て、俺と小早木さんはとりあえず一安心した。全身の力が抜けて座り込んでいた。


 同じ動きをしていたから、俺と彼女は一瞬目が合って、なんか心が通じ合うように、同時に脱力な笑顔を出していた。


 戦友……それとも仲間、という感じなのだろう。とにかく、色んな感情が心に湧いてくる。そして、それが支えになる。


 ほぅ……


 俺は十数秒ボーとしたが、すぐ自分にしっかりさせる。


 まだ安心する場合ではない。今はあくまで簡単な休息と立て直す機会をもらっただけ。油断したらきっと……


 俺は小早木さんに視線を送った後、彼女は一歩遅れて気付いたが、俺が何をしたいのかすぐ察知してくれた。


「今までの情報をまとめましょうか?」


「ええ。そうですね。」


 俺と小早木さん五分間をかけて、情報をまとめてみた。


 ・ステージをクリアすると、次のステージに進む。その間の時間は約10~15秒など。俺が死に戻される時は大体この時間帯だ。


 ・また、ステージを進むたび、舞台の仕様も複雑になりつつある。物理法則なんか無視しているように見えるが、変なところにこだわりがあるらしい(例:ぬいぐるみの重量など)かといって、完全にそのように作られると言ったら違う。


 小早木さんが言うには、たぶんクリアさせるために、あえてこのように作られているということ。証拠は、昭和アニメ風のこと……正直、証拠として薄い気がするが、彼女はなぜか確信で言える。まあ、今はこう考えるしかない。


 ・メッセージの制度はまだ謎のままだ。どうすれば共通するのか、共通しても、人それぞれの内容が同じく見えるのか、ここら辺は何もわかっていない。そして、“チェック機能”という能力があれば、彼女専属のメッセージが届いてもおかしくないはずだ……俺はそう考える。


 ・俺たちの推定では、ゲームステージ三回をクリアしたら、ご褒美は一回もらえるという感じ。今は一回の経験しかないから、このように仮定するしかないが……


 この休憩時間では、小早木さんはチェック機能をいじっているため、内容から見ると、俺たちはすでに「二回目」のご褒美だったらしい。


「――つまり、三回に一回という仮説はここで崩れるはずですね……」


「いいや、田中さん。チュートリアルステージは別として換算したほうがいいかもしれませんよ。」


「どうしてですか?」


「どうしてって……だって、チュートリアルはその名の通り、教えるためのものですから。“このゲームにはこういう仕様がありますよー“という意味を込めてのものです。だから、ご褒美もそうだと思いますよ。」


「なるほど……でも、そうだとすると、どうして一回一回クリアしたら、ご褒美はもらえないでしょうか?」俺が貪欲な人みたいに聞こえるが、これはただの単純な疑問だ。


「え?それは私に聞いても……」小早木さんはただ困っている様子で返事した。


 それはそうか。ゲームを作る人でなければ、知ってもおかしい。


「でも、あの不良なら……」と小早木さんが手を顎につけてこう言った。思慮深いの感じに。


「小早木さんもそう思いますね?あの……不良が何か知っていると。」少し不良の言い方にためらっているが、結局言ってしまった。


「ええ。言い方とか、あと、田中さんが起きる前に、少々会話を交わしたから、彼の動きとかにも何となく……」


「なるほど。会話の詳細内容はまだ覚えていますか?」


「うーん……」少し考えて、小早木さんはただ苦笑いをして、首を横に振った。


 さすがに詳細の内容まで覚えていないよな……話せない事情とか――じゃなさそうだし。


「気になる点は?」


「うん。やはり動きですね……どうしても違和感を感じちゃいます。」


「そうですか……じゃあ、やはりパソコンのほかに、俺たちには『何か』が見えないものがあるでしょう。」俺はこの考え方が一番合っている気がする。


「ええ、そう考えるしかありません。」


「なら、当分の目標は、『あの男を復活させること』なんですね。そのためには、『残機数を減らさず』、ステージ6までクリアすること。ですね」


「はい!そうですね。」


 チェック機能も確認できたし、そのご褒美の内容から見て、もう「残機数を増やす」ことで間違いないはずだ……あと、小早木さんのその“チェック機能”はやっぱりパソコンでいじるものだ。


 余計なことだが、彼女のメッセージはやはり「メール形式」でくる感じだろう……うーん。だとすると――


「では、あと3ステージです!心の準備をしましょう!」


「はい!」


「あ!ちなみに――」――ご褒美に関わることだから、俺はここでふと思いついた……ふりをした。何より、ご褒美の内容について気掛かりな部分がある。


 ゲームステージをクリアした“プレイヤー”は、ご褒美を選ぶ権利があります……と。


 もし彼女は内容をそのまま伝えた通りであれば、この内容の中の“プレイヤー”というのは、きっと俺たちのことを指す言葉で間違いない。


 しかしこうなると、一つ気になる部分がある……


 俺が数え間違っていなければ、今の時間帯はもう60台になっているはず。小早木さんの意識を切り替える時点、この時点で一番警戒を下ろしやすいだろう。


 つまり、予想外の疑問に突かれる時、彼女はどんな反応するか、今が一番調べやすい。


 “60”


「うん?」


「ちなみに、その“ご褒美を選ぶ権利”、一体どういう仕様なんでしょうね?」


 俺は見逃さなかった。


 彼女はこの問題を聞いた瞬間、引き攣ったように止まっていた反応。


「……え?という、と?」強張った表情。前の反応と比べて、戸惑うというより、明らかに「何か」を知っている反応だ。


「まあ、例えばの話なんですが、メッセージには“ご褒美を選ぶ権利”って書いてあるでしょう?

 なら、“ゲームステージをクリアしたプレイヤー”は、捉え方によって、それは実は“個人のプレイヤー”しか該当しませんという意味に聞こえるではありませんか?

 現に、そのご褒美の内容は小早木さんしか見えませんし……選んでいるのは小早木さんです。」


「あ……ああ!確かに、そんな感じに……捉えられますね。」目が泳いだ。


 俺はもう一度考えるふりをして、彼女の反応に気に留めつつ、次の話を告げる。


「では、仮にそうだとすれば、ご褒美の権利はどういう風に――つまり、どういう基準で選んでいたのでしょうか?ステージクリアの貢献?それとも、全員選ぶ機会がある?ここら辺、小早木さんは気になりませんか?」


「s……さあぁ、シリませんね」“s”からの気音、加えて、固い表情と棒のような口調。目も明後日の方向に飛んで行ったし……これで、明らかになったな。


 というか、この子、とぼけ方下手くそ……


 正直、明確な証拠はないから、直接指摘するのは酷だと思うし、今の関係性を傷つけたくない。何より、彼女は悪意があるとは思えない。


 ここは、知らないふりをするのが一番大人の対応だな。


「……そうですね。小早木さんは知るわけがないですよね。」


「そ、そうですよ!お、オホホホホー!」


 やめろ!その明らかに不自然な笑い方!


 “1”


 “0”


 ……


 そして、これからのことは、簡単に説明するとこういうことだ。どれも新しいものが出てくるものだった。


 “ステージ:4”


「なっ……!窓が浮いている――というか、裸体のおんnっ」


 ぎぃ、ぎゃあぁあああああぁああー


 あれは、カーテンは小早木さんに締められる前に、とんでもない叫び声だった。必ず、二度と経験したくない断末魔である。


 “ステージ:5”


 ここはお人形ちゃんの速度が速くなった仕様だ。正直、びっくりした。毎回どうにか障害物の前にギリギリで乗り越えた。


 “ステージ:6”


 交通信号、下水道、傘……最後は風船でわけのわからない飛び方でゴールに。


 本当に、色々な想像を超える、おかしいステージばっかりだった。


 死ぬたびに、元の空間に戻されるだけだから、死の経験を何度も得られた。珍しい体験だが、全然嬉しくない。だが、残機数を減らすよりまだいい。特にチェック機能でわかったが……やはり、ゲームが失敗すると死ぬものだ。


 だから、乗り越えてきた。


 だから、頑張り続けるしかない。


 これを越えたら、“休憩時間”だ。


 “おめでとうございます”


 “ステージ6をクリアしました!”


 このメッセージを見て、俺と小早木さんはお互い見つめ合った。


 笑い出す。戦友みたいに、仲間みたいに、相手の手をペシと叩いた。


 “ゲームステージをクリアしたプレイヤーは、ご褒美を選ぶ権利があります!”


 “ご褒美は、以下の三つ通りです!”


 ……


 そして今回、俺もご褒美の内容が見えるようになった。


 今回見えるようになったのは、俺が死んでいなかっただろうか、あるいは――


「お。今回、俺もご褒美の内容が見えますね。」俺はメッセージを見て、わざとらしいに言った。


「あ、あ……うん!それは、ヨカッタですね!」小早木さんは言いながら、明らかに何かをいじっている。


 たしかあそこはパソコンがあるだろうな……


 やはり。



 やはり小早木さんは、“チェック機能”について隠し事があるな。


 なんで俺はこう考えられるのか、自分の思考を整理するために、小早木さんの反応を観察しつつ、脳内にまとめてみた。



 小早木さんのこの反応に、俺が考えるに四つの点と繋げられる。証拠はないから、考えすぎかもしれないが、裏付けのこと、また反応からすれば、図星かもしれない。


 とりあえず、これらの点はこうである。


 ・彼女の長々とした自白にはこう告げていた――“全てのメッセージをチェックしたからこそ、考えすぎて……”のこと(デスゲームに結びつけること)


 ・時間のことは一つ矛盾がある(これは可能性としてまだ薄いが、推測の材料として考えていた)


 ・チェック機能のことに隠し事がある。主に“手で触ろう”としている点が……(これは可能性として一番高い)


 ・ご褒美を選ぶ基準(この推論に補佐できること、同じく推測の材料)


 これらのことを考えれば、一つのことが明らかとなる。


 それは、小早木さんは“チェック機能”について隠し事がある。その隠し事は恐らく、ご褒美に関すること、あるいは、他に“重大なこと”なのだろう。



 前も考えていたが、人間は死と直面する間際に、ほとんど嘘をつけられない……当然、反応も同じだ。


 小早木さんは察しが悪くない。むしろ俺と似たような気質の持ち主だ。


 では、これを元に考えて、俺は一つ気になるところがある。


 それは、小早木さんの自白と、後の行動では一つの矛盾点がある――「小早木さんがチェック機能に手で触ろうとしていた」


 では、こうなると、自然に一つの疑問が浮かぶ。


 なんで、彼女は手で触ろうとしているんだろう?


 これはあくまで経験上の話だが、人間は同じ過ちなど二度としたくない生き物だ……混乱な状態ならなおさら。


 だって、混乱な状態だからこそ、危険に遭う時、本能的に無駄な方法を排除したがるものだ。


 俺は色んな人を見てきたからわかる。経験上によって、人はパニック状態に陥った時ほとんど四種類の反応に属する。


「戦闘」、「逃走」、「へつらう」、「フリーズ」……


 最初は小早木さんが「逃走」に属する行動をしていた。悲鳴、見えない壁とぶつかる、どっかに行こうとする行動は、「逃走」に属するに間違いない。むしろこれが逃走でなければ何が逃走だということになる。


 では、次に小早木さんが危険に陥ってやっていたのは、「戦闘」に属する行動、助けを求めていた。何かしようとする意志、現状を解決しようとする打開策を求めること、これは「戦闘」する意志があるに違いない。


 この状態を元に考えて、小早木さんは俺に助けを求めた後、俺のアドバイスを聞いて、次に取っていた行動は――「本能的に」手で触ろうとしている。


 もちろん「本能的に」は俺の直感だから、確証はないが……間違ってはいないと思う。


 そうなると、小早木さんは一度手で透かしていることにわかっているのにも関わらず、もう一度手で触ろうとしていた。


 つまり、これはもはや極度な混乱状態なのか、あるいは、彼女は手で触ろうとしていることに、「すでに成功の経験がある」のか、この二択としか考えようがない。


 当然経験上の話だが、もう一度考える。人間は同じ過ちなど二度としたくない生き物だ……混乱な状態ならなおさら。「逃走」失敗したから、「戦闘」する。


 だから、小早木さんは本能的に手で触ろうとしていることに、俺は直感で後者だと判断した。小早木さんは実は「成功の経験がある」と。


 それに、このことに裏付けることもある。


 彼女の長々とした自白にはこう告げたことがある。


 “全てのメッセージをチェックしたからこそ、考えすぎて……”と。


 もちろん、小早木さんは決して察しが悪くない。察しが悪くないが……だからと言って、全てのことをこれで解決できるわけがない。


 小早木さんが、「デスゲームに結びつける」理由はまだ薄いのだ。


 なぜ、彼女はあんなメッセージの内容で、デスゲームに結びつけるのか


 なぜ、彼女は小さなことで、考えすぎてしまうのか


 つまり、その“全てのメッセージ”は、本当にあれで「全部」なのか?と


 一つ一つ、気になるものだ。


 だって小早木さんが言うには、あの時は決して混乱な状態になっただけで済ませない状況だ……小早木さんが考えすぎられるような内容は、あれで「全部ではない」はず。「判断力」と「推測力」が所持していたのだ。


 だから俺は、“チェック機能”と何か関係があるじゃないかと考えていた。


 そして、この考えに結びつける一番有力なのは二つのこと。時間の矛盾と、ご褒美の内容。


 ここは不思議な空間だ……そのチェック機能というやらは、案外「この空間にあった記録」は、全部見られるんじゃないのか?と、これは俺の直感が感じたこと。


 重大すぎで伝えたくない。意味がないから伝えるまでもない。個人的な願望は後者だが……俺は休憩時間に小早木さんと情報をまとめている時、少し探りを入れてみれば、どうしても前者だと感じる。


 彼女の善意に嘘の雰囲気が感じられない。故に、その重大さが感じられる。


 次第に、俺はこの考えが浮かんでくる。


 このゲームを知っている人間は、本当に「俺たちだけなのか」?


 ……


 まあ、所詮、自分のぶっ飛んでいた推測だ。案外俺が考えすぎただけだという一言で済ませると思う。


 反応だの、雰囲気だの、直感だの……これらは確かなる証拠にならないものばっかりだから。


 ……



 俺は小早木さんが慌ててパソコンをいじっている様子に、何も指摘しなかった。


 時にはすべての真相を知る必要はない。俺はあえて何も言わなかった。ただただ、ご褒美の内容を見つめているふりをしていた。


「え、ええと……」


 だから慌てすぎるって!こっちは気付かぬふりを頑張っているのに!


 まあ、でもご褒美の選択に関してもう言うまでもない。俺たちはすでに相談して、決めたことだ。俺たちの選択肢は一つしかない。


 でも一応確認のため、俺は「小早木さん……」と呼びつつ、ご褒美のメッセージに指で差していて、小早木さんに視線を送った。


 俺の意思がちゃんと届いたようで、彼女はさっきの固い表情はどっかに消えていて、今はただ真剣な眼差しで頷いた。


「ええ。」


「では、ご褒美は――」


 “1.残機数を1体増やす(上限:3体まで)、現在の残機数、残り:1 → 2 ”


 ****


 目の前の光景に目を通したら、私は思わず頭に浮かんできた言葉を口に出した。


「沼人……」とある有名な哲学の思考実験。あの不良が「蘇生」する過程を目にしたら、脳裏にこの言葉がよぎってしまう。


「うん?」田中さんの疑問な声色に、私はただ首を横に振って、「いいえ、気にしないでください」と答えた。


「……テセウスの船と似たような話です。今話してもただ困惑するだけの話です。」


「……ああ。アレか。同一性の問題。」


 田中さんはさすが探偵というべきでしょうか……哲学でもついてこれる。


 でも、私はずっと、このことを伝えるべきかと迷っていた。


 “チェック機能”


 この機能は名の通り、情報の確認機能がついている。


 当然、その中には、「記録」という名のタグがついている。これは、私がずーっと伝えられなかったことだった。そこを開けば、過去に関する情報はしっかりと記載されている。


 そうだ。ここにある、過去の「全て」が……

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