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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第3幕 学園祭、二日目(ふつかめ)
37/66

37:意見の場(ば)にて。


 ・前回のあらすじです。

『レオナが、「教授きょうじゅ」というえるかたちで結果を出せている和泉いずみうらやむ』



 〇


 芸術げいじゅつ

 というものはよくわからない。と和泉いずみは痛感した。

 それでっていこうという人の気持ちも知れなければ、それを買おうというひとの気も知れない。

 もっとも。【おもて】にいたころには漫画まんがやゲームにたくさんお世話になった和泉である。だからそうした娯楽ごらくもまた芸術のひとつと言われれば、「そういうもんか」と納得なっとくせざるを得ないのだが。

(言われてみれば。確かに「なんで?」なんだよな)

 廊下にならんだ椅子いすすわって通路にあしをなげだし、和泉はレオナの問いかけを考えていた。

 なぜ。ていて「いいなあ」くらいにおもうものであっても、「買おう」とは考えもしないのか。

 黒い法衣ほうえ今日きょうもぬいだ状態じょうたいで、いまはブランケットのようにひざのうえにかぶせている。

 ざあざあと屋外おくがいにふるあめに、気温きおんは低下傾向(けいこう)で、冬用ふゆようの黒い上衣うわぎは、身体を冷えからまもるのにちょうどいいあたたかさだった。

 となりにはクロがいる。

 レオナとミーコには、ひととおり校内こうないを見てまわったあとに、こちらから言いだして案内あんないを切りあげてもらった。

 彼女かのじょたちがいなくなってから、存分になやめるよう、和泉はこっそりと一階いっかいのギャラリーにもどってレオナの絵のついたはがきと、ほかの人が描いたものを一葉いちようずつ購入こうにゅうし、こうして人通ひとどおりだらけの通路のすみで、休憩きゅうけいがてら見比みくらべている。


「なあ、クロ。おまえさあ、どーゆーこと考えてもの買ってる?」

実用性じつようせい

「むずかしい言葉ことばを知ってるな」

 使つか少年しょうねんの、もふたもない返事を聞いて、和泉いずみはうなだれた。

 画工えかき系の魔術師まじゅつしにとっては、クロの回答かいとうはまだすくいのあるものかもしれない。ただの絵とはちがって、彼女かのじょたちのつくる作品には「魔法まほう」という付加価値ふかかちがある。

 レオナも、ただの画家ではなく、絵を描く魔術師として生きていきたいと言っていた。だったら、まがいなりにも魔術まじゅつの専門家としてアドバイスできることがあるのではないか。

「ためしに使ってみないことには、なんも言えないよな。例えばさー。この絵を解放かいほうすることで、あめをやますことができれば買うひとも出てくるわけで」

「おまもりみたいなあつかいだね」

 退屈しているクロがのびをする。

 和泉は「同感だね」とつぶやいて、絵はがきをひとつ、閉じたまどにほうりなげる。


 まるでぽいてみたいにとうじられた作品は、太陽たいよう抽象ちゅうしょう的にえがいたものだった。溶鉱炉ようこうろのように、バーミリオンとはがねの色をベースにつくられた油絵あぶらえのコピーが、ふわりと豪奢ごうしゃ上空じょうくうにひるがえる。

 一葉いちようの絵はひらりとって、作り手の想像を顕現けんげんした。

 ぱあああっ。

 と聖画イコンのぬられた天井てんじょうから、金色の光が降りそそぐ。

 はる木漏こもめいたそれは、温度おんどがあり、あたたかかった。やぼな言いかたをすれば――。

暖房だんぼう器具にはなるか?)

 光は和泉いずみが考えているあいだに消えた。持続力じぞくりょくがなさすぎる。演劇の効果くらいにはなるだろうか。一瞬いっしゅんのひらめきと、ぬくもり。

 昨日きのう、みどりのかみおとこに突っかかられた時もそうだったが、絵の魔法まほうというのは、使いどころにこまるものが、やたらとめだつ。

(あのガキのも、死神しにがみのカードは使えたんだよなー。それこそ非常時ひじょうじの切り札として、あの殺傷力さっしょうりょくはほしい。でも、たった一発いっぱつでおわりだった。原画はもっと攻撃回数(かいすう)があるのかもしれないけど、かさばるし。――ってなると、実用性じつようせいってないな。絵魔法えまほうは。使い勝手で言ったら、断然ふつーの、呪文じゅもんをとなえる魔術まじゅつのほうがいいや)


 レオナのなやみは、物理的なめんからでは解決のしようがない。純粋じゅんすいに、芸術がいじゅつの点からのアプローチがいる。

「そんなの、しろうとのオレにわかるわけがないんだよなあ」

「もー。なんだよマスター。さっきからなにきったない雑巾ぞうきんみたいなかおしてるの?」

「……そうか。オレはなやんでたら、汚い雑巾みたいな顔になっちまうのか。はじめて知ったよ」

 そして知りたくなかった。

 クロは落胆らくたんするあるじにかまわず。

「絵だったらさー。ノワールに訊けばいいじゃん。あいつ、ときどきとおまちにまで行って買ってくるんだよ。なん百万円びゃくまんえんとかするやつ」

「うそつけ。おかねはどーしてんだよ?」

あるじさまからこっそり借りてるんだって」

「いい度胸どきょうしてるな」

 ノワールの主人しゅじんは、和泉いずみ直接ちょくせつ指導してくれた先輩せんぱい――師匠ししょうである。

 何度なんど使つかといっしょにいるところをたことがあるが、和泉の所見しょけんでは、あるじのほうが尻にしかれているという印象いんしょうだ。

 サイフのひもも、がっつり握られていても不思議はない。ただしそのひもは、固くむすばれてはいないみたいだが。


「…………。あそこ。アンケート取ってるけどさ」

 一階いっかいのギャラリー――そこからすこし移動したところで、和泉いずたちはやすんでいる。

 ――展示室てんじしつのでぐちでは、学生たちが展示会をわった客らに声をかけていた。用紙ようしへの記入きにゅうをおねがいしているのだ。

 和泉は出てきた時に、すすんで書いてみたが、ほかの人たちは大抵ことわっていた。

 質問の内容ないようが、展示されている作品への評価ひょうかかんするものがおおいのをおもうと、見物人たちがあいてをするのをこばむのも、わからなくもない。

(でも。たなら答えられるんじゃないのか? 魔術まじゅつ的な要素ようそについて問われてることはなかったしな。大した手間てまでもなし。答えかたをまちがったからってなぐられるわけでもない。むこうからいてこないならまだしも、訊いているのに回答そのものを拒否(きょひ)ってのは、どういうことなんだろう?)

 かくいう和泉いずみも、レオナとの一件いっけんがなければギャラリーの感想なんてもとめられたところで、「あ。そのー。べつのところ、見に行きたいんで」と、さっさと移動しただろう。

「しょうがない。ここでグダグダしていても、解決できそうにないし」

 和泉は椅子いすから腰をあげる。通信用つうしんよう水晶玉すいしょうだまを借りられないか。事務室じむしつをたずねようと、クロをつれて案内板あんないばんを見にいく。

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