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ステージ:4~6

 「きょ……協力、ですか?」


 彼女の反応に少し気になる点があるが……俺はとりあえずの感じで、自分が考えたことを言い出した。


「ええ。どうしました?ここを出たければ、協力が必要だと思いますが……」


「え、ええ。それは、私も思いましたけど……」


 思いましたけど……か。うーん。


 言い方からして、また小早木さんの反応からして、まだ何が言いたそうなことがあるに違いない。


 しかし、彼女は何について迷っているのか、まだはっきりとわかっていない。見当がついているものの、確信できたというわけではない。


 その核心に近づくために、ここはやっぱり、分析するより直接に聞いた方がいいだろう。


 元々、そのつもりで交流に持ち越したんだし、これ以上外堀してもあまり意味がない……それに、ちょうど、聞きたいことを切り出すにいいところだ。


「もしかして、小早木さんはなにが協力したくない理由でもありますか?例えば、そうだな――」俺は彼女の反応に気に留めつつ、続いて脳内に浮かべた単語を口にした。


 例えば――“メッセージ”とか。


 すると、この単語を聞こえた途端、彼女は声を出さないものの、少し目を見開いた。


 この反応を見て、俺はほぼ確信したように言った。


「図星、ですね?」


「……はい。」小早木は落ち込んでいる様子で言った。


 わかりやすい反応だ。学校でもこういう素直な子だろう。


 一応、演技という可能性も頭の隅に置いてあるが、彼女からそんな雰囲気を感じない。何より、さっき彼女と会話を交わした時、俺はすでに彼女の言動、性格について、どんな人なのかをある程度把握していた。


 俺は一応確認のために、彼女にもう一つ聞いてみた。


「……あと、その男との『約束』ですかね。あれとも関係ありますか?」


 俺の話を聞いて、彼女は少し感心しているように返事した。


「凄いですね……田中さんはもうそこまで考えたのか……」感心していたが、彼女は続いての話でちょっと楽しく、仕方ないでも言えそうな表情で言った。


「でも残念です。『約束』とあまり関係ありません。」この話を言っている時、彼女はちょっと自慢そうな感情が伝わった。


「そうですか……」と俺は言いつつ、心の中で彼女のことについて確信した。反応が演技ではないことも確信した。


 小早木さんは、彼女の反応もそうだが、実に素直で表情豊かな子である。気遣いができる優しい女性……いいや、女子生徒だ(嘘でなければ)。


 なぜ俺はこう思えるのか、確認するために、もう一度わかったことを心の中で整理して、思い返してみた。



 1.小早木さんはしっかり自己紹介ができる。


 普通の場合、自己紹介できるのは別に特別なことではないが……今、普通の場合ではない。


 ぬいぐるみのこともそうだし、死んで生き返ったこともそうだ……この空間では、今色々不思議なことが起きていて、決して普通と称していい場所ではない。


 こんな中、彼女はあの金髪男の不良に対して口答えもできるほど胆力があるし、俺に対しても冗談が言えるほどの交流ができた。


 つまり、場所のことを含めて考えたら、ちゃんと自己紹介を返してくれる人は、気遣いの特徴があるはずだ。


 それに、俺が自己紹介したら、自己紹介で返してくれるということから、素直な人間だと判断した。特に仕事柄で、個性的なことを返してくる奴もいたし……全然しないやつもいた……だから、素直なほうに分類する。


 よって、小早木さんは素直で気遣いができる人だ。


 2.小早木さんは、金髪男と違って、俺に対しても一般人みたいに接している。


 彼女はどんな人なのか、なんで金髪男のことまで考える必要があるのか、

 これは彼女の見方と、俺たちが起きている順番に関係している。


 ほぼ確定で言えるが、もし小早木さんは嘘をついてなければ、彼女にとって、“俺は一人の浮浪者に見えるらしい”。


 では、この前提を元に考えて、彼女はなぜ先に俺を起こさないということについて、このことで大体の予想が考えつく。


 つまり、偏見だけの問題だ。20代の金髪男(ちょっと好青年にも見えるし)と、40代近くの30代浮浪者がだらしない格好で近くに倒れたら、先にどちらを起こしたいか……という選択肢は、ほとんどの場合は考えまでもない。


 彼女はあくまで、大抵のことをしただけ。このことで彼女は優しくないと判断したら、少々感情的になる。


 それに、たとえ先に身分と職業柄を知ってても、恐らく俺を起こすのも後になってくる。


 その理由は、今でも俺たちの間には微妙に距離を取っていることからだ。


 俺も意図的にやっているからあえて指摘しなかったが、彼女からもそんな雰囲気が伝わってきた。


 つまり、俺の外見はそれほどの「浮浪者」に映っている。


 でも、取っているのはあくまで距離だけ。交流のほうは一般的そのもの。俺が探偵だと知ってても、変に褒めてくるわけではないし、迷う理由を当てたことにも普通に感心しただけ。


 この反応と交流の感じは、もし一般的でなければ、演技だということになる。


 だが、彼女が俺に対しての接し方は一般的ではないという証拠は、どこにもない。


 むしろ、こういう状況下だからこそ、彼女は計算高いほうが俺にとっても気が楽になる。


 さっきの1.でも考えていたが、ここは普通の場所ではない。原理はなんなのかわからないが、とにかく常識的に考えない方がいい。


 つまり、こういう感じでも彼女は普通の交流ができるということに、俺は逆にありがたく感じる。


 だって、こういう反応は本当に演技なら、逆にこの演技をし続けてほしい……また“パニック状態”に陥っていたら、とても困るものだ。


 しかし、俺にはわかる。


 彼女の反応は演技ではない。彼女はただ普通に優しい、表情豊かな女子生徒だってことを。


 3. 彼女の精神力は彼女の反応が演技かどうかということに関わる。


 一見関係のないようなことなんだが、ちゃんと彼女の反応は演技ではないという状況に繋がる。


 はっきり言って、もし俺はこんな余計なことをいっぱい考えないと、今でも気が狂いそうだ。


 でも、彼女は一度精神がやられたものの、立ち直った。コミュニケーションが取れるようになって、自己紹介までできた。その上、冗談の仕返しまで言える。


 つまり、一般の人と比べて、彼女の精神力はまだ強いほうではある。


 だが、これはあくまで普通の状況に一般人と比べて、だ。


 人間は、死ぬ前に真実な反応を見せてくる。


 探偵としていろんな仕事をこなしてきたから俺は言える。


 何が演技なのか、何が嘘を言っているのか。


 彼女が死ぬ直前のこと、精神がやられた時のこと、俺はちゃんと覚えている。それらの反応からして、ちゃんと一般人そのものだ。


 当然、俺は探偵なので、一応演技の仮定もしたが、はっきり言って、あまり必要ない推定だった。


 でも、もし、彼女の反応はただの演技だとすれば、まず精神がぶっ壊れたことが演技、そして、あの死ぬ直前の“パニック状態“も演技だと仮定する必要がある。


 何せ、演技は人に見せるもの。演技が一貫しないと、本当の自分がバレてしまう。だから、彼女は「俺の信用を得る」ために、全ての演技を見せかける必要がある。


 では、この場合の演技はもはや人を騙すつもりの嘘だ。何せ、嘘は人の信用を得るためにつくもの。いわゆる、「自分が疑われない」よう仕向けているもの。


 そうすると、一つのことが必然的になる。それは、彼女がずーっと俺の反応を窺いつつ、演技しているということ。


 では、仮に彼女は実は全ての黒幕ということにしよう。


 彼女は俺の信用を得るためにずっと演技をしていた。俺に嘘をついた。


 自分が黒幕のことを隠すために、こういう演技をした。「死ぬ直前までも」。


 すると、もう一つ必然的な結果を導い出せる。それは、彼女が最初から金髪男と手を組んでいるということ。


 何せ、こういう膨大な計画は、一人でやるのは無理だ。当然、俺は二人のことがわからない、家の事柄もわからないから、この仮説がありえなくはない。


 では、もっとこの仮説をもとに考えると、二人が言う「約束」も、案外今までの演技のためのものになる。


 そうなると、つまり俺を騙すために、二人は「約束」をした演技の演技をした。更にそうなると、彼女は最初から、俺の身分、職業柄、交友関係も知り尽くしたことになる。


 なぜなら、彼女は俺の信用を得るためだけに、自分が黒幕ではないという騙すための演技が必要になるわけだ。そして、こうなると、後にさらなる他の仮説に立たなければいけない――


 ……では、ここまで整理して、仮説を振り替えてみると、最後にこの全ての仮説は一つの結論に返る。


 嘘だの、夢だの、演技だの――これは人為的なことだのという――ほぼ陰謀論の域に達する仮説が出来てしまう。


 つまり、彼女が今までの反応は演技だと仮説すると、一見合理的で可能性がなくはないが……本当に立ててみると、その実体はただの「仮説上の仮説に進む話」というわけがわからない話だった。


 彼女が演技しているという可能性は、この時点でもう推定しなくていいというわけだ。


 本当に、陰謀論の推定は一番意味がない。


 それに、この場合では実は一番簡単な一言で済ませる言い方がある――法律で考えるなら、彼女が演技している証拠はどこにもない。


 もし彼女が演技していると指摘したいなら、その証拠をあげる責任は俺になる。


 よって、無罪推定の原則によって、証拠不十分の故に、演技じゃない。


 つまり、今の段階では、彼女が演技している理由、動機、証拠、どこにもないし、十分でもないわけだ。


 だから、演技ではない。


 ……


 でも、演技ではないが……一つ気掛かりのところがある。


 あの時の状況はたしか――


 “「あああああぁああー!」”


 “「いやぁだ!いやあだ!」”


 “ゴールまであと7メートル……”


 “「死にたくない!しnたくない!」”


 “「いやだ……やだやだやだやだやだやだやだ!」”


 ――こうだった。


 そう。彼女はなんで、「まるで自分が次の番で死ぬだと知っている」反応だろう?


 俺は一応今の手がかりで推定したが、一番しっくりくる部分はできていない。


 あの時、彼女の瞳に捉えたのは、明らかに俺のことではなかった。冷静ではなかった。


「別の方向に向いていた」


 これはこっそりと彼女について分析していた俺が一つの気掛かりのところだった。


 ……


 俺は、心の中で彼女について分析したことに、少し罪悪感を抱いている。


 まだ癖で分析しちゃった。でも、仕方ないもんな、こんな状況だから……


 俺は心の中で自分にそう説得しつつ、彼女に聞いてみた。


 少し考えることに時間を取られてしまったが、俺たちの会話は難なく繋いでいる。


「では……小早木さんは、“メッセージ”の内容がどのように見えているのでしょうか?教えてもらえませんか?」


 彼女は迷った末、一回金髪男が立っていた頃の方向に視線を送った後、決意をした表情で俺に返事した。


 ちなみに、彼女が向いているアソコは「何かがある」ところだ。


「わかりました!教えます……少々信じがたいかもしれませんが――」これから彼女が教えてくれたことは少々信じにくい話だった。


 予想外以上に超える、想像も遥か上の話……



 小早木さんは最初、自分が思いついたことから喋り始めた。


「あのね、田中さん。」


「はい。」


「私は最初に起きた時、ここはもしかして、“デスゲームの会場じゃないかな”って思い付いたんです……」


 “最初に起きた時“と。


 やはり小早木さんは最初に起きた一人だったな……でも、なんだ?彼女が言ったのは?


「ええっと、です……ゲーム?」それと、会場?


 彼女の話に、俺は思わずこの空間を一通り見回したが、相変わらずの殺風景の空間だけだった。


「ええと、つまり、私たちは殺し合うんじゃないかなっていう話です。」


 ??????


 この子、何を言っているんだろう……俺は予想の斜め上に越えている物騒な言葉に、少し思考が止まった。


 ……いや、自分で考えるのはよそう。


「すみません、小早木さん。俺が話をわかる前提で言っているかもしれませんが……少し、詳しく説明してもらえませんか?その……“ですゲーム”というのは。」


「あ、ああ!そうですね……わかりませんよね。すみません。ええと、デスゲームというのは――」


 ――彼女の話をまとめるとこうだ。


 俺たち三人は、何らかの主催者に攫われて、何らかの形で誰かに見せられて、お互い殺し合うために、ここに集まれたという……ちょっとよくわからない話だった。


 最初言葉だけ聞いた感じ、敬語を話すゲームかなにかのものだと思ったが、まさかの殺し合うとは……ゲームというより、ただの性質が悪いだけの話だろうか……?


 それにしても、彼女はこの前提で動いているなら、今までの行動原理に辻褄が合う。反応的にも変ではない。嘘をついている可能性はますます――いや、今は分析するより、一つ大事なことに気付いた。


「もし小早木さんがそう思っているなら、よくあの不良を起こしましたね。」この話を口にした途端、俺はちょっと後悔した。


 不良って言っちゃった……!俺は彼女に先入観を与えてしまったことに少し後悔した。


「いいえ!私、あの不良を起こしていませんよ。彼は自然に起きたんです。」


 あ……うーん、まあ、いいか。でも、


「そうなんですか……」


 確かにあの金髪男が自然に起きるという可能性は頭から抜けてしまった。


 二人の性格と行動原理だけを考えてしまったな。


「そういえば、田中さんの言い方的に、すでに私は最初に起きた人という予想をついたんですか?」


 ……この子、やはり察しが悪くないな。


 俺は作り笑顔で言う。


「まあ、考えましたということだけ言っておきましょう。でも、確信したのは小早木さん自身が言っていたことです。“私は最初に起きた時”って、さっき言いましたでしょう?」


「ああ……ああ!」と彼女は思い返しているよう時間を一歩置いた後、すぐ驚いた。


 すると、少し恥ずかしそうに自分の頬を手で隠した……やはり表情豊かな子だ。


 それと、この反応から察するに、自分が言ってたことに意識していなかっただろう……確証はないが、占いに騙されやすそうだ。


 俺は観察するのをやめて、本題に戻すために話題を切り替える。


「それで、その“ですゲーム”というのは、メッセージに何か関連があるでしょうか?」


 話題を切り替えることが成功したようで、彼女はすぐ「あ、そうでした!」と意識を切り替えるように一回咳払いをして、それでもちょっと照れくさそうに俺の話に乗った。


「では、私はメッセージについて話す前に、実は田中さんに一つ聞きたいことがありまして……いいでしょうか?」俺が先に質問したのだから、たぶんその意味を含めての確認だろう。


「ええ、何でしょう?」


「田中さんには、今でもメッセージが見えますか?」


 この問題に俺は素直に答えた。


「いいえ、見えませんが……」


 ――どうしたという疑問が浮かぶより、俺は「まさか?」という言葉が先走った。


 すると、彼女は頷いた。


「……私、今もメッセージが見えます。」


 なるほど……!



 “600”



 ****


 ゲームは、必ず一つ大きな目標があって、その目標をベースにして、それでプレイヤーにクリヤーさせるために、ゲームが作られていきます。


 RPGゲーム、ミステリーゲーム、ホラーゲーム、サバイバルゲーム、経営養成ゲーム……他にもパソコンではネットゲームなど、かなり流行っているらしいですが、一人ではあまり楽しめないものでした。


 やっと有名な3代ハードを所持していたものの、結局その大半はシングル用のゲームでして、学校にも持ち越せず、最終的に自分一人で楽しんでいただけでした。


 そして、父さんと母さんはたぶん私の学校生活に気遣ってくれるんでしょうか、共働きの苦しい生活にも関わらず、一つ最新のものを買ってくれました。


「……スマートフォン」


 私は自分のベッドで、本当に“携帯”と呼んでもいいのかがわからない鏡面体の“スマートフォン”を見つめています。


 最近、学校の生活はあまりうまくいかなかったため、よくスマートフォンを見つめるようになりましたが……説明書を読んでも、アプリとかそういうものがわからないため、結局画面が暗いまま触っていただけでした。


「漫画、読もうかな……」よもうに羊毛……


 私は羊毛絨毯に転ぶ一つの漫画を拾って、めくり始めました。


 それはつい最近流行りのジャンル――私もちょっとはまりつつある――デスゲームの漫画でした。


 漫画では楽しめるものの、いざ自分で遭ってみたらと想像すると、私はきっと、何もできなくなるでしょうと、私はそんな気で、一日中ずっと似たような漫画のページをめくっていました。


 そして、いつのまにか、多分寝てしまったでしょうか。


 自分の意志が闇の中に落ちていた。


 ****


「う……うん?」


 続いて起きた時、冷たくて固い感触が伝わった。 


 床……?


 完全に床の感触だった。


 もしかして、私は寝ころんじゃった?と、そんな考えを浮かべて、私はゆっくりと引っ張るように身体を引き起こした。


 上半身が起きたまま、周りを観察しようとするところ、一つのものが突如に現れた。


「な、なに?!」一瞬びっくりして、お尻が後ずさる。上半身も当然次第に移動し、手が不意に温かいものに触ってしまった。


「きゃっ」反応が抑えきれず、声を上げてしまう。


 振り向くと、それは一人の男だった。金髪をしている、不良に見える男性。更に周りをよく見ると、もう一人がちょっとある距離のところに寝転んでいる。


 ――つまり……ええ。田中さんです。


 さっきまでまだ寝惚けている感じが、この状況において一気に吹っ切れてしまった。


「な、なに……ここ……それに、なんなの、これ?」私は色んな疑問をよぎりつつ、さっき突如に目の前に現れたものに目を通した。


 目を通してみればわかった。


 それは一つのメッセージだった。まるで携帯電話のメールみたいに、白い背景に簡潔な一言が画面の中央に書いてある。


 “お知らせ”と。


「お知らせ……?」


 私はわけのわからないまま、反射的に触ろうとすると――


「触れない……」――手がそのまま透かしているように空中に通っている。


 この人達は誰なのか、そして、メッセージは何なのか、あとここは一体どこなのかと、私は色んな疑問を誰かに聞いてみたくて、寝転んでいる人のほうに視線を送り、立ち上がった。


 すると、次に誰かを起こそうと思った瞬間、不意に視界に入ったものに気付いて、先にそっちへ注目した。


「パソコン……?」


 巨大なガラス一面の近くに、一台のパソコンが置いてある。電気がつけたまま、画面がモニターに映し出される……しかし、少し遠めの距離なので、まだ詳しく見えないが、デスクトップはやはりシンプルなもので、一つのソフトしかインストールしないらしい。


 二人のことを後にして、パソコンに近づいてみると、ソフトの名前はただ“ゲーム”という単語がしか書いていなくて、そのアイコンも黒いままだった。


「何なんだろう……これ。」


 ――今思えば、あの時に私がやったことはとても不謹慎な行動でした。


 ――でも、私は好奇心を抑えきれませんでした。


 私は自分のパソコンじゃないからと思って、心の赴くままに、そのソフトをクリックしてしまった。


 クリックした後、パソコンの画面には何も変化がなかった――そう。パソコンの画面だけには。


 “お知らせです”


「え?!」私は驚いた。


 さっきのメッセージは、また目の前に現れた。


 それに、メッセージは一気に読めなくなるほど、次々にびょんびょんと出てきた。


 “ゲームのお知らせです”


 “ゲームを起動しました”


 “間もなく、ゲームが始まります……(300)”


 “ゲーム目標:お人形ちゃん運びゲームをクリアしてください”


 “ゲームクリアが失敗したプレイヤーは、死んでいきます”


「え?!え?!何なの?!」私はもしかして、何がやっちゃったのか?と緊張してすぐメッセージに目を通してみると、メッセージはこれだけじゃなかった。


 “おめでとうございます!”


 “初めにゲームを起動したプレイヤーには、いつでも「メッセージ」をチェックする権利が与えられます!”


 “ぜひ、チェック機能を活用してください!”


 “それでは、ゲームをお楽しみ下さい!”


 一通りメッセージをチェックしたら、300の数字があるメッセージがどんどんカウントダウンされた。


 ――あの時、まだわけがわからなくて、理解するにはかなりの時間を浪費しちゃいました。


 カウントダウンされた数字は時間の秒数だと意識できたのは、すでに数字が170くらいになった時だった。


 “間もなく、ゲームが始まります……(172)”


 171……170……


「え?待って。これ……まさか、時間なの?!」


 ――あの時、私は確かに慌てて誰かを起こそうと思いました……でも、全てのメッセージをチェックしたからこそ、考えすぎて、脳裏によぎってしまった。


 これ、もしかしてデスゲームじゃないかって……


 それに、寝転んでいる二人も男でしたし、もし本当にそうだったとしたら、本当に二人を起こした方がいいのか?と……


 私は何もできませんし、二人男相手に何をされるかもわかりませんから。


 ――だから、私は迷っていました。


 すると、この時でした。あの金髪男の不良が起きたのは――


 ****


 “300”



「――その後、私は何とか勇気を振り絞って、あの不良と会話しましたが、時間も時間で、あまり彼と深く交流できませんでした。知っているのは彼が外見通り、あまり態度が良くないこと、あと不良みたいな人だということだけわかっています。


 一応、奇跡的に『約束』を交わされたが、時間はほぼ彼と会話することに費やしたせいで、大した『約束』をしていません。内容はただの『あなたにも知ってもらおう』ということです。


 それで、その後のことはたぶん田中さんも大体知っていると思うので、省きますが……あの……でも、本当に申し訳ございませんでした。田中さんに巻き込んでしまって……」小早木さんは深々と頭を下げて、俺に謝った。


 少し長々とした自白だったが、真摯に喋りかけてくる彼女の姿に、俺はあまり断ち切れずに聞いていた。


 むしろ真摯に謝られて、俺も少々心を揺らいで、「いいや、あんまり……気にしないでください。」と誠心をこめて、自分の気持ちを告げた。


 ……なるほど。時々、小早木さんから妙に自己肯定感が低い雰囲気を感じたが、これが原因か。


 罪悪感に苛まれて、少々自分のことを低くように見える。


 となると、少し立ち直らせるきっかけを作りたいものだ……これは探偵としての意見ではなく、人としての気持ちだ。


 しかし、流石にそのきっかけを作るのは今ではない。


 特に、彼女の自白の中では、気になるものがいっぱいある。


 普段ならメモを取れつつ聞いていたが、今紙とペンがないから、ずっと脳裏で気になることを並べるしかない。


 ・俺には見えないんだが、パソコンは存在するようだ。しかし、「パソコンは、遊ぶものなのか?」


 ・あと“携帯”もそう…… たぶん“携帯電話”の認識でいいだろうな?でも、その“メール”というのは、最近やっと仕事で使い始めた “Eメール”のことなのか?


 ・俺に全然見えないけど、巨大なガラスはどこにあるのか?


 ・チェック機能というのもなんだ?内容は?それは死亡の順番がわかることと関係があるのか?


 ・最後は……そのスマートフォンというのもなんだ?“フォン”という単語がついているから、電話の機能をしているのか……?


 “知恵のある電話”、さすがにこういう意味ではないだろう……


 こう考えると、わからないことだらけだ。


 それに、なんだろう……この違和感は――いや、薄々気付いたんだ。外見の認識を改める時に。


 だが、これを言い出して、本当にいいのか?わからない……


 たぶん、言い出したら、混乱を招くだろう。話もたぶん、めっちゃくちゃになるだろう。


 しかし、彼女も察しが悪くない。


 自分で気付いた時、よほどの衝撃を受けるかもしれないし、変にパニック状態に陥らせないために事情を隠すと、逆に面倒なことが起きる経験もよくあることだ。


 過去の経験則によって、伝えた方がいいとわかっている……だが、これはあくまで経験則。


 人の行動は、予測不可能だ。どうすべきか正解はない――そう……


 ****


 予測……


 “「もーう……先生ってさー、本当に人間の行動が全ては予測できると思う?」”


 ――不可能だ。


 ****


 うっ……!


 ふと、脳内に昔の記憶が甦った。それはとある生徒、とある助手に関する記憶だった。


 “60”


 “59”


 “57”


 ……


 ああ――俺は一体、なんてことをしたんだ。なんで……今までこの記憶を“忘れた”んだろう?


 すまんな……助手君。“君”の言う通りだよ。本当に俺、考えすぎる癖があるな……俺はこう思いながら、心に決めた。


 伝えよう。


「あの……小早木さん――」――すると、俺が重要なことを伝えようとする途端、小早木さんの様子がおかしくなっていた。


 “45”


 “44”


 ……


 彼女はまるで「待って!」というように片手を俺に向けて、少し放心状態でも言えそうな表情で俺ではなく、「何か」を見つめている。


 次第に、プルプルと怖がっているように身体が震え始めた。


「ど、どうしましょう……田中さん!」蒼白な面容に、震えている唇。目尻に涙まで汲んでいる。彼女は明らかに怖がっている。


 さっき彼女が言ってくれた情報をまとめて考えると、俺は聞くまでもない。直接彼女は何が見えていたのか、自分の推測を口にしてみた。


「……メッセージですか?」


 彼女は緊張した様子で俺の話に肯定し、頷く。


 突然現れたのか、それとも今で気付いたのか、彼女の反応から察するに、恐らく前者のほうだろう。


 そして、次に彼女が告げてきた話で俺は確信した。


「“間もなく、ゲームが始まります”って……」


 最初から気付いたなら、今更で反応するわけがない。


 つまり、突然に現れたほうがしっくりくる。


 でも……都合が悪すぎる!


 “36”


 “35”


 ……


 彼女が言ったメッセージの内容に、俺は思わず口を噤んで、考え始める。緊張しているせいで、また考え癖が出てしまった。


 どうする、どうすればいい?そういえば――今更なんだが、俺は一つ重要なことに気付いた。


 都合が悪すぎるのはこれだけではない……「時間」もだ。


 小早木さんは続いて告げてきたことは、ちょうど俺が気付いたばかりのことだった。


「どうしよう……時間はあと、30秒です!」


 “30”


 “29”


 ……


 俺たちには時間の「確認」ができない!


「お、落ち着いて!まだゲームが始まったわけではありません!」


「で、でも……!」


 いや、彼女にはできるかもしれない!しかし、今更彼女に確認しようだなんて、どうしても時間の無駄だと気がする。


 “26”


 “25”


 ……


「ど、どうしましょう?!どうしましょう?!田中さん!」小早木さんは今にも泣きそうな声だった。


 人は間もなく死と直面すると、混乱するものだ。一回あっても。


 俺も例外ではない。


 彼女の混乱した声と重ねて、俺までも緊張な気持ちが湧き上がった。さらなる余計なことを考え始めた。


 くそ!30秒は短い……!短すぎる!


 俺は自分がさっき伝えようとしたことはほぼ消え去ったような勢いで、頭を全力で回転させていた。


 すると、考えすぎて、頭がこんがらがっていて、次第に脳内から現状とは全く不適切な考え方を浮かんでしまった。


 くそ!何を考えているんだ!俺は!


 “20”


 “19”


 ……


 違う!そうじゃない……確認……時間の確認……そうだ!ふと、俺は脳が刺激されていたように思いついた。不適切な考え方と一緒に。


「メッセージだ!メッセージの内容を調べるんだ!」


「メッ、メッセージ?!」


「ああ!何が新しいものが出てきたはずだろう!新しいのを確認しよう!」


 ゲームが始まるメッセージが出てくるなら、新しい何かが出てきてもおかしくないはずだ。


 小早木さんも俺の意見が納得したようで、一応確認しようとしたが……


 しかし――俺は忘れてしまった。人間の行動は予測不可能だったことを。混乱した相手ならなおさら。


 “12”


 “11”


 ……


「で、でも、でも!」小早木さんは慌てて空中に手を振っていて、何をしているのかわからないが、その様子は明らかに「何か」を触ろうとしている。


「“チェック機能”が開けません!どうすればいい?!どうすればいい?!その中の内容がわからないんです!」彼女は半泣きの声で俺にそう伝えた。


 なんでまた手で触ろうとしている?!自白の中では一度言ってただろう!透かすんで――それとも、あの“スマホ”とか関係があるのか?!


 俺は一瞬苛立ってきて、あの不明なものに適当な略語をしていたが、状況も状況で、怒るより自分の感情を押し殺した……いいや、正確には、そんな時間と余裕がなかった。


 次の瞬間で俺の考えを含めて、全てが起きた。


 “1”


 “0”


 ……


 “それでは、ゲームを始めましょう”


 “ステージ:1”


 “お人形ちゃんをゴールまで運びましょう”


 “残機数、残り:1体(上限:3体まで)”


 “ゴールまであと――メートル”


 ――ポンポン、ポンポンと、メッセージと、あの舞台みたいなところにぬいぐるみがまた前と同じように現れた。


 あのぬいぐるみを見た瞬間、また死の記憶が脳内によぎる。


「くっ……!」


「ひっいい!」そして彼女の反応から察するに、たぶん俺と同じのようだ。


 ダメだ。このままではダメだ!彼女はまだパニック状態になってしまう!


 俺は脳が刺激されたように、自分の前に出たメッセージの内容を見た後、すぐ指示を出した。


「……パソコンだ!もしかしたらパソコンに何が出てきたのかもしれん!早く調べてくれ!」


 俺はまた、無理やりの結論と過程を結びつけていた。正直、俺にとってかなりの賭けだった。今度こそ、彼女は動いてくれないと、また俺自身で考えなければならないから。でも……


 彼女は一瞬放心状態になりかけたが、俺の話を聞くと、すぐハッとした様子になった。


「そ……そうか!わかりました!」小早木さんは俺の話で何が思い付いたようで、すぐ俺には何も見えないところに駆けつけた。金髪男がまだ立っていた頃の位置に。


 パソコンはあの位置なのか……


 彼女は何かをやっているうちに、俺もこの隙に自分のメッセージのことを調べてみた。


 ぬいぐるみはまだ動いていない。


 動いていないが……


 “ゴールまであと15メートル……”


 メッセージの距離のカウントダウンが進んだ後、俺はすぐ“舞台”らしいところのほうに目を向けた。


 もう進行し始めちゃった……


 ぬいぐるみはゆっくりとスタートラインから通って、進み始めた。


 それに、今回の舞台はどうやら前回のと比べて、ちょっと変わっていたらしい。


 ここからは舞台の全貌がうまく確認できないため、また木の板とかあるかもしれないという考えで、俺は――


 “ゴールまであと14メートル……”


「あ、あった!田中さ――っ!ちょっ!田中さん!何をするつもりですか!」


 小早木さんは驚くのも無理もない。俺はすでにジャンプ台のところに狙って、助走をつけようとした。


 “ゴールまであと13メートル……”


「すみません。小早木さん……俺にはパソコンが見えません。」今で言うのは俺もアレだと思うが、このことだけ伝えなくてはいけない。


「え……?え?!そうなんですか……!だから、田中さんはずっと聞きたがるんですか……」彼女は混乱しすぎて、逆に少し落ち着いた反応だった。


「ええ。それで、俺が思うに、たぶん俺がここにいてもしょうがないと思うんです……だから――」


「え……え?!ちょっと待って!まさか……!私には――」


 “ゴールまであと12メートル……”


 俺は彼女に一度視線を送った後、彼女の反応は待ってみたものの、「え……え?!ちょっと待って!まさか……」というところの返事を聞こえた途端、俺はすぐ助走をつけて、走っていた。


「――ここは君に任せてほしい!」


 走っている時、俺はまだ考えていた――


 彼女のこの反応は大体、自分ができないと「思いこんでいる」ほうに分類される。


 つまり、言い方が悪いが、「強引に押し付ければ、拒絶できない」種類の人間だ。きっかけを作るには、これ以上のチャンスはないだと――これは、あの時に俺が不適切な考え方の正体だった。


 そして、俺はジャンプ!受け身、無事にあの“舞台”にたどり着く。


 “ゴールまであと11メートル……”


「ま、待ってよ!なn、何で……わあしには、無理ですよ……」彼女は捨て犬のような表情で訴えてきてくる。正直、彼女が落胆した反応に、俺は逆に喜んでいた。


 なぜなら、


 よし……声がちゃんと届けられるようだ――俺はこのことに喜んでいるのだ。


「すみません……でも、俺は嘘をついていない。さすがの俺には見えないものに何を指示すべきか、どうやるべきか、考える余裕がありませんし、時間もありません。だからどうか、小早木さん自身で考えてください!パソコンで、何ができるかを!」


 いちいち俺が聞いてから指示をしたら、時間的に絶対間に合わないはずだ。


 現に――


 “ゴールまであと10メートル……”


 ――ぬいぐるみが歩き続けている。だから、俺は指示することに放棄して、直接ここに来たわけだ。


「そ、そんな……!」


「大丈夫です!声が聞こえているから!本当にわからないとき、声をかけてください!俺にはあちらのことは何もできないかもしれませんが……でも、俺は情報を共有しますので!」


 俺の話を聞いて、さすがに同じ渡り船の状況だから、彼女の表情から察するに、どうやら腹を括っていたらしい。


「も、もう……わ、わかりました!」


 一回の経験があるからだろう、それとも、泣いても仕方ない場合だとわかっていただろう。彼女は今度こそ、動き始めた。


 “ゴールまであと9メートル……”


 彼女の了承を得た後、俺はすぐ周りの状況を観察しようとした、が……俺たちの覚悟と裏腹に、俺は少し意外なことに気付いた。


 この舞台……


 俺は少し呆れたような感じで、「もしかして」という感じに、「あのところ」に目を向けた。


 すると、“画面”というところの上に、やはり「あのもの」が釣られている。


 “ゴールまであと8メートル……”


 あったわ……木の板。


 俺は、本当にこんな簡単なものなのか?という疑問が浮かぶほど、自分の目を信じられなかった。


 そう。この舞台、最初の舞台とほぼ同じ配置で、何も変わらない。歩道がちょっと長かっただけだった。


 断層の距離、同じ


 断層一つがゴール前、同じ


 高いところに木の板……同じ


 どれも同じだった。


 歩道がちょっと長くなっただけ……


「もしかして、罠とか?」俺は、ぬいぐるみより先に歩道の先に歩いて、確認した。


 すると――「ない?!」


 “ゴールまであと7メートル……”


 本当なのか?俺は注意深く回りを見てみると……やはり新しいものが何もない。


「……じゃあ……」


 さすがにもう一度「人間の板」になりたくないので、俺はすぐ小早木にこのことを告げた。


「……木の板がありますよ。小早木さん!その、“パソコン”では何ができますか?」この発言は特に確証はないが、俺は何となくの感じでこう言ってみた。


 “ゴールまであと6メートル……”


 あるいは、テーブルトークのゲームを基準に考えていたほうが正しいだろう。簡単に言うと、ゲームなら、どの人にも成功させる要素が含まれているはずだ。


 俺が「人間の板」になれるみたいに、彼女もたぶん「何かを板にさせる」、あるいは「板を移動させる」要素があるかもしれないと、俺が考えていたわけだ。


 でも、


「は、はい!ちょ、ちょっとみ、見てみませう!」彼女は緊張したせいか、喋りの感じもおかしくなった。


 “ゴールまであと5メートル……”


 加えて、


「え、ええと、ええと……あ!あった!で、でも、ど、どうすれば……」彼女はずっとどもるどもるの感じで言って、何の操作もうまくできない様子がここから半分の空間を通して見えている。


 さすがに、吹いてはいけないよな……失礼だし……


 それでも、緊張しすぎないか――と、俺がそう考えると、すぐ見方を変えた。


 ……いや、そういえば、俺の推測が間違っていなければ、彼女は「死亡の順番」が見えるはずだ。


 “ゴールまであと4メートル……”


 つまり、彼女にとって、この何をすべき状況は、最初の俺と同じみたいな状況だということに気付いたのだ。


 間もなく死と直面することに、緊張して脳が働きかけないかもしれない……彼女は俺と違って、一般人のほうだ。


 あわあわとしている彼女を見て、俺は少し緊張感が湧いてきた。


 何せ、死亡の順番は俺が間違っていなければ 彼女→俺 ということだろう……でも、そうじゃないとすれば?この死亡の順番は毎回変わるとしたら?


 ……俺ものんきに考える暇がないはずだ!


 “ゴールまであと3メートル……”


「い、いったい……どう、すれば?!」彼女の慌てていた声が、また伝わってくる。


 小早木さんが慌てている素振りからして、その反応はどう見ても次の番は俺だという要素が見えてない。


 故に、彼女と比べて、俺はまだ若干冷静でいられる。


「とりあえず落ち着いて!パソコンでも何ができるはずだ!よく観察して!」


「は、はい!」


 そして、俺は自分が少しでも何ができるのかと考えて、ぬいぐるみの近くまで駆けつけた。


 こんな緊急な状態だから、俺が考えられる方法は限っている。故に、俺は一番シンプルな方法でやっていた。


 少しでも、こいつにゆっくりさせるだけなら――


「はあああああああ!」やはり……重い!


 後の祭りだが、最初の時に――実は、ほんの少しだが、俺はぬいぐるみの歩く速度を緩くさせていたのだ。でも、あの時、そんなことをやっても意味がないから、結局進まれた。


 でも――


「ほあぁああああああ!」


 訓練してきた探偵を……なめるんじゃない!


 ――もう一人がいると、緩くさせる意味がある。


 “ゴールまであと3メートル……”


「だ、大丈夫ですか?!田中さん!」


「話、かける、じゃなーい!」俺は今、一体どんな様子なんだろう。


「わ、わかり、ました!」


 正直、無様だろう。


 でも、そんなことより、俺は本当にできているだろうか?


 ああ、重い……重い!


 “ゴールまであと3メートル……”


「はあああああああ!」気絶するほど、気を失うほど、俺は頑張っていた。


 早く!早く……!なんとかしろ!


「……そういえば、あの不良は言ってた……『操作不能』だって……キャラクターはなんで『操作不能』?じゃあ、もしかしてこれ……そうか……『自動進行』形式だから……」断片的だが、時間が流れていくうち、力も入りすぎて、少しずつ気を失われていく。


 彼女は何を言ってたが、俺はあまり聞こえなかった。だが、独り言を呟いていたのは間違いなく聞こえていた。


 耐えろ!


 耐えろ!!


 耐えろ……!


 “ゴールまであと3メートル……”


「あ、わかった!画面の『視角』が回転できるんだ!じゃ、じゃあ、田中さん言ってた『木の板』はきっと――そうか!これは『オブジェクト』で進行するゲームなんだ!」


 彼女は、何か気付いたようだ。


 だが、俺はもう構う余裕がない。なぜなら……「……っく!」


 ちょっとまって……なんか、動きは、おかしいぞ?


 “ゴールまであと2メートル……”


 俺は、自分の体に浮遊感を感じた。


 そして、自分の観察力で、ぬいぐるみの変化に気付いた。あれはまるでピキィと、怒っているように、ぬいぐるみの身体上に青筋が立て始めた。


「おい……おまえ、まさか――!」


「じゃ、じゃあ、『木の板』をここに設置して――よっし!田中さっ……っう!」


 目が、回る。


 浮遊感が、続いている。


「おまえ―――!」おまえ、ちゃんとうごけるじゃねえか――!!


 アレは、明らかに知性のある生き物の動きだった。


 アレは、ぬいぐるみは、明らかに俺の邪魔が気に食わないようで、俺が一瞬力を抜いた瞬間、元々俺が抱きつく態勢を抵抗し、ボロ雑巾のように俺を投げ出された。


「あああぁー……!」


「田中さーんあん!!!」


 その後のことは、俺は何も知らなかった。ただただ、浮遊感が続いていた。


 “ゴールまであと1メートル……”


 ****


「田中さっ……っう!」


 私は、見てしまった。あの怖いドールがおかしくなった瞬間を。


 そう。あれは怖いドールだ。ナイフを持っていて、色々なところが縫い直している部分があり、怖い怖いドールだ。


 ――私には、どうにもあれが“お人形ちゃん”には見えませんし、“ぬいぐるみ”でも見えません。


 でも、そんなのどうでもいい。だって、私には気になっているのは……


「田中さーんあん!!!」巨大なガラスがあるせいで、私には全然あそこにいけない。


 いけないし、行く勇気もありません……だから、ずっと叫んでいました。一人に残されると、怖かったです。本当に、怖かったです……


 田中さんは、“お人形ちゃん”にどっかに投げられて、消えてしまった。


 あの後、私も何を考えていたのかわからなくなるほど、恍惚していた。


 “ゴールまであと1メートル……”


 “ゴールまであと0メートル……”


「田中さん……!」私は思わず、泣いてしまった。


 だが、メッセージは無情に目の前に現れる。


 “おめでとうございます!”


 “ステージ1をクリアしました!”


 “それでは、次のステージを進めましょう。……(10)”


「え……?待って!田中さんは?!このまま……進むの?!」


 ――あれは本当に、驚きました。だって、死亡の順番アイコンは全然メッセージと違うから。順番は不良、私、田中さんの順番のはずだったから。


 私は、自分が死ぬのは嫌だけど、他人の死を目視するのも嫌……そんなの、デスゲームのマンガだけでいい。


 だから、無力感。


 恐怖感。


 もしかしてこの後、私は一人でやらないといけないという無力感が湧き上がった。


 もしかして、あのお人形ちゃんはあとで私を殺しに来るかもって……色んな恐怖な想像が湧き上がった。


 ……


 しかし、次の瞬間に「あああぁああああああ!!」


 大きい叫び声とともに、一人の姿が空間の中に現れた。巨大なガラスの一面を背に向けて、驚愕な表情。


 ホームレスみたいな服、臭くないけど、臭そうに見える汚い見た目……正直、近づきたくないのは本音だが、安心したら、何もかもが構わなくなった。


「田中さんあああんn!」


 ****


 ……


 これは、せっかくの“休憩時間”だ。


 ……無駄な時間を、過ごせないものだ。


 ……


「――と、いうことで、つまり……以上は、俺たちが今まで、なんとか二人で一緒に乗り越えてきた“ステージ2~6”のことなんです!」俺は小早木さんと一緒に隣に立っていて、目の前の金髪男に、今までの経緯を告げた。


 ああ……本当に苦労した。


 “ご褒美”は三回に一回だけ出てくる。


 俺と、小早木さんと一緒に今までの“ゲームステージ”をクリアして、“二回”だけの“ご褒美”を使って、やっと、たどり着いたことだ。


 俺はまだ覚えている。その“ご褒美”のメッセージと内容は……あるいは、俺が一番気になるところの、“残機数”。


 その数は今、“1.残機数を1体増やす(上限:3体まで)、現在の残機数、残り:2 → 3 ”となっている。


 残機数が増えると、金髪男も俺たちと同じ、「生き返った」!

長いですね~

章を分けるの下手で、すみません。

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