8:とうめいなふた
・前回のあらすじです。
『芸術のみやこ【フィレンツォーネ】でもうすぐ『文化祭』があり、そこで【悪魔】の召喚がおこなわれるということをシロが和泉たちにつたえる』
【悪魔】。
【裏】の住人がそう呼ぶのは、もっぱら人間の領分を越えたちからを持った【魔術師】のことである。
一般的な魔術師をまねくこと自体は、もちろんなんの罪にもならない。
だが、超越的なちからを持つ――悪魔となるとはなしが変わる。
理由はいくつもあった。
そのひとつには、「人知およばぬ強大なちからが降臨すれば、なにかまちがいのあったとき、この世界の魔術師が総出でかかったところで止めることができない」というものがある。
だが和泉は、最大の理由はこの世界と魔術のない世界――【表】とを仕切る『透明なふた』。いまから数百年まえに、『宗教』と『科学』と『魔術』の重鎮たちのあいだでかわされた、【三者協定】という律法に、ふかくかかわっているとみている。
【三者協定】は、【表】の世界が神への信仰の時代から、科学の黎明をむかえるためにむすんだやくそくごとである。
この、未来永劫くつがえしがたい『契り』があるために、【表】で魔術師としての才能にめざめた人間は、世界の境界にはられた【大結界】の作用により、問答無用で魔術師の世界たるここ、【裏】におくられる。
そして二度と、もとの世界にもどることはかなわない。
さきに触れた史貴姉妹も、そして和泉も、もともとはゲーム機器やテレビジョン、パーソナルコンピューターや、自動車などの氾濫する土地――二十一世紀初頭の『日本』にいた。
だが、それらのなれしたしんだ娯楽や移動手段、なにより両親と唐突に切りはなされ、気がつけば魔術世界の大きな学校に入門し、あれよあれよというまに【魔術】のいろはを学ぶはこびとなったのだった。
【表】にいる、とりわけ『宗教』の連中は、それほどまでに魔術師をおそれていると言えた。
それゆえにこそ、魔術師の世界とそれのない世界とをへだてる結界に干渉する術は、領地のべつにかんけいなく「違法」とされている。
和泉の知るかぎりでは、【賢者の石】の製造がそれにあたった。
もっとも、【裏】の浄化システムのつごう上、『ゆめの万能触媒』たる賢者の石の研究は、秘密裏におこなわれているのが現状だ。
そしておなじように、強大な魔力によって「結界を破壊する危険性のある存在」として、【悪魔】を召ぶのは禁断だと――和泉はあたりをつけていた。
が。