47:とても、はずかしい。
・前回のあらすじです。
『和泉がレオナの位置をみつけようと、探査の魔術をつかう』
「あれ?」
和泉は、薔薇園の地面――自分の足もとにひろがる、仮想の図面を見下した。
あくまで和泉の脳内に浮かんだモニターを、術者本人が確認しやすいように、この世の物体を介して固定しているだけなので、そばにいる少年――クロには、マップ状の画面はみえない。
クロにとっては、主人である魔術師の青年が、なんの変哲もない地面をながめて、ぶつぶつひとりで言っているだけだ。
首をかしげる和泉に、クロはもどかしそうに言った。
「どうしたの。見つけたならはやく行こうよ」
「いや……。おかしいな」
和泉のなかに焦りがこみあげてくる。
『焼き鳥店』が出せなくてこまっている学生たちに対して、「オレがレオナをつれてきます」と大見栄を切ってしまった手前、この失態はとても――。
とても、はずかしい。
「えっと。その……。いないんだよ。レオナが」
和泉には見えている画面――ペールブルーの半透明で、東西南北の方角がしるされた円形のモニター。
そこには術者自身と、術者の意識内で設定した『ターゲット』の情報をもとに、該当する人物だけが、光点となって抽出されるはずだった。
が。和泉が凝視しているブルーの画像は、中心の黄色い点――術者である和泉本人をしめすマークである――以外に、なにも示さない。
クロもまた、不思議そうに首をかしげた。
主人は人としてはびみょ~だが、魔術師としては有能である。魔法が失敗したとは考えにくい。
「ひょっとしたらレオナってば。ミドルネームとかあったのかも。条件だけ変えて、範囲はそのまま、あらためて探してみたら?」
「そのほうがいいか」
エリアを拡げてさがすという方法もあったが、それは精度が落ちる。
和泉はぼやくようにして、クロの案を採用した。
この際おもいきって、捜査対象からレオナをはずす。
彼女の使い魔である、ミーコに設定をしなおす。
『ベンガルトラ』。で、『ミーコ』。なら、いくらこの【裏】の世界ひろしといえど、同じ者はふたりといまい。大学のキャンパス内であれば、なおさらである。
あらためて。和泉が魔力の琴線をはりなおす。と。
「――おっ。いた」
つかまえた。
ローマ字で【Miiko】と表記された、赤い点。
きっと主人であるレオナと共にいるのだろう。小さな光は、白い線で描かれた校舎のみとり図を、エントランス部分にむかって、ちょこちょこと動いていく。