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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第3幕 学園祭、二日目(ふつかめ)
39/66

39:まじめに


 ・前回のあらすじです。

『あれ。主人公しゅじんこうのあたま。わるすぎ?』




「わるいんですけど。ノワールさん。はなしたいのは悪魔あくまのことじゃなくって」

 水晶球すいしょうきゅうのむこうにいる女性じょせいに、和泉いずみは言った。

 さして興味きょうみのないちょうしで、あいて――ノワールは聞きかえす。

『そうなの? じゃあ。なんなのかしら』

 社交辞令しゃこうじれいか。でなければ「さっさと切れ」と言外げんがいいているかのような温度おんど感。

 和泉は逃げをもとめるように、となりにすわって待っている使つか少年しょうねんをちらりとみた。

「クロに聞いたんですけど。ノワールさんって、絵とか買いこむことあるみたいじゃないですか。それもけっこう高いやつ」

『あるわよ』

「それってなにを基準きじゅんにして選んでるんですか。あと、師匠ししょう生活費せいかつひって、だいじょうぶなんですか?」

『あら。他人の通帳つうちょうのなかみなんて気にしちゃだめよ』


「いや。さすがにかねを勝手につかうのは見過みすごせませんよ。弟子として」

『うーん』

 水晶玉すいしょうだまでの通信を、切られてしまうかもと和泉いずみおもった。が、使つかにはそこまでの魔力まりょくはない。

 片手におさまるオカルトな通信機つうしんきのなかで、黒い長髪ちょうはつ美女びじょは、すこしだけあたりを――キッチンのとなりにある洋間ようまを――うかがうように、かおをめぐらせる。そこにあるじがいるのだろう。

『できればうちのあるじさまにはだまっててほしいんだけどお』

内容ないようにもよります」

安心あんしんなさいって。べつに借金しゃっきんしてるとかじゃないから』

 こちらの心をみすかして、ノワールは機先きせんせいす。和泉が肩からちからをぬいたのを同意とみなし、彼女かのじょはつづけた。

じつはね。うちのあるじさまって、特許とっきょとか持ってんの。あの子ああみえて手先は器用きようだし。あたまはいいから。でもね、おかねに対して無頓着むとんちゃくってゆーか~。自分がいまいくらくらい貯金ちょきんしてて、毎月まいつきどれだけ使ってるか、らないのね』


 とうめいな球体きゅうたいのなかで、ノワールが()()をつくる。なまめかしいというよりは、あまえような彼女かのじょの仕草に、和泉いずみはあぜんとした。

 ノワールはつづける。

『で。まあ。あるじさまが貯金のがくを知らないのもね。私ってゆー優秀ゆうしゅう使つかが、全部やりくりしてあげてるからなのよ。ちゃんと毎月まいつき不足ふそくにならないようにお小遣いもあげてるし。信用かのじょしてくれてるわけ。彼女は』

「……。……。……。……」

 ずぼらなだけの気もするが。

 金銭きんせんのすべてを他者にまかせるというのは、いくらなんでも無防備むぼうびはなはだしい。

 管理能力かんりのうりょくに自信のない和泉いずみでも、毎月の収支しゅうしは計算しているし、使い魔に財産管理ざいさんかんりのいっさいをまかせることはなかった。まかせようとおもったことすらない。

『とゆーわけでー。私のあるじさまが知ってるのは、私が申告しんこくした金額だけってことなのね。だから私は、実際のたくわえと申告分しんこくぶんとの差額さがくを、自由じゆうにつかえてるってわけ』

「それ。横領おうりょうっていうんじゃないんですか?」


『えらい人たちの社会しゃかいではね。でもねー。私たちとあるじさまなら、べつにいいじゃないの。知らぬがほとけだわ。それに、一生いっしょうかかっても使いきれないがくなんだもの。いいでしょ。ちょっとくらい』

 なっとくはできなかったが、いつまでも脱線だっせんするのももどかしい。

 和泉いずみは近くの人たちが受付うけつけ水晶玉すいしょうだまをもどしていくのを気にしながら、本題ほんだいに引きもどすことにした。

「わ、わかりました。じゃあ。師匠ししょうにはノワールさんの浪費ろうひについてだまっててあげるんで。そのかわり、さっきの質問に、かなり本気ほんきで答えてくださいね」

『ふーん?』

 ノワールが返したのは、挑戦ちょうせん的な声音こわねだった。

『いいけど。あなた。さっき私になんて言ったっけ?』

「絵を買うとき、どういう基準きじゅんで選んでるんですか。って言いました」

 ノワールはなべのほうにもどって、ゆがいていたパスタをざるに引きあげた。湯切ゆきりをする。

 昼食ちゅうしょく。もしくはブランチだろう。もうひる十一時じゅういちじだ。

 食事しょくじのしたくをしながら、ノワールは和泉いずみに答える。

『まじめに返すと、なんとなく。かしらねー』


「あの。本気ほんきでおねがいしますってば。それでこまってる人がいるんだから」

 あいまいな回答にいらついて、和泉いずみすごんだ。

 ノワールはフライパンにオリーブあぶらをひいて、スパゲッティとミートソースをいためあわせながら、さっきと変わらぬちょうしで返す。

「まじよまじ。おおマジ。画力がりょくがないのだって、魔法まほうが使えないのだって、ほしくなったら買うもの。私。逆にめっちゃうまくても、つまんなかったら買わないわよ。んで。作りにとっては不名誉ふめいよなことに、買っても飾らずにクローゼットに閉じこめちゃったり、焼きてちゃったりすることもあるのね』

場所ばしょを取るとか、飾るところがなくなっちゃって。ってことですか?」

『いや。なんかふつーに。いらなくなって。てか、理由りゆうはあんまりないかな。たまに「てるくらいならちょーだい」って言ってくる人もいるんだけど、こっちとしては「あげるくらいなら、私のきなようにさせてよ」っておもうわけで。当初とうしょ予定よていどおり、捨てたり燃やしたりしちゃうのよね』

「……。よくわかんない感性っすね」

『かもね。でも、私にとって芸術げいじゅつってのはそーゆーもんなのよ。あ、だからね。私は絵とかより、コンサートとかげきのほうが好き。あとくされなくて』


「そうですか」

 カクン。と和泉いずみはうなだれた。

 ノワールの意見は、聞くだけ疲れるというか、聞かないほうがよかったレベルのものだ。

 まちがっても、レオナにはおしええたくはない。がっかりさせるだけなのだから。

 こちらの気などつゆらず。ノワールがにっこり笑ってくる。

参考さんこうになったかしら?』

「はあ……。努力どりょくしても意味いみのない世界ってのだけはわかりました』

 よくみがかれた水晶すいしょうのまんなかで、ノワールがおかしそうに笑い声をあげる。

『あははっ。努力どりょくに意味なんてないわよー。価値が高いってだけで』

 ――。

 せりふの後半こうはんで、和泉は(いずみ)うつむけていたかおをあげた。きまちがいかと疑う。



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