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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第3幕 学園祭、二日目(ふつかめ)
38/66

38:ところてん式(しき)


 ・前回のあらすじです。

『ノワールと話しをするために、和泉いずみ水晶玉すいしょうだまを借りにいく』




 ピンク色のプリン。パンフレットには二頭身にとうしんで描かれている、プリンピンキアのマスコットキャラクターだ。

 それが等身大とうしんだいの着ぐるみになると、子どももきだす不気味な造作になることを、和泉いずみは移動(ちゅう)に悟った。

「よーおこそお。プリンピンキア美術魔法びじゅつまほう学校へっ。今日きょうはたのしんでいってねえー!」

 はしゃいだみたいな高音こうおんだが、なかの人がむりをしているのはわかる。

 地声じごえがどんなものかは知らないが、このマスコットキャラクターから出てくるおとは、なかの人の手を握りしめて「もうしゃべらないでください!」とおねがいしたくなるほど引きつっていて、かすれていた。

「プリンピンキアへ、ようこそおおおー!」

『ゴッホホ教授きょうじゅ美術展(びじゅつてん)。ここよりうえです↑』

 としるされたボードをかつぎ、お客を誘導ゆうどうしているなな頭身のプリン。

 ゴッホホというのは、プリンピンキアの学校長がっこうちょうであり、高名こうめい画家がかでもある魔術師まじゅつしだ。

 どうやら、校舎の三階さんかい展覧てんらん会はひらかれているらしい。

 等身大のプリンをよけて、よそへいこうとするデートきゃくにしつこくつきまとい、むりやりうえの階へといたてていく。


「……。……あの」

「プリンピンキアへ、よおこそ!」

 サーモンピンクの手袋をひらひらさせて、ミルク色の全身ぜんしんタイツにつつまれた長身ちょうしんを、かるくかがめてプリンが和泉いずみに声をかけてくる。

 これがもうじゅっ以上(いじょう)つづいていた。

 最初さいしょ素通すどおりしようとした和泉をとおせんぼして。

 つぎは、よけようとした和泉のまえで、両腕をひろげて仁王立におうだちして。

 つぎは、――。まあ。似たようなやりとりの繰りかえしである。

 いいかげん、和泉はいらいらしていた。

「プリンピンキアへ……。ごふぉおうっ!」

 ぐいぐいと背中せなかしてくるプリンに、あきらめて階段をのぼろうとせかけて、おもいきり裏拳うらけんをたたきこむ。

 常時じょうじにっこにこのプリンのかぶりものは、なにでできているのか。ほどよく硬く、ほどよく柔らかかった。

 そして和泉の鉄拳てっけん威力いりょくを、ほどよくなかのひとに伝えてくれた。

「ぐ……ぐふう。……や。やりおるわい……」


 ピンクのプリンはあおむけにたおれて、しゃがれた低音バスでうめいた。

 絵であるはずのくちから血を垂らして、がくりと気絶する。

校長こーちょーせんせー!!」

 近くにいた生徒たちが、血相けっそうを変えて飛んでくる。

 何人なんにんもの若い学生に介抱かいほうされて、医務室いむしつに引きずられていくプリン校長こうちょう和泉いずみ命名めいめい)を尻目しりめに、和泉はうえの階段のほうにむけていたからだを反転はんてんさせる。

 じゃまもののいなくなった一階いっかいの廊下をすすんでいく。


 〇


 エントランスにあった案内板あんないばんにしたがって、事務室じむしつをたずねた。

 事務員じむいんおとこは、た感じ「ふつう」のひとで、彼はよそからの客のもうに、なれたちょうしでおうじた。

 水晶玉すいしょうだまを貸してくれる。

 窓口まどぐちからみえるエリアで使うようにということ。使いわったら返却台へんきゃくだいに置くように。という注意ちゅういを受ける。

 事務所じむしょの近くには、いろんなおおきさの水晶玉を手に、しゃべっているひとたちがいた。

 彼ら彼女かのじょらもまた、和泉いずみのように、この学校からりているらしい。

 和泉は先客のいるながいすを避け、すこしはなれたところに席をさだめた。

 クロをとなりにすわらせて、通話つうわちゅうにははいってこないようにクギを刺しておく。

 クロはいちおう了解りょうかいしてくれた。


 椅子いすに深くをしずめて、和泉いずみはひざのうえにいた水晶玉すいしょうだま――ソフトボールくらいの、ちいさいタイプだ(水晶玉のサイズによって、通信のさいに術者じゅつしゃにもとめられる魔力まりょくりょうが変わる。ちいさくなるほど、映像や声が調節ちょうせつしづらくなるため、魔力まりょくおおくひつようになる)――の、とうめいな表面ひょうめんに手をあてる。

 通信したいあいての位置いち――ノワールの住所じゅうしょだ――を、意識(ない)で指定。

 きとおった球体きゅうたい中心ちゅうしんに、あいてのぞうが浮かびあがる。

 ぐつぐつ。なにかをおとがする。

「もしもし。ノワールさん。オレです。和泉いずみです」

 和泉は水晶玉にうつる人影によびかけた。あいてがこたえる。

『はーい。おひさしぶりー。ってほどでもないか。なんかあったの、和泉くん』

 みみ黒髪くろかみをひっかけて、あいてはかおを近づける。ノワールだ。

 なにか作っているみたいで、片手にはおたまのがみえた。

「なんか。いいにおいがしますね」

『ぎゃあっ。さいってー。そこまで感度あげてるの? マナー違反いはんよ。さげてさげて!』

「わっ。すみません」

 そそぐ魔力量まりょくりょうを和泉はあわてて制限した。

「すみません。水晶玉すいしょうだまはめったに使わないもので」


 ノワールが「感度」と言ったのは、五感にあたえる影響えいきょうつよさのことである。ふつうは聴覚ちょうかくと視覚のみ、むこうがわの情報じょうほう受信じゅしんさせる。

 が。調整ちょうせいをまちがえると、においやあじ、時には感触かんしょくさえ、なまなましくこちらに知覚ちかくさせてしまうことがある。

 ノワールからのにおいが消えていく。

 調整がうまくいったのだ。

 ほーっ。と和泉いずみは息をつく。ノワールも機嫌をなおす。

『ほんで。和泉くん? 調査ちょうさ進捗しんちょくぐあいでも、ご連絡にきてくれたのかしら?』

「ちょうさ。……?」

悪魔あくまの」

 ノワールが、金色きんいろをうろんにして指摘してきした。和泉は「なんのこっちゃ?」と首をかしげてから、はッとする。

「……は。はっ。……はい! そりゃあ、もうっ。誠心誠意、粉骨砕身ふんこつさいしん。がんばってるところですよおー! シロのためにも!」

「どーおてもわすれてたってかおだったんだけどー?」

「は、はは。すみません。きのうまでは、ちゃんとやってたんですけど。それなりに」

 和泉は白状はくじょうした。

 レオナのことで、あたまのキャパシティがオーバーして、当初とうしょの目的がすっぽぬけてしまったのだ。すこーんっ。と。


 ひとののうみそは、先にはいった記憶きおくがあとの記憶によってしだされる――「ところてん式」なのだ。

 それとも。そんなおぼえのわるい構造をしているのは……和泉いずみだけなのだろうか。


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