3:のたのた、あるいてくる。
・前回のあらすじです。
『ポストのまえで、ウサギとネコがはなしをする』
シロは両手をいのりのかたちに組んでうったえた。
「だってうちのご主人ったら、『手紙を出してこい』って言っておきながら、『あなたがとどけたいと思うなら、入れてきなさい』って、私に判断をゆだねてくるんだもの」
「私は内容を知らないから、なんとも言えないんだけどー?」
腰に手をあててまえかがみになり、ちいさい子をしかりつけるように、ノワールは目をすごませた。
ウサギの特徴が『耳』にのこり、なおかつ「ご主人」と彼女自身がくちにしたように、シロもまた契約者のいる動物、【使い魔】である。
ふたりとも、ここよりもうすこし北にいったところにある山のなか――その中腹にある【学院】で生活をしているよしみだった。
だが各々で、つかえるべき主――契約をかわした魔術師は異なる。
シロは【学院】の長をつとめる魔女につかえ、ノワールは学院付属の研究所で研鑽にはげむ、魔術研究者につかえている。
立場としては――使い魔に〈立場〉があるとすればだが――シロのほうが上にあたるのだが。
「うう……」
手紙に記載したことがらについては、はなしていいものかまようシロである。
しかし、おやすみのところを「私じゃ判断できないから、ノワールさんおねがいしますっ」と無理に役目を押しつけて、実際に投函してもらったのだから、まったくの手ぶらで帰らせるのもいただけない。
「へんな組みあわせだなー」
ぴくり。
とシロの長い耳が動いた。
聞きなれた声がしたのだ。
ノワールが出てきた店から、ふたつはなれた大衆食堂。
そこから、のたのた歩いてくる人の影。
「あっ。和泉。めずらしくいいところに」
「めずらしくか……」
ほめられているのかけなされているのか。
判別がつかず、シロに声をかけられた青年はげんなりした。
食堂からやってきた人影――白い短髪に黄色いサングラス、灰色のパーカーにカーゴパンツの、十八才の【魔術師】である。
さえない見た目に反して、彼は魔術の名門と名高い【学院】の教授だが、今日は教員用の黒い法衣は着ていない。
十月にはいり、肌ざむさを感じるようになった外気から身体をまもるため、法衣のかわりになが袖のパーカーをつけている。
右のそでぐちからは、中指に鉄と真鍮でできた指環をはめた手がのぞいていた。