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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第4幕 魔窟(まくつ)へ・・・
50/66

50:1LDKごっこ。


 ・前回のあらすじです。

校舎こうしゃのエントランスで、すったもんだのあったあと、和泉いずみがレオナをこまっている学生たちのところへつれていく』




 〇


「おおーっ。フォックス!」

 両腕りょううでをひろげてレオナを出迎でむかえたのは、タオルをあたまにまいたおとこ――ルノだった。

 彼をはじめとする「とりてん」の一団いちだんが、やんややんや喝采かっさいして、ツインテールの少女しょうじょのおとずれを歓迎かんげいする。

 校舎を出て、すこし入り組んだところにある出店でみせである。

 レオナとここに来るまでの時間で、和泉いずみは彼らが「流行りゅうこうアート研究けんきゅう会」の会員ということをおしえてもらっていた。

「きみもおつかれさま。これでみせを出せるよ」

 会員たちのなかから、眼鏡めがねのやせたおとこ・ホガートがでてくる。

 ねぎらうべく差しだされたほねっぽい手を、和泉いずみ反射はんしゃ的に握った。

(なんか……。ぬめっとしてる……)


「じゃあさっそくで悪いけど。できるか?」

 ルノがレオナに魔術まじゅつ行使こうしをうながした。

 彼がレオナにせたてのひらには、木箱きばこにおさめられたカラーチョークがある。

 はずしたフタと容器ようき側面そくめんに、【点睛てんせいせき】と記載きさいされている。

 レオナはルノたちに首肯しゅこうした。両手りょうてをかるく振って、全員に出店しゅってん予定よていのスペースからはなれるよう指示する。

 ルノやホガートたちがどいて、和泉いずみおくれて、彼らとは反対側はんたいがわにさがった。レオナのうしろのほうだ。

「やることは、そんなにおおがかりなことじゃないんですけどね」

 小さい子どもがラクガキするみたいに、レオナはタイルりの通路わきにひざをついた。

 線を引きはじめる。

 みじかいスカートのおくえそうになって、とっさに和泉は、かお青空あおぞらにそむける。ぐきっと首がる。

 もっとも、レオナは黒いタイツであしをおおっているので、露骨ろこつ下着したぎが見えたりはしないのだが。

「クロ。魔法陣まほうじんができあがったらおしえてくれ」

「もうできたみたいだよ。魔法陣じゃないけど」


 ぱんぱん。

 と手をたたくおとがして、和泉いずみ地面じめんに視線をもどした。

 白いせんで、見取みとみたいな、簡素かんそな絵が描かれている。

 鉄板てっぱんの部分には、あか色が使われていた。その「」とよぶのにはおざなりな――いわゆる「あたり」に近い、四角しかくえん集合しゅうごう体に、和泉はむずかしそうに眉根まゆねをよせる。

(なんだこりゃ)

 1LDKワンエルディーケーごっこ。という言葉ことばが、和泉の脳裏のうりをかすめた。

 白髪はくはつの、この若い教授きょうじゅ内心ないしんをくみとってだろう。絵のそばに立ったレオナが説明せつめいをする。

「これに魔力まりょくをそそぐだけで、かんたんな建物たてものはできてしまうんです。本格ほんかく的なものになると、耐久性たいきゅうせいの問題もあるので、材料ざいりょうもずっと選別しなければなりませんし、内部ないぶから補修ほしゅうができるような工夫くふうもいります。下絵したえのほうも、建築士けんちくしとかが使う、設計図せっけいずレベルのものが必須ひっすです」

 言いながら、宮殿風きゅうでんふうの校舎を一瞥いちべつしたレオナに、和泉いずみは背すじをふるわせた。


(ま。まさか――)

 レオナの視線をおうとするが、そのまえに、彼女かのじょのほうが動く。メイド服の、長いそでからでた白い手を、さきほど完成させた「絵」にかざす。

 ――魔術まじゅつ行使こうしは、それだけだった。

 ぽん!!

 くぐもったおとをたてて、白とあかで構成された図形ずけいが、白煙はくえんにつつまれる。

 もくもく。

 出店しゅってんスペースいっぱいにふくらみ、徐々(じょじょ)にうすれてゆくけむりのなかから、立体化した「屋台やたい」が出現しゅつげんする。

 和泉いずみとクロのふたりがまずについたのが、あつみのある布地ぬのじのテント屋根やねだった。

 つぎに『焼き鳥』の暖簾のれん

 それから、金属光沢(こうたく)まで再現した支柱しちゅう――ピケに、こちらも確かにアイアン製の鉄板てっぱんが、のれんの下に設置されていた。

 なにも知らない術者じゅつしゃたら、詠唱えいしょうなしで魔術をはなつ――魔術師まじゅつし最高峰(さいこうほう)奥義おうぎ、「ひばりの技法ぎほう」を使ったように感じただろう。

 もっとも。「声」をトリガーとする魔術は、物質を「再生」させることはできても、ここまでのものを「つくる」という技術ぎじゅつが、まだ確立されていないのだが。


 わああああああ!

 と「流行りゅうこうアート研究けんきゅう会」の面々(めんめん)から歓声があがる。

 野太のぶとおとなみ圧倒あっとうされて、和泉いずみはレオナにげかけようとした質問を、のみこまざるをえなかった。あとで聞くことにする。

「サンキュー。フォックス! これでみせが出せるぜ!」

「これ。お礼にどーぞ」

「あっ。オレも!」

「わがはいも」

 我さきにとレオナに駆ける男子学生たち。

 最初さいしょにルノが。つぎにホガートが。つかわなかった金券きんけんをレオナに突き出し、それにつづいてほかのメンバーもジーンズのポケットやポシェットから、くちゃくちゃの学祭がくさい専用せんようチケットをひっぱりだす。

 レオナのツインテールが、ふらふらとよこむきにゆれた。

「すっ。すみません。私、もう金券をつかう予定よていはないんです」

「ええっ。なんだよ。店番みせばんだけで最終日さいしゅうびをつぶすのか?」

 ルノが不服そうにぶあついくちびるをひんまげた。レオナは言いよどんだ。

「いえ。おみせは、午前ごぜんまでなんですけど。……」


 ちら。とレオナは和泉いずみをみた。

 和泉は、自分のまえでは言えない――言いたくない事情じじょうがあるのだろう。と、すでに彼女かのじょの都合には気がついていた。


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