表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第4幕 魔窟(まくつ)へ・・・
54/66

54:はいはい。また地下ですか・・・。


 あけまして、おめでとうございます。


 ・前回までのあらすじです。

 『上司じょうし使つかたちにたのまれて、芸術げいじゅつみやこ【フィレンツォーネ】へむかった魔術師まじゅつし青年せいねん和泉いずみ

 彼はそのまちにある【プリンピンキア美術魔法びじゅつまほう学校】で、学園祭がくえんさいのさわぎにじょうじて魔術師の禁忌きんきたる【悪魔あくま】の召喚しょうかんがおこなわれるときいて、ことの真偽しんぎをたしかめにきた。

 学祭がくさいをしらべている最中さなか、「レオナ」という少女しょうじょと和泉は知りあいになる。

 絵をあつかう魔術師をめざしている彼女かのじょは、じぶんに投資とうしをしてくれた故郷こきょうの男爵に対して、強烈きょうれつ不安ふあんをもっていた。

 学園祭には、くだんの男爵もまたきているらしい。

 自分に期待をしてくれている領主りょうしゅにきちんとあいさつがしたいというレオナだが、自分の現状げんじょうに自信がもてず、和泉いずみに同行するよう懇願こんがんする。

 たのみをききいれた和泉は、彼女かのじょ案内あんないにしたがい、キャンパスないにある洋館ようかんにわおく結界けっかいのはられた場所ばしょに、あしを踏みいれる――。』




 ごごごご……。

 行きまりの壁が、低いうなりをあげる。

 ライムグリーンの光がはじけ、ざされていたりぐちが開いた。

 壁はおくへとしりぞくかたちに動いたため、あいかわらず、庭のむこうへ行くことはできない。

 だが和泉いずみたちのあしもとには、ぽっかり階段がすがたをあらわしていた。

 ――隠し通路だ。

「これは……」

「ついてきてください」

 おどろきの声を、レオナがさえぎる。

 使つか少女しょうじょをつれて、彼女かのじょはさきにおりていった。和泉も言われるままに、自分の使い魔をひっぱって地下への階段にあしをおろす。

 ふたりの魔術師まじゅつしが、くらがりへと消えていく。

 しばらくして、結界けっかい魔法陣まほうじんが、前庭まえにわへいに復活した。

 おもおとをたてて、レンガへきがもとの位置にもどり、出入でいりぐちにふたをする。


 〇


 階段はながかった。

 せまい通路には、いくつもの腕木うできが設置されている。先端せんたん青緑あおみどりの火がたかれている。

 魔術まじゅつによるほのおではなく、キュプライト(Cu)――どうによる炎色反応えんしょくはんのう利用りようした、物理的なともしびだ。

 かつん。かつん。

 レオナのパンプスがくらがりに反響はんきょうする。ほか三名さんめい靴音くつおともまた、彼女かのじょのあとに規則正しくつづいた。

 どれほどすすんだろうか。

 和泉いずみが、もういいかげん確かな足場あしばこいしくなったころ――階下かいかにあかりがみえた。

 るものをほっとさせるような、はっきりとした照明しょうめい

 火ではなく、電気によるかがやきによって、ひろいエリアがひるめいたまばゆさにつつまれている。

「……なんっだ。こりゃあ」

 電気による点灯てんとうは、この魔術師まじゅつしの世界である【うら】でも一般的いっぱんてきである。それに、もともとは青色発光ダイオード(LED)白熱灯はくねつとう常用じょうようする「科学」の世界・【おもて】にいたである和泉にとって、シーリングライトなど今更いまさらおどろくものではない。

 彼があんぐりとしたのは、地下の大広間おおひろまにうごめく人だかりだった。


 ホール全体を円状えんじょうにした、だだっぴろいスペースに、何百なんびゃく。……いや。ひょっとするとせんをこえる人間が、せせこましくならべられたテーブルのあいだを、きゅうくつそうに動きまわっている。

 そのうちの何人なんにんかはふつうの服装だが、このにいる大多数だいたすうが、はかったようにおなじような、とんがり帽状ぼうじょうくろずきんに黒いローブといった、不気味なかっこうをしていた。


「……な。なんなんだ? レオナ。このひとたちは……」

「私の……。私たちの、なかまなんです。おなじ『結社けっしゃ』の」

「結社?」

「ええ。――あっ!」

 和泉いずみは訊きかえしたが、レオナは満足まんぞくに答えられなかった。階段の手すりを飛びこえて、彼女かのじょはのこりのだん一息ひといきにおりてしまう。

 地下のだいホールに着地すると同時に、駆けだしてしまった。和泉をふりかえり――。

「男爵様が。男爵様がいらっしゃいました。和泉さんっ。はやく!」

「ああ。――ちょっとって」

 和泉も手すりをりこえて、すこし高さのあるところからコンクリートの地面じめんに飛びおりた。ふたりの使つかであるクロとミーコは、段上だんじょうでおとなしく待っていることにしたらしい。

「マスター。ボクたち、ここでやすんでるからねー」

 うしろから、クロのまのびした声がいかけてくる。

 応えるひまもしく、和泉は人混みにまぎれそうになるレオナにいすがった。


「レオナ、ちょっと止まって――。あっ。すみませんっ」

 『完全オリジナル』

 『一般いっぱんのかたけ』

 『新刊あります』など。

 奇妙きみょうなフォントで書かれたふだのたつテーブルのはざまで、かみぶくろ片手に移動するくろずくめたちと、和泉いずみは肩や背なかをぶっつけて、もみくちゃになる。

「……くううっ。……ととっ。な、なんとかぬけだせたな」

 ひとのなみをかきわけ、ようやく和泉はすいたところに出る。

 『完売かんばいしました』のボードた立っているブースだ。そこでぴたりとレオナがちすくんでいる。

 彼女かのじょかたぐちから、和泉が進行方向しんこうほうこうやる。

 黒髪くろかみ魔術師まじゅつしが、ぐるりとホールの全容ぜんようを焼きつけるように、視線をめぐらせていた。上質じょうしつな服装から、あきらかに、このにそぐわぬ高い身分みぶんのものであることが知れる。

(って。あいつは……)

 和泉が手をあげた。記憶きおくにあたらしい魔術師の背格好せかっこうに、声をかけようとする。その時だった。

「男爵様!」

 レオナがさけんだ。

 和泉いずみが、いままさにびかけようとした、なが黒髪くろかみの魔術師そのひとに。





 んでいただき、ありがとうございました。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ