48:マセガキ
・前回のあらすじです。
『和泉が探査の魔術をやりなおし、レオナの使い魔・ミーコをみつける』
〇
荘重な西洋風宮殿造りの、プリンピンキア学校校舎。
その広々とした正面エントランスに、和泉は薔薇園から移動した。
ちょうどやってきたレオナとミーコ。それに、彼女たちの友人らしい少年と、出入りぐちで鉢合わせる。
少年――みどりの髪の、つなぎすがたの男の子が、和泉を見るなり声をあげた。
「ああっ。ぼくのアルバートを食べようとしたヘンタイだ!」
開口一番言いがかりをつける少年に、和泉は前髪に隠れたひたいに青筋を浮かべる。
「え……。和泉さん。ねずみを食べるんですか?」
と。少年と歩いていたツインテールの少女――レオナ・フォックスが、一歩あとずさりする。
彼女のヒキっぷりはこの際無視して、和泉はきっぱり少年に答えた。
「だからちがうっつーの。勝手にめちゃくちゃなこと捏造すんな」
「めちゃくちゃなことだから捏造するんだよ。ねえ。気をつけなよレオナ。きみってばカワイイから、こんなやつに目えつけられたら、ストーカーされるのまちがいなしだよ」
「失礼だよアキラ」
灰色の両目を非難の角度にして、レオナは自分のメイド服のそでをひっぱる男の子――アキラに注意した。
「そんなこと、しませんよね?」
と信じる微笑をむけられ、和泉はあいまいに顔を引きつらせる。
本人に無断で魔術をつかって追跡をかけた以上、「ストーカー的行為」については否定できない。
「えっとお。それよりレオナ。きみに来てほしいっていう人たちがいてさ。表のほうで、店を出そうとしていた人たちなんだけど」
「またかよー!」
とさけんだのはアキラである。
レオナより数センチ低い体をくるりと彼女のほうにふりむけて、アキラはぎゅっとブラウスからはみだした少女の手を握る。
(このマセガキ……)
めざとくアキラのスキンシップを見咎めるも、和泉は黙ってふたりの反応を待った。
アキラがわめく。レオナに。
「行くことないよレオナっ。朝っぱらから、あっちいったりこっちいったりしてさあ。屋台組むのがどんだけ大変か、わかってないんだよあいつら。無理したら死んじゃうよ」
アキラはつばを飛ばしてまくしたてた。
絵の魔術にうとい和泉でも、アキラの理屈はわかる。
ここの学生が言っていたことを信じるなら、たとえ簡素なものであっても、建物をつくる魔法は高度な技術なのだ。
高位の魔術は威力によらず、ただそれを行使するだけで結構な体力を消耗する。【建築】の絵魔法も、その例にもれないのだろう。
心配する友人に、ゆるくレオナはかぶりを振る。
「私はだいじょうぶ。アキラが思ってるほどは、つかれてないから」
レオナの腰のあたりから、黄色い髪をおだんごにした女の子が、主人たる魔術師を見あげた。
レオナの使い魔のミーコだ。
「でもぬしさま。あちらのほうは? カフェの店番もあるのに……。まにあうの?」
おさない、色黒の顔をかたむけて問うミーコを、ぽんとレオナは撫でた。
和泉はその所作を、なんとなく「黙らせた」ように思った。