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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第4幕 魔窟(まくつ)へ・・・
52/66

52:闇の広間(ひろま)


 ・前回のあらすじです。

男爵だんしゃくさまにうために、和泉いずみについてきてほしいと、レオナがおねがいする』

(※サブキャラクターの視点してんにうつります)




 そこは地面じめんしただった。

 宮殿風きゅうでんふうのたてものから、はなれた場所ばしょにたつやかた

 プリンピンキアの学生たちが、サークル活動の合宿がっしゅくで使うはなれである。

 その秘密ひみつのいりぐちより先。

 「結社けっしゃ」の一員いちいんのみがはいれるように細工さいくされた扉の深奥しんおうに、このやみ広間ひろまはある。

 闇は、あおにぼやりと照らされている。

 つどった影は、まだまばらであり、壁に拡大されて転写された暗影あんえいは、たがいにささやきあうように、近づいたり、はなれたりをしている。

 全員、黒い頭巾ずきんをかぶっている。

 差異さいのある体格にもまた、黒一色くろいっしょくのローブをまとっている。もっとひとが増えれば、そして密集みっしゅうしてしまえば、ぞわぞわとうごめく、正体不明しょうたいふめい巨大きょだいな生きものとも錯覚さっかくできただろう。

 おや。と無言むごんながら、ひとつの黒ずくめが、あたまをかたむける。

 アキラだ。

 目出めだぼう頭頂とうちょう部を、むりに引きのばしてとがらせたような、円錐形えんすいけい頭巾ずきんに、かおのすべてを秘匿ひとくされている。

 が。まだあどけなさをのこしたスレートブルーのまなこに、ほんのすこし掛かったみどりの前髪まえがみが、彼の正体をいたずらに強調きょうちょうしていた。


 アキラの視線のさきには、小柄こがら少女しょうじょがいた。彼女かのじょもやはり、ほかのものと同様どうように、黒ずくめで、かおもからだつきも確かめようがないのだが。

 だれかれかまわず気軽きがるはなす、その口調くちょうとソプラノの声が、衣装いしょうのなかの存在が、アキラと同年代どうねんだいかすこしうえくらいのおんなであることを主張しゅちょうしていた。

「おひさしぶり――オリバー。わたくし。――。――の、――が。たのしみでして」

「こころおきなく。――は、邪魔じゃまもはいらないから。――」

 少女は男性と会話をしていた。このおとこのほうは、おそらく学内がくないの人間だろうが、少女のほうは「ちがう」と、アキラは彼女のまとう、総体的そうたいてきなふんいきから判断はんだんした。

 ありていに言えば、毛並けなみがちがうのだ。

(貴族――。……なわけないか)

 もうほどなくすれば、この地下室も校内こうない遜色そんしょくなく、照明しょうめいによってあかるみにさらされる。

 もうすぐ……。午前(じゅう)時に、幕開まくあけとなるのだ。

 そして。その三時間後には。

(レオナ。にあうのかな。たのしみにしてたもんな……)

 開幕かいまく瞬間しゅんかんを、いっしょにようね。と約束していた友人ゆうじんは、いま得体えたいの知れないおとこ魔術師まじゅつしとともに行動している。

 その男は、呪文じゅもんを使いこなす手練てだれだ。しかも、耐魔力たいまりょく加工のされた、黒い法衣ほうえを持っていた。

 つまりは――かの高名こうめいな、【学院がくいん】の先生。


(ぼくたちのやろうとしていることが、どこからかれたのかな。あのおとこ、ぼくらの集会しゅうかいを、めちゃくちゃにしにきたんじゃあ?)

 警戒心を、紫電しでん一閃いっせんりょうの眼光にのせて、アキラは脳裏のうりにちらつくあの男――白髪はくはつの、黄色いサングラスをかけた魔術師まじゅつしに、うさんくさそうにはなをゆがめた。

 ざわ。

 と空気がゆがむ。

 とたんに変わった周囲しゅうい気配けはいに、アキラは開幕かいまくの時間がきたのかと、両手りょうて拍手はくしゅのかたちにした。

 が、すぐにまちがいだったと悟る。そもそも、会場かいじょうがこんなにさびしい状態じょうたいでのオープニング(はじまり)など、いままでにない。

 この学校に入学にゅうがくするまえから、「結社」のメンバーであり、開催日かいさいびにはかならず参拝さんぱいに来ていたアキラには、すぐに不穏ふおんさがわかった。

 カツ。カツ。

 暗闇くらやみ足音あしおとがおりてくる。

 おなじ結社の仲間なかまが――同士があつまってきた音だと、だれもがむねをなでおろそうとした。時刻じこくとしても、ちょうど「そと」にいるメンバーが、友人ゆうじん同級生どうきゅうせいきふせて、地上ちじょう出店でみせからぬけだしてくるころだ。

 また、馬車ばしゃがここ、フィレンツォーネのまちにつき、よその地方ちほうからの会員が、ぞろぞろ到着する時間帯じかんたいでもある。

 そのなかには、私服しふくでの参加を強行きょうこうするつわものも、少数しょうすうだがいた。


 だから。ここへの階段をおりてきた人物じんぶつが、いまこのにいる全員のような黒ずくめでなかったとしても、「てき」とだんじるのは早計そうけいだとだれもが感じていた。

 が、警戒はゆるまない。

 あきらかにそのひとは――その魔術師まじゅつしは、ちがった。

 仲間なかまでも。同士でも。同類どうるいでもない。

 異質なものを、むりに品評ひんぴょうするような。もしくは、必要ひつようとあれば断罪だんざいさえする容赦ようしゃのないまなざしで、その黒髪くろかみの魔術師は、アキラたち黒ずくめを、ぐるりと一瞥いちべつした。

(こいつは……)

 頭巾ずきんのなかで、アキラはあぜんする。

 いつだったか、レオナにせてもらった肖像画しょうぞうがの人物と、やってきたそいつはうりふたつだった。

 決して展覧会てんらんかいには出さなかった、スケッチによるだったが、詳細しょうさいな描きこみによる写実しゃじつ的な人物画じんぶつがは、かつて、故郷こきょうでのはなしをするレオナに、「――で。きみの絵をみとめてくれた『男爵様』ってのは、どんな人なのさ?」といたアキラに、せん言葉ことばをふりかざすよりも鮮烈せんれつに、その人間の人格ひとなり印象いんしょうづけたものだ。

 地下の会場かいじょうにやってきた魔術師は、ともすれば、レオナの肖像画しょうぞうがから飛びだしてきたのではないか。

 まっしろになったあたまに、ぽかんとそんな取りとめのない空想くうそうが浮かび――。

 すぐに正気しょうきを取りもどして、アキラは、あおい光に朧夜おぼろよのごとく浮かびあがる場内じょうないを、しずかに、値踏ねぶみするようにあるきはじめた魔術師に、動きがとれないままおもった。

(こいつが……。『男爵様』)



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