43:アクシデント
・前回のあらすじです。
『レオナの元にやってきた、みどりの髪の少年アキラ。彼が【降臨の儀】について、レオナに伝える』
〇
晴天。
学園祭の三日目――最終日は、目の覚めるような秋晴れにめぐまれていた。
開場時刻である午前九時から、和泉とクロはプリンピンキア美術魔法学校の門をくぐる。
前日の雨の影響か。祭り最後の日とあってか。
校舎まで延々(えんえん)とのびる前庭には、すでに店びらきをしている露店もあるものの、準備中であるところも目立った。
「……? 店、出せないのかな?」
和泉は首をかしげながら、テントもその材料――骨組みやズックの屋根――もない、学生たちだけがたむろしているスペースをのぞきこむ。
頭に手ぬぐいをまいた背の高い男が、もどってきた仲間に「どうだった?」と聞いていた。
「だめだ。どこにもいないよ」
眼鏡の、やせた男が息を切らしながら答える。
「喫茶店のひとにも聞いたけど、だめだった。準備をしたあと、すぐによそに引っぱられていったって」
「よそお? どこの店かくらいわかっただろ」
「教えてもらったさ。で、あっちこっちでたらいまわしさ。おかげで学校中走りまわったけど、見つけられなかった」
息をととのえて、めがねの青年は肩をすくめた。
「やべー」
「どーすんだよ。もう始まってんだぞ」
幻影の妖精がひらひら舞う校庭をみて、いらついた声を出すほかの男たち。
彼らの視線のさきには、徐々に増えつつある祭り客らのすがたがあった。
たいていの通行人は、なにもない――店の出る気配もないその空間を素通りしていくだけだが、何人かは立ち止まって、「あれ。焼き鳥やらないの?」と学生たちに訊いている。
和泉は、そうして群がりつつある人垣のむこうから、石畳だけが敷かれた出店スペースをのぞきみていた。
「くそー。やっぱサークル内に【建築】までできるやついないと、むりだったか」
「んじゃあ。今日はもうあきらめる?」
「材料もったいないだろ。なまものだぞ?」
「マジもんの建材持ってこようぜ。どっかにあるだろ」
「校内にはないよ。業者とかに言ったら貸してくれるだろうけどさあ。あんなもん、ふつうは何日もまえに連絡つけとくもんだろ」
総勢十名ほどの男が、けんけんがくがく。あーでもない。こーでもないと話し合う。
彼らから時折聞こえてくる【建築】という単語に、和泉は一般的な用語ではないニュアンスを感じた。
(……どうしたんですか。って訊くのは……できないこともないけどさあ)
これはウソだった。和泉にはできない。
知らないひとに気楽に声をかけられるほど、彼はコミュニケーション能力に富んではいない。
ましてや、あいての男たちは、遅々としてすすまない準備に怒りのボルテージを上昇させていっているのだ。