ステージ:チュートリアル
目を覚めると、俺は知らないところにいた……いいや、正確に言えば、暗闇の中だった。
「ここは……?」俺はゆっくりと身体を起こして、周りを観察しようとした、が……
周りも暗闇だった。
まるで今どこにいるのか示したくないような暗幕に覆われているような気がする。なぜ俺はこう言うのか、一言でいうと――
「あ、良かった!起きたんだね?」女性は俺を見てそう言った。
――そう。二人の人間が見える。
暗闇なのに、ちゃんと二人の存在が見える。一見とても優しそうな女性と、一見ヤンチャそうな金髪男……まあ、どれもあんまり関わりたくないタイプなんだが……それより、大事なことはここがどこなのか、だ。
俺はすぐ質問したかったが、先に話を切り出してきたのは向こうの金髪男だった。
「ああー良かったな。起きてて……」と金髪男がそう言っていたが、明らかに本心ではない。無関心な棒読み……あるいは何が不快なことでもあるのかっていうくらいに不機嫌な口調。
「んで、アイツが起きたんだから、もう調べさせてもいいんだろうな?約束はアイツが起きてからだしな。」こう言って、金髪男は何かをいじろうとする様子。
約束?それに、なんだ……?何をいじっている、のか?
「あ、でももうちょっと……少し慎重にした方が――」と俺の前にいる優しそうな女性が彼に向かってこう言った。でも金髪男は聞く気がないようだ。手の動きは止まっていない。
さすがにすぐこの状況を飲み込める理解力がないため、俺はここで少し強引でも質問するつもりだった。
「ええと、あの、ここは一体――」どこでしょうかというつもりで二人に質問をしてみたが、
「うっせぇな!お前らはそこで大人しくしていrろ!」と金髪男は話を聞く気がないようで、俺の方すら向いていなく、若干滑舌気味な口調で強引に話を挟んだ。
ちょっと女性の反応もうかがってみたが、同じく困っている様子だった。
まだ短い交流だったが、俺は二人の性格、また二人の関係について、何となく見当がついている。
さっきの会話からすると、たぶん二人の関係性は精々知り合い以下のはず。面識があっても、友達ではない。特に女性からちょっと疎遠な感じがして、何となく金髪男と距離を詰めたくない気がする。
そして、金髪男は良く言えば果敢で行動する行動派で、女性は思考が先決で行動を後に回すタイプだろう……しかし、なんなんだろう。
さっきから金髪男は何かをいじっているように見えるが、なんなんだ?彼はずっと空気をいじって――
「だ、だから、この人にも一緒に考えさせてから――あ!」と優しそうな女が話を途中まで言った。
「あん?」
なぜ女性の話は途中まで止まったというと、二人の反応から察するに、俺は恐らく俺と同じことが起きたと推測していた。
“それでは、ゲームを始めましょう”
わけがわからない何らかのメッセージが目の前に出てきた。
青い画面に簡潔な一句、他に何もない。
「……なんだこれ?」俺は思わず自分の考えを口にした。
すると、俺が質問しているのかと思っているだろうか。優しそうな女性は先に答えた。
「わからない。でも、なんか……」
メッセージについて何かが知っているのか?
正直、俺は女にメッセージのことを聞いてみたかったが、女の言葉より先に男の話に注意を惹きつかれてしまった。
「やはり……じゃあ、これか?!」金髪男は明らかに何か知っているような言い方。
俺の直感は何となくそう告げている。この男はメッセージについて、また、この暗闇の場所についての何かの見当がついているじゃないかと……でも俺がそう思うや否や、思考はすでに状況の進展に追いつけられなかった。
俺の目の前に更に追い打ちのようないっぱいのメッセージが出てきた。
“チュートリアルステージ”
“お人形ちゃんをゴールまで運びましょう”
“残機数、残り:2体(上限:3体まで)”
“ゴールまであと――”
一体何を書いているのか全くわからない。
それに、俺がメッセージを見ている間に、状況は更にまっちゃくちゃになった。
「だからちょっと待ってって!」
「うるせぇ!俺はもうこんなところにいられねぇんだよ!」
ドン!と、突然金髪男は何か叩いたような音が聞こえた。
なぜだ……あそこは何もないはずだ、でも音が……そして、俺がただちょっと別のことに囚われているうちに、次に起きたことはもう何もかもがわからなくなってきた。
“君には特別なサービス:画面越し”
“画面越し:画面越えができる“
このメッセージは何を書いているのか全くわからないので、俺はとりあえずわけのわからないメッセージを後にした。
何より、もっとおかしいことが起きたのだ。
さっきの二つのメッセージが出てきた途端、前方のちょっと距離があるところに、突然舞台劇みたいに空中の何もない暗闇の中からスポットライトが照らされた。
次に“あそこに何かある”って言えないほど、何もないところから大きなぬいぐるみが現れた。
ざっとみ、3メートルや4メートルくらいの巨体だった。重さもかなりあるようで、ドシ、ドシと、ぬいぐるみはゆっくりと歩き出す。
ぬいぐるみは最初四方形のところに立っていて、スタートラインみたいなところを通っていた。歩いている道がおおよそ10メートルくらいの長さで、その先はゴール線らしいところが見える。
だが、ゴール線の前にちゃんと一つの断層が見える。断層の下に同じく何も見えない暗闇だった――いいや、よく見れば断層の下に底の地面があるようだ。
それでもかなり高い。落ちたら必ず死ぬはず。
「な、なんなんだこれは……」状況はまるで何も掴めそうにない。
女性の方も俺と同じのようで、似たような言葉を呟いた。
「な、何よそれ……」
普通なら、状況を説明してほしいところだが、俺たちの疑問を全く気にしていなかったやつがいた。
「はっ!つまり、あの坊ちゃまをあそこまで運べたらいいんだろう。簡単なゲームだな!」金髪男は全然俺たちのほうに顧みるもせず、そのぬいぐるみのことだけ注視して、独り言でもしているかのように語っていた。
いい加減怒ってもいいだろうと思っていたが……金髪男から切羽詰まった状況に陥っている雰囲気が伝わってきて、俺はどうにも怒るようにならなかった。
「……くそ、くそ!」
むしろ、気になっているほうが大きかった。
少し自分の感情を押し殺して、俺は「あの……ちょっと落ち着いてみたらどう――」と金髪男に近づいて言おうとするところ、
「くそ!どういうことだ!『操作不能』だと?!」と金髪男は空気をいじりながら怒っていた。
金髪男の動きを見て、俺は少し自分の仮説に確信を得た。
やはり金髪男は「何か」が見えている……いや、そういえば、女性の方も似たようなことを言い出したような気がする。
「一緒に考えさせてから」という話から、明らかに金髪男と一緒に「何か」のものが見えている。
事情がわからないが、何か情報をくれるじゃないかという期待を込めて、俺は一回優しそうな女性の方に一瞥した……が、視線に気付いていないようで、女性はただ「あ」という声だけを上げていた。
その視線の先が察するに、ぬいぐるみの方だろう。
「くそが!じゃあ、どうしろってんだよ!」
なんで女性が声を上げたのが知りたいから、俺はとりあえず金髪男のことを気にしないようにして、先に女性の視線の先を追っていた。
すると、ぬいぐるみはすでに道の半分まで足を運んでいた。
“ゴールまであと6メートル……”
“ゴールまであと5メートル……”メッセージは、ぬいぐるみが距離を一歩ずつゴールまで詰めると、カウントされている。
なるほど、足運びは遅いが、少しずつ進んでいるのか……いや、それより、女性が気になっているのは恐らく、そのぬいぐるみがもうすぐ断層のところにたどり着くことだろう。
ぬいぐるみはもうすぐ断層に近づく。
そのまま歩き続けると、間違いなく断層の底に墜落する。
ぬいぐるみは中に人がいて、演じているものだ。女性の歳を見るからに成人済みだ。となると、このこともちゃんとわかっているはず。だからその中の人のことを心配しているんだろう。
“ゴールまであと4メートル……”
まだ状況が掴めないが、不思議なことばっかり起きているし、迂闊に行動するのは良くないと思うが……それでも、あの方に一言を告げた方がいいだろう……
「くそ!適当に死んでろ!」と金髪男の言葉に俺は眉をひそめた。
この男、やはり不良の少年というものだろう……
そして、俺の推測を置き去りにして、“ゴールまであと3メートル……”メッセージのカウントが続いていた。
いや、今は男のことを無視しよう……断層まであともう少しだ。
どう考えてもあの方は断層のことが見えていない。いや、そもそもぬいぐるみを着ている時点で、視野が狭くなるはずだ。
とりあえず――
「おーい!そろそろ足を止めないと落ちるぞ!」と俺がそう告げた後、二つのことが同時に起きていた。
――“ゴールまであと2メートル……”カウントが進む。ぬいぐるみも進む。
――「……フン、あほかよ」と金髪男のほうから冷笑の声が聞こえた。俺の行動に呆れたような口調だった。
ちょっと不快だが、俺はあえて無視した。
今注目しているのはぬいぐるみだ。
「おーい!」
でも、俺の声が届いていないのか、それとも俺の注意を無視したのか、“ゴールまであと1メートル……”メッセージの数字のカウントが1になると同時、ぬいぐるみはそのまま、断層のほうに踏み外し、墜落した。
ぐちゃり、パキッ――気持ち悪い、嫌な音が耳に届いた。死体を見たことがあっても、俺は思わず眉をひそめた。
なんなんだよこれは……
断層の底に血があふれる。
ぬいぐるみがぐちゃぐちゃになって、四肢とか頭とか、完全にあらぬ方向に曲がっている。
いや、そもそも、その「ぬいぐるみ」のことを人が入っているという想定なんだが、これではまるで――「ひっ……」と、女性は小さな悲鳴を上げて、俺の思考を断ち切った。
これは何のことなのかまったくわからないけど、とりあえず今は状況をまとめたほうがいいだろう――とここまで考えて、更に俺の思考を断ち切ったのは金髪男の言葉だった。
「ふん、バカみたいっ――」すると、金髪男の声が途中で途切れた。
すると、暖かい液体が俺の顔にぶっかけた。
さらに言うと、二秒を置いて、女性はまるで殺人事件の現場を目視してしまったようなひどい断末魔を上げていた。
「いやぁあああああぁああー!」
また、女性の悲鳴が聞こえたとともに、“残機数、残り:1体(上限:3体)”というメッセージもカウントが進まれた。
女性の悲鳴、液体の方向、残機数のメッセージ、また、何で声が途切れたのが気になったため、俺は反射的に金髪男の方に向いていた。
でも、俺は目の前の出来事に、混乱してしまった。
「なんなんだよ……!」
金髪男は頭がなくなったのだ。
その頭がなくなった死体と化している身体は、血が噴出し、パタリとそのまま地面に転がる。
この状況を見て、思わず思考が止まってしまった。
くそ……なんなんだよ……!冷静に考えるつもりでいるが、なんなんだよ!なんなんだよ!と、ずっと無意味な言葉が脳内に巡っている。
だ……ダメだ……!とりあえず冷静に――こう考えていると、追い打ちのメッセージと現象がもう一度きてしまった。
“チュートリアルステージ”
“お人形ちゃんをゴールまで運びましょう”
“残機数、残り:1体(上限:3体まで)”
“ゴールまであと10メートル……”
これらのメッセージを見て、俺は何となくぬいぐるみのところに注目した。
いつの間にか、完全無欠なぬいぐるみはもう一体がスタートラインに立っていた。いつの間にか、あの断層の底に落ちたぬいぐるみは消えていた。血も跡形なくに……
そして、ぬいぐるみはさっきと同じように、ゆっくりと歩き出した。
……繰り返しているのか?特に何の確信はないが、俺はとにかくこのぶっ飛んでいた仮定で思考する。
思考することによって、心を落ち着かせる。
“ゴールまであと8メートル……”
俺が辛うじて精神を保っているが、女性のほうはどうにもそうはならなかったようだ。
「あああああぁああー!」甲高い悲鳴、
「いやぁだ!いやあだ!」という、さっきまでまだ優しそうな女性は明らかにパニック状態に陥っていて、怖い形相になってしまった。
“ゴールまであと7メートル……”
良くないな……これは落ち着かせた方が――と俺が女性を掴もうと意識した途端、女性はもう後ろに走り出して、どこかに逃げようとした。
「死にたくない!しnたくない!」言葉すらおかしくなり、女性は走り出す。
“ゴールまであと6メートル……”
でも、「ポン」と、女性は突然何かをぶつかったようで、尻込みをした……いいや、音からして、たぶん本当に何がぶつかったのだろう。
金髪男の一件もあるし、この仮定でいこう……
“ゴールまであと5メートル……”
「なによ……見えない壁でもあるのか?!」と女性はまるでプロのサイレント劇の演者みたいに、見えない何かを触っているよう手が空中に止まっていてこう言った。
見えない壁……気になるところがいっぱいだが、女性はまだ脱走することに諦めそうにない。
“ゴールまであと4メートル……”
この様子だと、俺が話しかけても聞くそうにないが……いや、それでもやはり試しに、
「落ち着いて!とりあえず、状況を説明してくれませんか?」
“ゴールまであと3メートル……”
試した甲斐があった。女性の視線はちゃんと俺に向けていた。
でも……その瞳に捉えているのは俺のことではない。その証拠は――
“ゴールまであと2メートル……”
「いやだ……やだやだやだやだやだやだやだ!」――彼女は冷静じゃない。
「落ち着けって……!」一般人にとって無理もないというのが知っている。しかしこの状況で、俺はこんな言葉しか浮かばない。
“ゴールまであと1メートル……”
俺の慰めは何も役に立てなくて、「いやああーーっ」と女性が更に悲鳴を上げた。
同時に、ぐちゃり、パキィと、後ろからぬいぐるみがもう一度断層に落ちた音が伝わってきた。
“残機数、残り:0体(上限:3体まで)”
“警告:もし次に死んでいると、ゲームオーバーとなります”
今回、俺はちゃんと自分の目で捉えた。
女の頭が一瞬二倍の大きさに膨らみ上がって、風船のように爆発した。当然、人の頭が爆発したら、血が噴出する。
肉塊が噴射し、何もかもがぐちゃぐちゃになった。
あの不良の少年(金髪男)もきっと……こう思うと、心から恐怖の感情が湧き上がった。
人生初めて、恐怖を感じていた。
殺人現場は時々見かけたものだから、俺はただの死体とかには動じない。それに、分析するのもお手の物で、俺が何に対してへの恐怖なのか簡単にわかる。
これは、死体への恐怖じゃない。未知への恐怖だ……
「くそ!いったいなんなんだよ!」暴言を吐いていると、女性の死体が地面に転ぶ。
死んでいるものに何も聞けない。俺はそれを無視し、現状についての手がかりを収集していた。
メッセージに関するもの:
“チュートリアルステージ”
“お人形ちゃんをゴールまで運びましょう”
“残機数、残り:0体(上限:3体まで)”
“警告:もし次に死んでいると、ゲームオーバーとなります”
“ゴールまであと――メートル”
“君には特別なサービス:画面越し”
“画面越し:画面越えができる“
……
・メッセージがもう一つ出てきた。
・断層に落ちたぬいぐるみの死体が消えた瞬間を捉えた。消える時間は時間差があるらしい。
・また、ぬいぐるみは死んだらスタートラインに現れた。現れる時間、動き出す時間も消える時間と同じ、時間差があるらしい。
・ぬいぐるみはもう一度動き出そうとしている。あと、動き出すと止まらないらしい――
“ゴールまであと10メートル……”
「クソ!」思考する時間まで惜しい感じがする。
こういうのはあまり性に合わないが、とりあえず、俺は今までの状況とさっきの二人が話していることに合わせて、無理やりでも結論を出すしかない。
メッセージのことはどういう意味がまだはっきりとわからないが、とりあえず、あのお人形ちゃんと称しているぬいぐるみが死ぬと、たぶん人も死ぬだろうと俺が仮定した――
“ゴールまであと9メートル……”
「っく!」唸り声を出して、もう考える余裕がない。
自分の声が届いてないなら、俺はあのぬいぐるみのところに近づきたい。そのため、俺はまず道を観察した。
「大体3メートルくらいか……」俺は自分の身体能力を測って、助走をつけて、飛び込む。
何せ、ぬいぐるみを近づくにはここの空間とあそこの道にも断裂している。
一階くらいの高低差があるけど、俺はちゃんと飛び込んでたどり着いた。
着地するときに受け身をして、衝撃を緩和する。
“ゴールまであと8メートル……”
俺はぬいぐるみの近くに駆けつけて叫んだ。
「おい!止めてくれ!もう進むな!」
近くで見ると、やはりでかかった。高さは本当に平屋の一階層くらい余裕で越えているだろう……だが、重要なのはこれじゃない。
「おい!聞こえないのか!」ぬいぐるみは俺の忠告を無視して、ずっと前に歩こうとしている。
“ゴールまであと7メートル……”
「くそ!」
忠告がダメなら、俺はすかさず力づくで止めるつもりだった。けれど――
重っ!
そのぬいぐるみの体をタックルする勢いで抱きつくと、ぬいぐるみは完全に動じない。むしろ、感触が金属まで感じている。
「……どういうことなんだよ……っく!」俺は諦めないぞ!
“ゴールまであと6メートル……”
しかし、全然止められない上、もう一歩進められた。
“ゴールまであと5メートル……”
「くそ!くそ!くそ!」嫌な予感がピンピンしている。こんな状況だからこそ、あの金髪男が「くそくそ」と言いたい気持ちが理解できてしまった。
俺は余計なことを考えながら、力づくで止める方法を諦めた。思考を変えて、あの断層塞げばいい。
“ゴールまであと4メートル……”
では、何か材料は……俺がそう考えながら周りを観察した結果――何もなかった。
いや、正確には、木の板があった。後の祭りなのだが、きっとあの板で塞げばいいって話だろう。
でも、“ゴールまであと3メートル……”所詮後の祭りだ。
何より、木の板があるところは、俺たちがいた空間の、約10数階のマンションの高さのところに釣られている。
それと、壁というべきなのか、とにかく、俺がジャンプしたところはどうやら長方形の空間だった。また、俺がジャンプしたところも、まるでジャンプ台みたいに空間と道を繋いでいる。
“ゴールまであと2メートル……”
しかし、これが気付いたところで何の意味もない。ぬいぐるみはすでに断層の一歩手前だった。
「……っく!」身体が考えるまえ動き出した。
その“お人形ちゃん”の感触から考えると、たぶん俺はどの道、死ぬのだろう……もし俺の推測が間違っていないのなら。
でも、人として……「探偵」として、やはり……生存率が高い方に選ぶだろう!
言った通り、俺は身体が考えるまえ動き出した。
俺はぬいぐるみが足を踏み出すより、先に断層のほうにたどり着いた。
俺が急遽に考えた方法は言うまでもない。
「来いや!」俺は腕立て伏せのように、自分の体であの断層を塞いだ。
これが、人間の板だ!
“ゴールまであと1メートル……”
ピキ、ピキ、ピキ
「……っ!」
悶える声すら上げなくなるほど、痛かった。
早く行け、早く行け……でも、俺の考えたことと相反して、もしかしてわざと踏みとどまると思えるくらい体感の時間が長かった。
そして、筋が、神経が、骨が、肺が、背中が、身体の全身が……何もかもがぬいぐるみの重さにのしかかる。
一体何秒経過していた?わからん……
「ぐぇ」変な音を自分の口から出しているのか?わからん……
でも、とりあえず、たぶん、恐らく……思考は全く痛みの分散に役に立っていなかった。
「ブリブリブリ」全てがぐにゃりと感じた。
痛みが耐えられない。
空気が全然吸えない。
「おえぇ、ぐぇ」
もはや思考すること自体、思考できること自体、誰かに褒めてほしかったくらい……
ぐちゃぐちゃになった。
“ゴールまであと0メートル……”
ついでに、ぬいぐるみは俺の手を、踏んでいた。
ぐちゃり
墜落感。
突然、昔の思い出が脳裏によみがえる。
例えば、客が自分の事務所に来て、しょうもない依頼を受けたとか……猫探し、浮気問題、あと、時々警察の手伝い……
ああ、走馬灯……これはきっと、人が言う走馬灯に違いない。
俺はこんな無用な思考が止まらなく、自分の意識がどんどん歪んで、暗闇に沈んでいくと感じた。
これはきっと、死ということであろう。
俺はきっと、このまま暗闇の中に、静かに死んでいく――
****
“おめでとうございます!”
“チュートリアルステージをクリアしました!”
“ゲームステージをクリアしたプレイヤーは、ご褒美を選ぶ権利があります!”
“ご褒美は、以下の三つ通りです!”
“1.残機数を1体増やす(上限:3体まで)、現在の残機数、残り:0 → 1 ”
“2.お人形ちゃんの動きは少し良くなる(少し思考ができるようになる)”
“3.一つの願いを叶える(願いによって、叶えられない場合もあります。例:三つの願いまで増やしてーなど)”
……
30秒後。
“プレイヤーはご褒美を選ばなかったため、自動的に選出されます”
――
“おめでとうございます!自動的選出されたご褒美は、1. 残機数を一体増やす、でした。”
“それでは、また次のステージにお楽しみに!”
****
タグを見ていればわかると思いますが、要素が詰め込みすぎて、たぶん五話で終わります。
長く書くつもりはありません!
それでは!