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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第4幕 魔窟(まくつ)へ・・・
59/66

59:それはそれ。これはこれ。





 ・前回のあらすじです。


 『悪魔あくま召喚しょうかんはウソだった。そう結論しようとした和泉いずみたちを、スポットライトがおそう』












『おおおおおおおおおお!』

 ささやきから一転いってん。黒ずくめたちが歓声かんせいをあげる。

 彼らのごえに応えるように、けものつのと腕をもつ存在……【バフォメット】が、巨大きょだいおとをあげた。

 地下のだいホールが震撼しんかんする。

『みんなあっ。今日きょうはおまねきしてくれて、ありがとおだにょおん!』

『うおおおおおおおおお!!』

 黒ずくめたちのたましいがひとつに融合ゆうごうしたかのごとく。彼らそれぞれの熱狂ねっきょうが、ひとしいタイミングで咆哮ほうこうする。

 いつのまにか、もれなく棒状ぼうじょうのライトを手にしていた彼らは、くるったようにの存在の愛称あいしょうをさけびはじめた。

『バフォたあああああん!』

『うおおおお! 我らがキング!!』

真世界しんせかい救世主メシアたまあああ!』

 「キタあ!」とか。「ミナみー!!」とか。

 いろんな声援せいえん交錯こうさくして、場内じょうない混沌こんとんと化す。

 とおくにあるバフォメットのすがたを、和泉いずみ今一度いまいちどよく確かめた。


 うずまきじょうつのが、あたま左右さゆうにひとつずつある。

 牡山羊おやぎつのだ。そしててん反逆はんぎゃくせんとばかりに突きでたゆびのあるかいなは、動物の毛皮でおおわれていた。手先がひづめっぽくデザインされている、コスチュームようのロンググローブだ。

 ダメージジーンズのたんパンからはみだしているのは、性別不詳(ふしょう)のほそいあし。それも獣類じゅうるいふうに加工されたロングブーツにつつまれていて、全体として、ヤギっぽいコンセプトになっていた。

「……『悪魔あくま』って。……『魔王まおう』って」

『プリンピンキアは、ぼくの母校ぼこうだからあ。すーっごいおもいいれがあるんだにゅ~んッ。だから、いつもよりもずーっと心をこめて、歌っていくにえー! みんなも、がってこーにゃあん! にゃんにゃにゃにゃああん!』

 ながいかみあおやむらさき、黄色でめ、もとをビーズやタトゥーで飾った若もの。

 やんちゃに羽織はおったノーズリーブのジャケットから、メッシュのシャツがむきだしている。そこからけた素肌すはだと、おしみなくつきでた双丘そうきゅうから、和泉いずみは【バフォメット】とくろずくめたちにあがめられる対象たいしょうが、おんな――それも二十二にじゅうに、三才ほどの、若い女性じょせいであると判断はんだんした。あと語尾ごびは「にょおん」か「にゅ~」か「にえー」か「にゃあ」のどれかひとつにしぼってほしい。

「ひゅーっ。バフォメットさまあああ!」

 拍手喝采はくしゅかっさい

 器用きよう覆面ふくめんのしたから嬌声きょうせい指笛ゆびぶえを飛ばすギャラリー。

 和泉はぎろりとをむけた。となりから聞こえてきた声に、聞いたおぼえがあったのだ。


「おい。こら」

 ずりっ。

 黒いずきんを、うしろに引っぱってはずす。出てきたのは、みどりかみ少年しょうねん。アキラである。

 はずされたフードを取りかえそうと、アキラは自分のうしろをまさぐった。

 はた。

 和泉いずみう。

「うわっ。レオナに色目いろめつかってるエロ魔術師まじゅつしだ!」

「だれがだッ。そりゃ。あんにゃろーのことをちょっとは『いいなあ』っておもってはいたけどさ。正体しょうたいを知ったいまとなっちゃ……。くううっ!」

「しょーたい?」

 なにそれ。とアキラは首をかしげる。どうやらこの少年しょうねんはなにも知らないらしい。

 そのほうがいこともある。

「いや。なんでもない。それより、このもよおしはなんなんだ。なんか、すげーアップテンポなきょくはじまってんぞ。おまえら、音楽おんがく敵視てきししてたんじゃなかったのか?」

「それはそれ。これはこれ」

 両手りょうてをきれいにそろえて、アキラはひとつのピリオドごとにみぎへ左へと動かした。


「な……。なんつーふてぶてしい……」

 少年しょうねんのめでたいり切りかたに、いっそ清々(すがすが)しささえおぼえ、和泉いずみ

 気力きりょくをふりしぼり、肝心かんじんなことをアキラに詰問きつもんした。

「あのおんなはなんなんだ。あれが、つまり――。【悪魔あくま】だってのか?」

「そおだよ。ほんものじゃないけど。ってか、ほんものなんてびだせる人、いないに決まってるんだけどね」

 胸倉むなぐらをつかまれ、和泉に引きよせられたアキラが答えるが、わるびれるふうはいっさいない。

 少年しょうねんの言いぐさから、悪魔あくま召喚しょうかんは「この学校ではそのていどの認識にんしきなのか」と、ちがう方向ほうこう性で和泉はおどろく。

 すこし踏みこんだ領域りょういきを知る魔術師まじゅつしなら、悪魔をまねく魔術まじゅつというのは、決して非現実的ひげんじつてきなことではないのだ。

「おにいさん。ひょっとしてバフォさまを知らないの?」

 ぼうぜんとする和泉に、アキラがふんぞりかえった。

「まあ。まだアングラ系のヴォーカルだし。むりもないか」

「あんぐら?」

「わからないならいーよ。とにかくさ。バフォさまは男女だんじょ垣根かきねをこえた、新時代のパイオニアってわけ。まれの性別にとらわれず、勝手気ままなルックスで、各地をまたにかけるうたさ。おさないころに旅一座たびいちざにくっついて鍛えた歌唱力かしょうりょくと、なによりプリンピンキアの学生としてみがいた戯画ぎがうで。その両方りょうほうを使って、日々(ひび)あたらしい表現ひょうげん探求たんきゅうし、みだしつづけている。ぼくたち美術魔法びじゅつまほう生たちのスターとも言うべき御人おひとなのさ」


おもいのほか堅実けんじつに活動してらっしゃるかたなのですね」

 和泉いずみをはさんで、こうから。

 アキラの説明せつめいにウォーリックが嘆息たんそくした。語気ごきからでは、感心しているのかあきれているのかわからない。

 ホールに響く重低音じゅうていおんのBGMと、カラオケにつれていったら友人ゆうじん全員が「ヒク」レベルの美声びせいがながれるなか、アキラはスレートブルーのひらいた。

 光彩こうさいがハートのかたちになっている。

 和泉をき飛ばして、自分の視界からどかす。

「うわああいっ。おねえさん。すっごいきれいだねッ。ぼく、御路みろ アキラっていいます。さっきもかけたんだけど……。すぐ見失みうしなっちゃって。いやあ。こんなところで再会できるなんて。光栄だなあ」

「それはどうも……」

「くおらクソガキッ。うちの生徒をナンパするんじゃない! あっち行きやがれ! しっしっ!」

 ウォーリックの手をつかもうとしたアキラをおもいきりりたおして、和泉がえる。

 アキラはコケそうになった身体を気合きあいでんばって言いかえした。

「はあっ。なあに言ってんだよ。美人の女性じょせいをみかけたら声をかけるのはマナーだよ!――ねえおねーさん。あとでぼくとどっか食べにいこーよ。いいおみせ知ってるんだあ~」

「ふざっけんなッ。おまえ……確かレオナにもこな掛けてる雰囲気ふんいきだったじゃないかっ。二股ふたまたする気か!?」

「それはそれ。これはこれ」

 げしっ。

 あっけらかんと言いはなつ少年しょうねんに、和泉いずみ問答無用もんどうむようで蹴りをいれた。今度は立ちあがれないように。地にしたところを、うす背中せなかあしをのせて、いとめる。








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