36:これが青春(せいしゅん)・・・か。
・前回のあらすじです。
『和泉がレオナに、絵の感想を求められる』
「試すようなことをしてごめんなさい」
レオナは和泉から視線をはずした。
よほど自信をなくしているのだろう。彼女の謝罪には、なにもこもっていなかった。つくり手として、「訊いてなにがわるい」とさえ思っているのではないか。
そんな、怒りさえ感じる。
「べつに、本気で買わせようなんて――。――いえ。思っているんでしょうね。私は。でもね。それ以上に、気になったんです。これをみた人は、どんな風に思うんだろうって」
「意見を聞きたかったってこと?」
和泉は慎重にレオナに問いかえした。
感想ならもう言ったじゃないか。とつけたしたかったが、レオナが言いたいのは、そういうことではないのだろう。
レオナがこちらをむく。
「あの。和泉さんは、大学の教授をしているとお聞きしましたが」
「……まあ。そうだよ」
「それって、どうやってなられたんですか?」
「きみが知りたい答えは出せないよ。オレには」
この時ほど、和泉は自分の右手にある指環が恥ずかしくなったことはない。
魔術師として、積みかさねてきた歳月と修練には、なんら落ち度とみとめるところはない。
けれど。レオナのように、壁にぶつかって。なやんで。まよって。それでも得たいものが手にはいらない人間をまえにして、なにかを語ることがゆるされるほど、えらくなったおぼえもなかった。
「……」
返事をはぐらかした和泉から、レオナは自分の足もとに静かに目をそらす。
「うらやましいな」
と彼女は言った。