表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第4幕 魔窟(まくつ)へ・・・
51/66

51:かかわりたくない相手なら、かかわらなければいい。


 ・前回のあらすじです。

 『学祭がくさいの最後の日にみせをだせなかった【流行りゅうこうアート研究けんきゅう会】の学生たち。彼らのもとに、和泉いずみにつれられてきた少女しょうじょ・レオナが、絵の魔法まほうをつかって、無事に【やきとりてん】をマテリアライズする』




 お礼の金券きんけんしつけようとする『流行りゅうこうアート研究けんきゅう会』のメンバーに、レオナはあたまをさげた。

 ぴょこ。とアナウサギみたいなツインテールがはねる。

「お気持ちだけいただいておきます。私はみせがあるので。これで」

 いましがた完成させた『焼き鳥店』に、彼女かのじょ背中せなかをむける。

 研究けんきゅう会の男子学生たちはすこしのあいだ、なおも未練みれんたらしくレオナをびもどそうと声をあげた。

 が。ルノの音頭おんどにより、しぶしぶ店の準備じゅんびにかかっていく。

「たまげたなあ」

 和泉いずみは、どこへともなく行こうとするレオナについていきながら、彼女かのじょせてくれた魔法まほう感嘆かんたんした。

魔法陣まほうじん、つかわないんだな。あれくらいの規模きぼならてっきりオレは――」

理屈りくつ消化しょうかできなかった魔術師まじゅつしが、絵にすくいをもとめたんです」

 かつん。

 とレオナのパンプスが、つめたいおとをたてた。

 がやがや。ひとの行きかう前庭まえにわ露店群ろてんぐんで、彼女はふりかえる。機敏きびんな動きだった。

「――絵の魔法まほう起源きげんは、そういうふうに言われています。あたまに浮かぶ図像イメージと、使用する道具ツール自己じこ内在ないざいする魔力まりょくによって、なんとか一般いっぱん的な【魔術まじゅつ】を再現しようとした。と」


 真摯しんしにレオナは和泉いずみつめていた。

 おこっているのでも、声の魔術まじゅつの専門家である和泉をめているのでもない。

 だが卑屈ひくつだった。

「この学校では、きみがやってみせた魔法まほうは、かなりハイレベルだって聞いたけどな」

 うつむきがちになるレオナに、和泉は言った。すぐとなりにいる使つか少年しょうねんが、退屈そうにそでを引っぱってくるが、いまは相手あいてにしない。

「オレにはわからない。きみが……レオナが、なんでそんなに自信ないのか。しかえすようでわるいけど。その……『男爵様』ってのだって、きみが学内がくない屈指くっし魔術師まじゅつしだって知ったらよろこぶんじゃないかな。ほこらしいんじゃあ」

 レオナは首をよこに振った。かたくなに。だが――。

「私は、あのひとは失望しつぼうするだけの気がしてならないんです」

 うなだれたまま、レオナはつぶやいた。そしてキッと和泉を見上みあげる。


「でも。和泉いずみさん。もしあなたが、本気ほんきで、男爵様が私のことで幻滅げんめつされないというのなら……。私。すこしだけ、がんばってみようかとおもうんです」

 いぶしたようなはい色の、レオナのひとみが、和泉の視線とぶつかった。

 和泉はなんとなく気まずくて、黄色いサングラスのブリッジをしあげ、かけなおす。……ふりをする。

「がんばるって?」

 答えはわかっているはずなのに。和泉はきいた。レオナは意をけっしたように、宣言せんげんする。

「私は、男爵様に、きちんとお顔向かおむけをしたいのです」

 おのれに言いきかせるためか、ひとつひとつの音節おんせつを、レオナは意識的に区切っていた。

 和泉はレオナのいう「男爵様」について、ききたいことがたくさんあった。だが我慢がまんして、レオナの伝えてくるままにする。

 レオナが言った。

 はずかしそうに、かおあかくして。の色ののぼったかよわいかんばせを、すこしだけ両手りょうてのなかに隠して。

「ただ……。その。ついてきてくれると、こころづよいなあ。なんて……。和泉さんに」

 はやくちになって、なれないおねだりをするように、レオナはあたふたとした。

 ちら。と色のうすい両眼りょうがんを、うわめづかいにする。


 和泉いずみは答えた。

 自分の苦手にがてとする人物に、しかし「それではだめだ」とおのれをふるいたたせ、接触せっしょくしようとするのは、おいそれとできることではない。

 和泉は、かかわりたくない相手あいてなら、かかわらなければいい。という意見である。だからレオナの、このたのみに対しては、無理むりしなくてもいいんじゃないか。と返したかった。

 なのに。

「いいよ。それくらいなら全然。そこまで遠慮えんりょして言うようなことでもないだろ」

 ふたつ返事で和泉はレオナへの同行を快諾かいだくした。

 彼女かのじょ決意けついみずを差したくはなかった。

 どんなかたちであれ、自分自身のためにがんばろうとする人が、和泉はきだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ