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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第2幕 芸術の都(みやこ)にて
29/66

29:逃げるんだよおおおおお


 ・前回のあらすじです。

和泉いずみが、みどりのかみ少年しょうねん魔法まほうで、どこかになぐり飛ばされる』








 ぼよんっ。

 和泉いずみは腰をしたたかに打った。

 なにか柔らかい――弾力だんりょくのあるものの上である。

 かるくはずんで、広い舗装路ほそうろ顔面がんめんから落ちる。

 尻を天に突きあげたなさけないかっこうで、「ぐぐぐ……」としたままうめく。

「くっそ~。なんなんだあのガキは」

 両腕りょううでにちからをこめてこす。

 よこをむくと、レンガブロックで整地せいちされた敷地に一軒いっけん洋館ようかんが建っていた。

 エントランスにけものきものがよこたわっている。

学生寮がくせいりょう……か?」

 和泉のそばに、からすおくれて到着した。

 とりのすがたから黒髪くろかみおとこに変化したクロが、屋根やねのてっぺんで風見鶏かざみどりのキィキィいっている屋敷をあげて言った。

合宿所がっしゅくじょじゃないかなあ。サークルのメンバーとかで使うような」

「あー。サイズ的にそうだよな。いくら魔術まじゅつで空間が拡張かくちょうできるつっても、あんまりちいさいとこにおおきいスペースはつくれないもんな」


 和泉いずみたちが下からながめている洋館ようかんは、一世帯いちせたいがのんびりくらせるほどの規模きぼがあった。

 だがひとつの学校の生徒を長期ちょうき的にあずかると想像するには、いささかむりがあるだろう。

 そんなおおきさの家屋かおくだ。

 クロが視線を下にもどして、あっけらかんとした声をだす。

「でも。飛ばされてよかったよマスター」

「やめろよ。けっこう痛かったんだぞ。運よくきものがなかったら……ケツ割れてたぞ」

「しょーもないこと言わないでよ。ってか置きものってなに? ボク、この子のことマスターに報告ほうこくしようっておもってたんだけど」

「あ? この……。……こ。……」

 和泉はクロのゆび先をって、エントランスのまえをた。

 三段の階段の一番いちばん下に、和泉を受けとめた物体が、あいかわらずねそべっている。

 ぎょろ。

 とそのオブジェクトのが開いた。ヘイゼルナッツの色をした、険しい光沢こうたくをまとうつぶらな双眸そうぼう

 あぜんとくちをあけて立ちつくす和泉のまえで、むくりと、金と黒の縞模様しまもようが、ふわふわの毛なみをつやめかせてきあがる。

 猫科ねこか特有とくゆうの頭部のうえで、獣類じゅうるいみみが、神経をぎすませるように動いていた。


「クロ……。こいつは?」

 となりの少年しょうねんに聞いたものの、和泉いずみはすでに答えが出ていた。

 とらだ。

 日本にほんにいたときに、母親ははおやにだだをこねてつれていってもらった動物園でたことのある。ベンガルトラ。おりのまえに、子どもむけのイラストとポップな書体しょたいで、「きけんなのでさくのなかにははいらないでください」と書かれていた。

 猫科ねこかで最大の動物。

 ゆったりとこして、かぶりをひとつ振り、こちらのようすをうかがうように、のまえのトラはひたひたとあるく。

 全長ぜんちょう一四〇(ひゃくよんじゅっ)センチほどのその体格は、たしてトラとして「小柄こがら」なのかどうか。

 動物園の説明欄せつめいらんをこまかくんでいない和泉にはわからなかった。

 今度、図鑑ずかんでもひらいて調べてみようとおもう。

 生きて帰れたらのはなしだが。

「がああああああああ!!!!!」

 トラは雄叫おたけびをあげた。

 おひるねしていたところを、そらから見知みしらぬおとこしり攻撃(ヒップアタック)され、激怒しているのだ。

 空気をびりびり震撼しんかんさせる咆哮ほうこうに、和泉は鼻水はなみずを垂らしてしばらく放心ほうしんした。


 過去にモンスターに遭遇そうぐうした時より逼迫ひっぱくした……心臓をワシづかみにされたような恐怖きょうふが、全身の血流けつりゅう麻痺まひさせて思考をストップさせる。

「マスター。あいつ、なんかおそいかかってきそうだけど――」

 クロがあいてをゆび差して、和泉いずみ法衣ほうえのすそを引っぱった。

 ベンガルトラがを引きしぼり、声をあげて、和泉たちめがけて飛びかかる。

「にっ……逃げるんだよおおおおおおおおお!!!!」

 クロをわきに抱えあげ、和泉いずみはまわれみぎをした。

 けもの鼻息はないき足音あしおと背中せなかにせまるのを感じつつ。出口でぐちをめざしてダッシュする。


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