1-3:おじょーさまの憂鬱(ゆううつ) 【後編】
※注意です。
・このものがたりは、『鉄と真鍮でできた指環《4》 ~魔窟のエクストリーム~』編の、番外編です。
・ショートストーリーです。
・本編のほうのキャラクターやストーリー、世界観などのイメージを、こわす可能性があります。
・前回までのあらすじがありません。
・以上の点に抵抗のあるかたは、【もどる】をおすすめします。
〇登場キャラクター紹介です。
・メイ・ウォーリック:十八才の魔女。魔術の学校、【学院】に通う。高等部の三年生。爵位のある貴族であり、魔術師としての腕も立つ。調合がへた。
・ノワール:メイの知人の使い魔。
・リリン:メイの使い魔。
「ま、お貴族さまにとっちゃあ、酒の肴にしかならないだろーけどさ。わかるでしょ? 私にとっても、あなたの使い魔にとっても、ウワサ(これ)が本当だったら、あんまり穏かにしてられないってこと」
「分からなくもないのですが」
メイは足元……学習机と椅子のすきまの暗がりで、ぐうぐう寝ているへびを見た。
黄色に黒いぶちのある毒へびだ。
彼女の名はリリンといい、メイの側仕えをつとめているものの、実際の契約者は、メイの母親である。
所有権が正式に譲渡されていないのだ。
「ああ。あと、賢者さまも今回のことは気になってるみたいよ」
「賢者さまが?」
ノワールの言葉に、メイはさすがにおどろいた。
魔術師として、高度な魔法力と知識を有する【賢者】が、こんな四方山話を信じるとは思えなかったのだ。
黙り込んだメイに、ノワールが追い打ちをかける。
「学長センセの使い魔が言ってたんだけどー。賢者ったら、なんか人を捜してるんですって。指環を返したいんだとか」
「ソロモンの指環を。ですか」
ともすれば――。
メイは椅子から立ちあがった。私服のブラウスとハイウエストスカートが、若干の魔力の乱れにふわりとゆらぐ。
「誰をさがしてるか、メイちゃんならもう摑んでるんじゃないの? 私ですらだいたいの見当がついてるんだもの」
「……王家の従者。というわけですわね」
この世界において、【王家】と呼ばれるのは、現在においてひとつしかない。四つの大貴族のうち、すでに血族が絶えたと巷間には流布される――。
「行ってくれるわよね? もちろん」
「明日にでも」
乗せられている。とは判っているものの、確たる反対材料もなく。
なにより自分が気にしてしまった以上は、ノワールの誘いを蹴るのも惜しく。
メイは八つ当たり混じりに使い魔のへびを叩き起こした。
明朝に始発の馬車でフィレンツォーネの町へと発つべく、旅支度をはじめる。
【おわり】
読んでいただき、ありがとうございました。
※上記のようなお礼文を、毎回書くようにしていましたが、長編作品につきましては、読みやすさを優先し、前回まで記載していた分を、つぎのエピソードを掲載した時点で、消去することにしました。
各長編作品の、章ごとの文末、最終回、および、短編作品の末尾には、これまで通り残しておきます。ご了解いただけると幸いです。