表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第2幕 芸術の都(みやこ)にて
31/66

31:けむりのヴェールのむこう





 ・前回のあらすじです。


おそいかかってきたトラに、和泉いずみが人間化の魔法まほうをかける』











 他人の使つかをむりに人間にかえるのは、一般いっぱん的にあまり感心される行為こういではない。

 とはいえ非常ひじょう時における緊急避難きんきゅうひなんとして、いちおうの釈明しゃくめい余地よちはあった。

 ただし。あいての使い魔に魔法まほうをかけられるだけの力量りきりょうがなければ、そもそもこの議論は成立しない。

 そして大抵の場合ばあい、他者の使い魔をばけさせるのは至難しなんのわざだった。

 主人しゅじんとなる魔術師まじゅつしと、じゅつをかける魔術師とのあいだに、それだけの実力差じつりょくさがなければ、使い魔の内なる能力のうりょく強引ごういんに引き出すことはできないからだ。

 魔法陣サークルの外側にいるトラは、うすれゆく白煙はくえんのなかで、人のシルエットをとっていた。

 和泉いずみ魔術まじゅつは成功したのだ。

 じまんをするつもりであらためて明言めいげんするが、和泉はそこらの魔術師あいてであれば、魔力まりょくりょうつよさにひけを取らない自信があった。

 【学院がくいん】での修業しゅぎょう半端はんぱではないのだ。


「わあああああん!」

 じゅつの成功に、ひとり「やったぜ」とえつにはいっている和泉いずみみみに、かんだかい声が響く。

 みずをあびたドライアイスのように、人影のあしもとにまってはながれる白い気体きたい

 けむりのヴェールのむこうにあらわれたのは、褐色かっしょくはだおんなだった。

 黄色いながかみをシニョンにって、白地しろじにピンクの花模様はなもようのチャイナ服を着ている。

 背中せなかには、パンダのかたちのリュックサックを背負しょっていた。年齢ねんれいは五才か六才。

 和泉の身長しんちょう半分はんぶんほどもおおきさのない――ちいさな女の子が、大きな声をあげていていた。

「あーあ。いーけないんだー。いけないんだー。マスターちっちゃい子泣かせたー」

「やめろっ。ただでさえ自分で『やべっ……』っておもってるとこなんだ。こんな状況じょうきょう、なんも知らん第三者にみられたら……問答無用(むよう)でリンチだぞ!」

 まっさおになって自分のあたま両手りょうてで抱えて、和泉はあおってくるクロにわめいた。

 地肌じはだの黒い、エキゾチックなはなやかさと、子猫こねこみたいなあいらしさの共存きょうぞんする少女しょうじょは、ふさふさした睫毛まつげのぬれた両目りょうめに手をあてて、わんわん泣きつづけている。


「ぬしさまーっ。どこーっ? へんなおにいちゃんたちが、私をいじめてくるよおおおお!」

「ちっ。ちちちっ。ちがうっ。ちがうんだ、きみ! オレは、全然あやしい魔術師まじゅつしなんかじゃなくって」

「それってさあ……。めっちゃ犯罪者はんざいしゃ的なせりふだよね」

 となりから茶々(ちゃちゃ)をいれてくるクロにゲンコツをあびせて、和泉いずみだまらせた。

 あたまのてっぺんを両手りょうてでおさえてしゃがみこむ少年しょうねん尻目しりめに、あたふた、チャイナ服のおんなをなだめる。

「オレは、レオナって人からミーコっていう子をさがすようたのまれてさ。ひょっとして、きみがそのお――ミーコちゃんかなあ?」

 ひざを完全にりまげて、ほとんどすわりこむようになりながら、和泉は女の子のかおをのぞきこんだ。

 まぬけなことに、和泉は事前にレオナの魔力まりょくにおいを記憶きおくしていなかったのだ。

 もっとも。普段から他人のにおいをくんかくんか嗅ぎまわるような性癖せいへきを持ったおぼえはないで、それもしかたないのだが。


 レオナ。という名前なまえが出たあたりから、少女しょうじょき声は止まっていた。

 ひっく。ひっく。しゃくりをあげて、彼女かのじょはゆっくりちついていく。

「……うん。ミーコは私だよ。ぬしさまが、私をさがしてるの?」

「うーん。まあ。そういうこと。オレはその手伝いをしてて。で、途中とちゅうにちょっとした事故にあって、ここに飛んできちゃったんだ。その時に、きみの背中せなかに落ちちゃったんだよ。痛かったよな。ごめんね」

 ちいさい子と交流こうりゅうすることのすくない和泉いずみは、一生懸命いっしょうけんめい敵意のないことをしめそうと、へたな笑顔えがおをつくり、なれないねこなで声を出して少女しょうじょをあやした。

 とはいえ。謝罪についてはまじめである。

 クロが和泉のうしろから、少女にひょいと顔を出す。

「ちゃーんときみの主人しゅじんのところにつれてってあげるからさー。もうくなよ。っていうか。なんできみ、こんなとこにいるの?」

「…………」

 少女――ミーコはシニョンからはみだした二本にほんのほそいみをゆらして、顔を伏せた。

 つれていってあげる。とクロに言われて、和泉の法衣ほうえのすそをぎゅっと掴む。


 とりあえず薔薇園ばらえんにもどろう。と和泉いずみが立ちあがると、少女しょうじょはしゃっくりのおさまった声でふたりに告げた。

「私ね。男爵だんしゃくさまをいかけてきたの。でも、とちゅうで見失みうしなって……。どうやってぬしさまのところにもどればいいか、わからなくなっちゃったの」

「それでここにはいりこんだってわけか」

 先を引きつぐ和泉いずみに、ミーコはこくりとうなずいた。

「うん。だってほかのところは人がおおくて……。こわくて」

 クロのほうに言って、和泉はミーコと手をつながせる。

 自分よりサイズのちいさなおんな機会きかいのすくないクロは、「しょおがないなあ~」とカッコつけて渋っては見せたものの、意気揚々(いきようよう)彼女かのじょの手を握りしめた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ