42:おしゃれをしたいとしごろ
・前回のあらすじです。
『レオナがキャンパス内のじぶんのアトリエで、ものおもいにふける』
(※前回にひきつづき、サブキャラクターの「レオナ」視点のはなしです)
「あっ。こんなところにいた」
作業場の戸をあけてはいってきたのは、みどりの髪の少年だった。
今年の冬に十三才になる男の子で、十八才以上が学生のたいはんを占めるプリンピンキアにおいて、レオナと同様に年少の部類にはいる。
彼は今年にはいってきた一年生で、レオナは二年生だが、希少な年少同士ということで、なにかと気が合い、行動をともにすることが多い。
「アキラ」
自然とスツールから腰を浮かし、レオナはいつものくせでスカートをなおした。
アキラとよばれた少年は、レオナのもとに小走りする。そしてぎゅっと、彼女の両腕をにぎりしめた。
「よかった。もしかしてアトリエにいるかなーって。見にきたんだ」
「そう」
「? なんかげんきない? おじゃましちゃった?」
レオナの顔をのぞきこみ、すぐに少年――アキラはスレートブルーの瞳をイーゼルにむけた。
レオナはかぶりを振るう。
「ううん。ちょっとやすんでただけ。ひとが多くて、つかれちゃって」
「そういや、さわがしいのニガテって言ってたね。よっぽど特別な思い入れがないかぎり」
「うん」
威嚇的に染められた少年の頭髪を、レオナはしずかに見おろす。
もとは黒にちかいチョコレートブラウンだが、おしゃれをしたい年ごろというのもあって、アキラはあえて天然ではみかけない濃緑をヘアカラーにえらんでいた。
もちろん。染髪するのは意地のわるい上級生からにらまれないようにするという意味も、たぶんにふくまれているのだが。
「あのね。コースケから通達だよ」
ひとなつっこい笑顔を、アキラはくっつかんばかりにレオナにちかづけた。
「あしたの午後一時。学祭のパレードの最中に、降臨の儀をおこなうって」
「じゃあ――」
あかるく、はねるいきおいで言伝をするアキラに、レオナもつられたように、目をきらりとさせた。
「ほんとうにバフォメットさまが?」
「そう。ついに来るんだよ!!」
アキラの歓声に応じるように、レオナも声に喜色をのせた。
ミーコはあえて、ふたりの会話をきかないふりをする。
校舎の窓を、無限の軌跡を引きながら、雨粒がしたたかに打ちつづける。
(『第3幕:学園祭ふつかめ』おわり)
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