44:マテリアライズ
・前回のあらすじです。
『プリンピンキアの学園祭の最終日。屋外の会場にやってきた和泉たちが、出店できていない学生たちをみつける』
「マスター。あの人たちなんかもめてるみたいだけど」
横からクロが、和泉のパーカーのすそを引いてくる。
大声で相談しあう男たちを指さす少年を、和泉は肩をたたいて諫めた。
この場をはなれようとする――。
「探査系は? 使えるやついねーの?」
タオルを頭に巻いた男が、仲間の学生たちをみまわしながらきいた。
「ばか言えルノ。あんな難いのできるやついるかよ」
「そこまでできるやつだったら、『絵』に転向してないって」
「おいおい。みくびるなよ。両立してる人だっているぜ。――たぶん」
やいの。やいの。
言い合っていた男たちが、さっそく探査系魔術をつかえる術者を手配しようとする。
さっき走ってきた眼鏡の青年が、またひとっぱしり行かされるようだ。
ほかにも数人よそをあたるようで、自分がいく方角を、指さししてそれぞれに伝えている。
【探査系魔術】と聞いて、和泉はいてもたってもいられなった。自分は使えるからだ。ただひとつ、問題がある。
人垣の奥から、和泉は男たちのほうに踏みだした。
「あのー。誰をつれてくればいいんですか?」
ちいさく挙手して、男たちに近づく。
「ああ?」
と。てぬぐいの男――仲間には「ルノ」と呼ばれていた――が和泉を見おろす。
部外者がくちをはさんでくんじゃねーよ。と言わんばかりの眼力に、和泉は身がすくんだ。
「いや、えーと。その~」
徐々に声のトーンを落として、和泉はルノに言いつのる。
「オレが知ってる人かも知れないし。ここに来るまでに、見たかもしれないんで……」
ルノは、和泉が腕にひっかけている黒い上衣をちらりと見た。それは【学院】が、教員や魔術研究者に支給している法衣である。
もっともルノには、ただのコートが引っかかっているふうにしか見えないが。
声をかけてきた白髪の青年が、学園祭の客と察して、ルノは全身からただよっていたけわしい空気をぬいた。
「あー……。すんません。店のほうは、まだちょっと出せなくて……」
「探査系の術がつかえる人が必要なんですよね。その、通りすがったときに、聞こえてきたもんで」
和泉は意味もなくぺこぺこしながら取り合った。
ルノのほうも、こちらに他意がないとわかったようで、なるべく気軽に接してくれる。
「んーっと。まあそうなんだけど。どう説明したもんかな」
「あ。じゃあ俺が言うよ。ちょっと休んでおきたいし」
「わりいな。ホガート」
胃のよわそうな、やせこけた眼鏡の青年ホガートは、頬に影のできた顔を、こまったふうにゆがめて和泉に告げた。
「えっと。この校庭に出てる店は、ぜんぶ実物ではなくて、魔法で具現化したものなんだよね」
「具現化……。幻影じゃなくてですか?」
和泉は内心で、声を出した以上におどろいていた。
魔力を具現化する術は、和泉も使ったことがある。だが生みだせるのは「武器」のみ。しかも、術師に固有の種類のものしか出せず(和泉の場合は「剣」である)、それ以外のものを創ることはできない。
和泉の質問に、骨ばった肩をすくめて、眼鏡の青年はつづけた。
「あんまり言いたくないんだけど。幻になっちゃうのは、技術が未熟ってことなんだ。そりゃあ【ミラージュ】っていう分野はあるけど。今は時間がないから、割愛でいいかな」
「はい。――それで。絵を具現化できる人は、この学校では限られている。ってことでいいんですか?」
「そう」
先へとはなしをうながす和泉に、ホガートは大きくうなずいた。