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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第3幕 学園祭、二日目(ふつかめ)
34/66

34:費用(ひよう)


 ・前回のあらすじです。

『ホテルに泊まった和泉いずみたちを、レオナたちがむかえにくる』



 〇


 あめのなかをレオナたちとあるく。

 それぞれコウモリがさをさしているため、距離きょりはあくが、フィレンツォーネの道幅みちはばは、それでも窮屈きゅうくつにならないほどにひろく設計されていた。

 まだシャッターのしまった店舗てんぽや、鎧戸よろいどをしめた民家みんかのならぶとおりを行き、プリンピンキア美術魔法びじゅつまほう学校につく。

 昨日きのうあれほど賑っていた学園祭がくえんさい屋外おくがい会場かいじょうは、森閑しんかんとしていた。

 露店はすべてなくなり、前庭まえにわを形成するコンクリートタイルのゆかが、校舎までガランとのびる。

 妖精ようせいや、イラストタッチの動物たちの幻影もなかった。

 時刻は九時をまわっていた。入場にゅうじょう客はすくないが、ちらほらと、雨具あまぐを持った人たちが校庭を行き、開放かいほうされたエントランスにむかっていく。

 和泉いずみはレオナたちと校庭をすすみ、玄関口げんかんぐちに立った。かさをたたんで、スタンドに置く。

「はあ」

 とレオナが息をついた。

「だれかと約束とかあるなら、むりに案内あんないしなくてもいいんだよ」

 ものうげなレオナのようすに、和泉いずみよこから声をかけた。ブーツのしずくをゆかにつまさきをトントン打ってはらいながら、レオナは首をふる。


「ちがうんです。男爵様にまたったら、どうしようかと」

「苦手なの?」

 レオナの返答はえきらなかった。うん。とも、はい。とも言わない。

「いいひとではあるんです。私がこの学校に入学にゅうがくできたのも、あのひとのおかげだし。……あの、」

 レオナは和泉いずみが廊下にあがるのをってから、あるきだした。

「プリンピンキアの学費がくひって、いくらくらいだとおもいます?」

 レオナの質問に、和泉は自分のこめかみをかいた。学費のことは、自分がお世話になっている【学院がくいん】をふくめ、ちっとも気にしたことがない。

 考えあぐねている和泉に、レオナがくすりと笑う。自嘲じちょうするみたいに。

基本きほん的に、この領地りょうちでは学費って無料むりょうなんです。でも、絵や造形ぞうけいをモチーフとした魔術まじゅつをあつかう学校は、材料ざいりょう費がかかるので。そういうわけにもいかず……」

「じゃあ?」

「ふつうに、絵だけをおしえる――じゅくもあります。学校じゃないけど。それも全額、負担ふたんしてくれるんです。塾だって、かなりの費用がかかりますけど、ここよりは、はるかにやすい。――プリンピンキアは、はちけたのがくの世界なんです」


「いっ……。せん、まん……?」

 そんなばかな。と和泉いずみはぎょうてんした。

 学祭がくさい初日しょにちに、ここの美大生から聞いたはなしで、画材に魔鉱石まこうせきが使われているというのは知っていた。

 魔鉱石は、生産・採取さいしゅの都合(じょう)市場しじょうでの流通りゅうつう価格が高く、それを使った絵の具や粘土ねんどが、高価になるというのもしかたがない。

 しかし、学校がになう役割は、「おしえる」ということであり、材料費がかかるからといって、一千万いっせんまん単位を取るのは暴利ぼうりな気がした。

「えっと。でも。けっこう生徒さん、おおい感じだよな。なんか支給型しきゅうがた奨学金しょうがくきんがあるとか。そんな感じ?」

 和泉は一階いっかいの廊下を移動するレオナに訊いた。うしろから、クロもついてきている。ミーコととなりあって、クロはあるいていた。

 宮殿きゅうでんづくりのひろい通路に、みせをはじめた学生たちや、きゃくらの足音あしおと。はなし声がする。

「ここにいる大半たいはんのひとが【貴族きぞく】なんです。あとは、商人しょうにんとか。実業家じつぎょうかの子どもとか。もちろん、おとしをしてから来られるかたもいて……。ご自身が領主りょうしゅということもあるのですが」


「ま、まあ。庶民しょみんには縁遠えんどおいってかんじはあるわな……」

 学費の時点からして、切りてられている気がした。

 レオナも同意するようにうなずく。

一般いっぱんの人も、いるにはいます。土地にもよりますけど、領主りょうしゅさまがおかねを出してくれるということもあるんです。特待生とくたいせいになれば、学費は全額免除(めんじょ)なので、そのわくをねらう生徒もいる」

「きみは? 特待生になれたの?」

 和泉いずみが訊くと、レオナは「いいえ」と笑った。

「私は、故郷こきょうの領主さまに出してもらっているんです。たしかに絵はきだったし、勉強べんきょうもしたかったけど。大学はあきらめてた。自信もおかねもなかったし。そりゃあ、画工がこう系の魔術師まじゅつしとして生きていきたいって気持ちはつよかったけど……。プロになれるのって……ひと握りだし」

 レオナの声は、だんだん小さくなっていった。視線も、つられるようにさがっていく。

 和泉いずみ彼女かのじょをげんきづけたくて、言った。

「でも。領主はきみに出資しゅっししてくれたってわけだ。それで入学にゅうがくして、いまは勉強(ちゅう)なんだろ。それでいいじゃないか」

「ええ……」


 レオナはうつむいたままだった。

「わかっているんです。それは。でも、私。あの人がなにを考えているのかわからない。怖いんです。協力きょうりょくをしてくれるのは嬉しいけど、すなおに受け取れないというか。期待をされているのか。プレッシャーをかけられているだけなのか。……全然、わるい人じゃないのに」

 レオナは一気いっきむねの内を吐露とろした。

 しばらく、四人よにんのあいだに無言むごんの時間がつづく。

 使つかのミーコが、小走こばしりでレオナのそばにつき、はげますように、主人しゅじん横顔よこがおをのぞきこんだ。

和泉いずみさん」

 レオナがふいに切りだす。

「あなたの用事ようじわってからでかまいません。ちょっと、つきあっていただけませんか?」

 ――ごらんになっていただきたいものがあるんです。

 と。レオナは懇願こんがんするように、和泉いずみをみつめた。


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