表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第4幕 魔窟(まくつ)へ・・・
53/66

53:パスワード


 ・前回のあらすじです。

『地下にきた【アキラ】が、「男爵様」をみつける』


 ※主人公しゅじんこうの視点にもどります。





 〇


 ぴー。ひょろろお~。

 青空あおぞらを鳥がおよいでいく。

 となりでは、ふくびきであてた残念賞ざんねんしょうのフエガムをらす少年しょうねん・クロがいる。


 片手にひっかけた黒い法衣ほうえをめくって、かくれていた自分の左腕を和泉いずみはみた。アナログの腕時計は、午後一時(いちじ)すこしまえをしている。

「ここでっててくれって言われたけど――」

 ぴーん。ぽーん。ぱーん。ぽーん。

 まのぬけた電子音でんしおんが、広いキャンパスぜんたいに鳴りわたった。和泉たちのいる、宮殿きゅうでんはなれ――サークル合宿がっしゅくようの屋敷にも、機械的なアナウンスはとどいている。

 女性じょせいの声が、プログラムの案内あんないげる。

 ――ご来場らいじょうのみなさま。まもなく、本校ほんこう生徒の作品による、フェスティバルパレードを開催かいさいいたします。

 場所ばしょは、宮殿風きゅうでんふう校舎まえの広場にて。

 ぜひ、おこしください――。

 ぽーん。ぱーん。ぽーん。ぴーん。

「……パレードか」

 ズボンのしりポケットから、学祭がくさいのパンフレットを引きぬいて、プログラムのページを和泉いずみはあけた。まつりの最終日さいしゅうびに、花火はなび幻影魔術げんえいまじゅつ具象化魔術ぐしょうかまじゅつをつかった、なかなか派手はでなもよおしをやると記載きさいされている。

 開始時刻(じこく)は……。午後一時(いちじ)

 これから、レオナと行くところのある和泉には、見物できそうにない。

 ふえガムでおとをたてるのにあきたクロが、ぱくんとあなのあいたお菓子かしをくちのなかに入れた。

 くちゃくちゃんで、ぷーっ。とふーせんをつくる。


 喫茶店きっさてん当番とうばんに行ったレオナとわせをして、時刻が来るまでひまつぶしをしているあいだに、露店ろてんをひととおりあそびつくした和泉いずみたちである。

 やることもなくなった彼らは、このしずかな前庭まえにわで、あまった数分すうふんの時間を、ぼーっとつっ立ってすごしていた。

 入りぐちの門扉もんぴから、洋館ようかんのエントランスまえにいるふたりのもとに、ツインテールの少女しょうじょと、黄色いかみをおだんごにしたおんながやってくる。

 レオナと、その使つかのミーコだ。

「すみません。おたせしてしまって」

「ああ、いや――」

 いま来たとこ。と気のきいたせりふでも言えればよかったが、そこまでキザなふるまいが似合にあうだけの器量きりょうは和泉にはない。

「……」

「……。……」

 ちょっと気まずい沈黙ちんもくのあと、仕切りなおすように和泉のほうから切り出した。

「ええっと。で、男爵様にうってことだけど」

「あ。はい……」

 わすれていたわけでもなかろうが。あいまいにレオナはへんじをした。


 虚空こくうをゆび差すみょうな銅像の建つ庭をよこぎって、塀沿へいぞいにレオナはやかた側面そくめんにまわる。

 ついてくるよう手で合図あいずをされて、和泉いずみはしたがった。

 クロとミーコも、それぞれの主人しゅじんにくっついてあるいていく。

「先日うしろすがたをつけたときに、男爵様がご自身の使つかとはなしているのを聞いたんです。なんでも――」

 キッ。とレオナは言葉ことばを切って、うしろにいる和泉をた。

 洋館ようかんのかこいの、どんきに彼らはいた。

 行き止まりだ。

「――男爵様は、悪魔崇拝あくますうはい現場げんばをおさえるつもりだとか。……和泉さん、私のかんちがいでなければ……あなたもそう。ですね?」

 まっすぐに、和泉のサングラスのおくの、硝子がらす魔法鉱物まほうこうぶつでできた両眼りょうめをみつめてレオナは問いただす。

 ――いや。おそらくは、彼女かのじょのなかでは確定している事実なのだろう。

 和泉はうなずいた。

「……。そうですか」

 ふい。とかおをまえ――行き止まりのレンガの壁にむけて、レオナは息をついた。

 観念かんねんなのか。諦念ていねんなのか。それともべつのなにかなのか。

 うれいをふくんだ吐息といきは、いずれとも言いがたかった。


 ……。レオナが訊く。背なかを和泉いずみにむけたまま。

「もし、この先でなにを見たとしても。なにを知ったとしても。私をうらぎらないって、和泉さん、約束していただけますか?」

 ていどにもよる――。と言いかえしたかったが、その主張しゅちょうをあえて和泉はのみこんだ。

 首肯しゅこうしてみせる。

 【悪魔崇拝あくますうはい】への調査ちょうさ優先ゆうせんしたのか、レオナの意思を尊重そんちょうしたかったのか。こたえた和泉自身にもわからなかった。

 ただひとつ。

 明確だったのは、もしもレオナが魔術師まじゅつし禁忌きんきたる【悪魔あくま】の召喚しょうかん加担かたんしていたとしても、彼女かのじょを不当に糾弾きゅうだんするつもりはない。ということだ。もっとも……。

自衛団じえいだんに突き出すってことくらいにはなるだろうけどな。……それくらいは多分。彼女もカクゴのうえだろう)

 悲愴感さえただようレオナのうしろすがたには、「むくい」を受けいれるもの特有とくゆうの、ぎすまされた――すがすがしさがあった。

 メイド服につつまれたからだを、緊張きんちょうにこわばらせたまま、それでもレオナは和泉のことばを信じた。けたのだ。


 壁に、清潔に手入れのされたゆびさきをレオナはあてる。そのままいつけるように、レンガべいにぴたりと手のひらをくっつけた。

 グリーンの光がやわらかな線となって、レオナの右手みぎてをなぞっていく。輪郭りんかくふち取って、かたちを認証にんしょうした。

 ――結界けっかい魔術まじゅつ一種いっしゅだ。

 ライムグリーンの光線が消えると、今度はしろい光の文字が浮かびあがった。

【パスワードを入力にゅうりょくしてください。】

 個人を特定したうえで、結界は、なおもあいてに解除かいじょ言葉ことば要求ようきゅうする。セキュリティが二重にじゅうにかかっているのだ。

 すっ。

 しらじらとしたメッセージにおくすることなく、レオナはゆびを動かした。

 魔法文字ルーンによる呪文じゅもん――というか。ただの文言もんごん――を空中くうちゅうにつづっていく。

 それは、ただ一言ひとこと

魔窟まくつへ…。』





 〇以上いじょうで、今年(2023ねん)の、『鉄と真鍮しんちゅうでできた指環ゆびわ《4》 ~魔窟まくつのエクストリーム~』の投稿はおわりです。

 つづきのエピソードは、来年らいねん(2024ねん)の1月の初旬しょじゅんに、掲載けいさいする予定よていです。


 んでいただいて、ありがとうございました。

 よいおとしを。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ