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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第4幕 魔窟(まくつ)へ・・・
45/66

45:ゆびおりの魔術師


 ・前回のあらすじです。

 『学祭がくさい最終日さいしゅうびに、そとのブースで出店しゅってんができないでいる学生たちをつけた和泉いずみ。ひとさがしの魔術まじゅつをもとめているかれらに声をかけると、メンバーのひとりであるめがねの青年せいねんが、ふくざつな事情じじょうをはなしはじめる』




 自分たちのこっているアクシデントについて、めがねの青年せいねん――ホガートは、和泉いずみ説明せつめいをつづけた。

「きみの言うとおり、絵を具現化ぐげんかできるレベルの術者じゅつしゃってのは希少きしょうでね。特に、建物たてものをつくれるってなると、指折ゆびおりなんだよね」

 ホガートは、ほとんど皮だけの片手のゆびをかるくりまげた。それからあたりの露店群ろてんぐんわたす。

「まあ。建物をつくれるっていっても、こーゆーテントみたいなかるいものなんだけど」

 ホガートの動きをまねするように、和泉もまた、校庭こうていに出ている食べものやゲームのみせに視線をめぐらせる。

 もしかして。というおもいがよぎる。

「ここにある露店は、ぜんぶ絵魔法えまほうでつくってるってことですか?」

「そゆこと」

 わかっていただけてうれしい。と言わんばかりに、ホガートは首肯しゅこうした。

「ただね。さっきも言ったけど、店をつくれる画工系がこうけい魔術師まじゅつしってすくないんだ。学生ってなると、ほんとにかぞえるくらいしかいない」

 とりてんを出すスペースで、「くっ」とほかのメンバーたちがうなだれた。ホガートもなさけないかおつきになって、つづける。


「で。おれたちみたいに、そこまでのちからがない魔術師まじゅつしは、露店ろてんを出すのに、すぐれた術師じゅつしにたのみこまなきゃならなかった」

例年れいねんどおりなら、初日しょにちに来てもらうだけでよかったんだがな」

 ずいっ。とあたまにタオルをいたおとこ――メンバーたちのリーダー格、ルノが、はなしに割りこんでくる。

「でも、きのうあめが降っただろう。それで線が消えちまって……。もういちど、いてもらわなきゃならなくなった」

 天をのろうように、ルノはそらをあおぐ。

 そのまま「太陽たいようのばかやろー!」とさけび出しそうだった。

 ……彼がばかやろーと言いたいのは、きのうの雨雲あまぐもだろうけれど。

 にきびの浮いたはなからずれていためがねをかけなおして、ホガートがうなずいた。和泉いずみきなおる。

「そうなんだよ。それで、おれたちはレオナ・フォックスっていう二年生にねんせいててもらってたんだけど」

「あ。レオナなら、オレも知っています」

 学祭がくさい初日に知りあった少女しょうじょだ。

 二日目ふつかめには、校舎(ない)案内あんないしてもらった。

 きょうはまだ、かけていないが――。

「……どこにいるかも――わかります」


「ほんとかい。たすかるっ」

 ホガートはグッと片腕でガッツポーズした。

「じゃあ。どこにいるかおしえてくれるかな。おれ、よびにいってくるからさ」

 校舎内こうしゃないかな。とエリアをしぼりこんでくるめがねの美大生びだいせいに、和泉いずみ両手りょうてかべをつくっていきおいをさえぎりながらこたえた。

「あ、いえ。オレが行ってきます。なんか……ホガートさん。さっき帰ってきたばっかみたいなんで……」

 いましがたはしってやってきたホガートが、ふたたび使つかいっぱしりに出されるのがいたたまれないのもあって、彼らのゴタゴタに首をつっこんだ和泉いずみである。

「いいのかい。まじうれしい。おんにきるよ!」

「いえ。ぜんぜん、いいんで……」

 破顔はがんして、ぱんッと両手りょうてをあわせておがみだす青年せいねんに、和泉はこっそり肩をおとす。

 このホガートが美少女びしょうじょだったら、彼の感謝も笑顔えがおも、和泉にとって何百倍なんびゃくばいものよろこびになるのだが。

 かなしいかな。やつはヤロウである。

「じゃあ。いそいでいってきますね」

「うん。気をつけて。安全あんぜん第一だいいちでね」

 駆けだしていく和泉の背なかに、ホガートがおおきく腕をふって声をかける。

 ことのなりゆきを、遠巻とおまきにながめていた野次うまたちは、和泉が説明せつめいを受けているあいだにちらほらとけていき、出発しゅっぱつするころにはほとんどいなくなっていた。


 ずっとおとなしくっていたクロが、和泉いずみのとなりにくっついてはしりながら、

「でもさあ、マスター。どこでレオナをたの。ボク気づかなかったなあ」

 釈然しゃくぜんとしない使つか少年しょうねんに、和泉いずみはこっそりおしえた。ホガートたちのいた地点から、じゅうぶんに距離きょりがあるのをたしかめてから。

「ウソだよ。クロ。オレだって、レオナがどこにいるかなんて知らない。でもな、探査たんさ系の魔術まじゅつはつかえる」

「んじゃあ。あの人たちのところでつかってあげればよかったじゃないか。かなり切羽せっぱつまってたし、このさい、彼らがぎらいしている呪文じゅもん型でも歓迎かんげいだったんじゃないかなあ」

「……すまん。その言葉ことばに受けることは、オレにはできないんだ」

 おとといに、この魔術まじゅつ学校の生徒から、襲撃しゅうげきをうけた和泉である。

 にもってるなあー。とおもいながらも、もうなにも言わず、クロはうなだれる主人しゅじんについていった。

 だれにも見つからないところで探査の呪文じゅもんとなえるべく、ふたりはにぎやかな屋外おくがい会場かいじょうをあとにする。


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