表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第4幕 魔窟(まくつ)へ・・・
57/66

57:心配性(しんぱいしょう)






 ・前回のあらすじです。


 『レオナの告白こくはくを受けた男爵が、「きなことできてるならいいや」って言う』












 広間ひろまひとだかりにまぎれて、レオナはいなくなった。

 和泉いずみはげんなりと肩をとす。

「はあ……。考えてみりゃそうだよな。やり手の魔術師まじゅつしのよわいやつなんているわけないんだ。魔法まほう専門であっても、そこはおんなじってわけだ」

「……。わたくしに言わせてみれば、絵でっていこうなんて考えるのは、心臓にびっしり毛のはえている人種じんしゅですわ。殺しても死なないていどには」

「そーかよ……」

 わきから茶々(ちゃちゃ)をいれてくる「男爵殿だんしゃくどの」に、和泉はぐんにゃりしたまま言った。もうまともに返すだけの元気もない。

「つーか。おまえ来てたんだな。さては。悪魔召喚あくましょうかんのうわさをきいてビビってるお貴族きぞくさまってのは、おまえのことか?」

 陰険いんけん半眼はんがんをつくって、和泉はウォーリックにつめよる。

 はあ……。とあいては息ひとつでばかにする。


「わたくしはほっとく所存しょぞんでしたが……。あの黒猫くろねこかつがれたのですわ」

ねこっつーと。ノワールさんか。あの人ってあんまり心配性しんぱいしょうって感じしないんだけどな」

「――それに。賢者けんじゃさまともおいしなければ、誰がこんなわけのわからないところ」

「なん?」

 片耳かたみみをほじって聞きながそうとしていた和泉いずみだが、ウォーリックのせりふに飛びついた。彼女かのじょのドレスのスリーブをつかんでゆさぶる。

あかねが来てるのか? どうして? 学院長がくいんちょうに『フィレンツォーネに行っちゃだめ』って言われたって聞いたぞ」

「それでやめる()()ですか。あの人が」

 魔術師まじゅつしとして最高位の実力じつりょくをほこる【賢者けんじゃ】である史貴しき 茜は、【学院がくいんないではもちろん、学外においても知名度ちめいどが高い。ウォーリックも校内こうないでみかけたことくらいはあるのだろう。和泉はそのていどにとらえた。

 汚いものをはらう仕草で、ウォーリックは和泉の両手りょうてをはたきおとす。彼の質問に答える。

「お会いしたといっても、ほんのすこしだけですわ。わたくしは、学園祭の前日ぜんじつにこのまちについたのですが。まったホテルがたまたま賢者さまといっしょだったのです」

「ええ~……」

 いいなああ~。


 のどから手が出そうなくらいものほしそうなかおで、和泉いずみ。いまからでも部屋を変わってほしい。

 その気持ちを、よもやんだわけでもなかろうが。ウォーリックが機先きせんせいす。

「言っておきますけれど。賢者さまは学祭がくさいがはじまるまえに、フィレンツォーネをでていかれました」

「なんで。だって召喚しょうかんまつりの賑いにまぎれておこなわれるってはなしじゃないか。それを調べにきたんだろ?」

「わざわざ開催かいさいつまでもなく、さっさと校内こうないをみまわって、見切みきりをつけたのですわ」

「はやあ……」

 いろいろ言いたいことはあった和泉だが、とりあえずこれだけは訊いておくことにした。

「んじゃあ。なんでおまえは地下ここにいるんだよ。(あかね)が引きかえしたときに、帰ったってよかったわけだろ?」

「まあそうなのですが。賢者さまが『せっかくだし、見物けんぶつしていってみれば?』とおっしゃるので。悪魔あくまの召喚とうたわれるものが、いったいなにを差しているのか。いちおうの確認だけしておこうとおもったのですわ」

「ようは、ウラを取るのに使われちまった。ってわけだ」

「その認識にんしきでかまいません」

「……ってーことは。取りこし苦労ぐろうだったってわけだ。デマでしたってちなんだろ――」


 和泉いずみは、さっきよりもいっそうおおきく落胆らくたんした。

 ――ふっ……。

 地下の照明しょうめいが消える。

 のこったのは、壁のトーチや壁面へきめん近くに立てかけた石灯籠いしどうろうの、青緑あおみどりほむらのみ。

 あつまったくろずくめが、しんと動きをめる。先ほどの賑いがウソのように。

 瞬時しゅんじに。静粛せいしゅくに。おごそかになった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ