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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第2幕 芸術の都(みやこ)にて
28/66

28:アクションゲームなトラップ。


 ・前回のあらすじです。

和泉いずみがみどりのかみ少年しょうねんに、絵の魔法まほうで殺されかける』




 ぽひゅん。

 死神しにがみけむりになって消えた。

 次撃じげきにそなえていた和泉いずみは、あいてがどこかへテレポートしたと考えて、警戒けいかいを解くことをしなかった。

 きょろりとうしろをる。

 ――いない。

 であれば、頭上ずじょうか。

(うえにもいない。……じゃあ?)

 和泉は少年しょうねんのほうを見た。初撃しょげきをはずして、ぷうとほおをふくらませている。そんなのんきないかりがゆるされるほど、まったりとした攻撃ではなかったが。

「うう……。ぼくの自慢じまんの『魔王まおう』が……。こんな変質者なんかに……」

「だからっ。変質者じゃないってーの!!」

 和泉は肩をそびやかして訂正を要求ようきゅうした。腕にひっかけていた黒い法衣ほうえ羽織はおりつつ。

 少年の絵魔法えまほう披露ひろうされたあとでは、もはや防御ぼうぎょに対して、なりふりかまっていられなかった。

 騒ぎに気がついた散歩客さんぽきゃくや、花畑はなばたけ保養ほよう休憩きゅうけいしていた人たちが、ざわつきながら和泉と少年のほうに注目ちゅうもくする。

 近づいてくるものもいた。


 そのなかには、少年しょうねんとおなじように、絵の具をくっつけたまえかけや、つなぎを着ている魔術師まじゅつし――美術魔法びじゅつまほう学校の学生らしきすがたもある。

 彼らを気にしつつ、和泉いずみは少年からも視線をはずさなかった。

 和泉がまとった、魔力まりょくに対する抵抗をもつ黒い法衣ほうえは、【学院がくいん】の教員きょういん研究けんきゅう者クラスに支給しきゅうされる衣装いしょうである。

 それをまのあたりにして、みどりのかみの少年の、うすい青灰色スレートブルー両目りょうめがみひらかれる。

「それは、【学院】の先生だけが着ることをゆるされる……」

回答かいとうは控えさせてもらう。どーもこの学校の人たちは、呪文じゅもんを使う魔術師まじゅつしぎらいしてるみたいだからな」

 少年と問答しているうちにも、そこかしこからヒソヒソごえが届いてきた。

「あの白い髪のやつ、【学院】の研究者けんきゅうしゃかな?」

「にしては若すぎないか? かおもあほっぽい」

「どーせあの法衣ほうえ、にせものだろ?」

「いやあ。わからんぞお」

「気をつけろ。やつら絶対音感ぜったいおんかんとかでマウント取ってくるからな」

「カスタネットしかかなでられないおれを……いじめてくるんだ……」


 うたがわしげな声。

 くやしそうな声。

 かなしそうな声に。

「気にすんな。おれもだ……」

「わいなんか、音符おんぷまれへん。あんなん暗号あんごうや……」

 となぐさめる声。

 いつのまにか学生たちは、「ぼくも」「わたしも」「拙者せっしゃも」とあつまって、ほんのりあたたかな空間が作られる。

(ううう……っ。うらやましくなんかないやい!!)

 友達らしい友達が、限りなくゼロに近い和泉いずみは、視界のすみっこに自然とできた友情空間ゆうじょうくうかんに、おおきな精神的ダメージを受ける。

 奥歯おくばを噛みしめながら、血のなみだをながした。

 少年しょうねんが、なにかに気づいたように、はッとまるいかおをあげる。

 彼はもはや、和泉のことを「おにいさん」とぶことさえしなかった。

「そうか……おまえ。音楽おんがくができるって内心ないしんでほくそ笑むだけではあきたらず、ぼくたちの作品を『なんでえ、こんなのだれでもけるじゃねえか。ぎゃはははははは!』って馬鹿ばかにしにきたんだな!」

「しねーよ」

 ……やけに実感をともなったからかい文句もんくに、和泉いずみはきっぱりと、反論はんろんした。


 こちらの弁解べんかいなんて聞く気のない少年しょうねんは、ぶつぶつ、またひとりごとをはじめる。自分の世界ワールドを展開する。

「そうか。そうやって、おまえたちはぼくの領域りょういき侵犯しんぱんするんだ。……あっ。じゃあ――――さまのつどいも」

(ん?)

 少年のくちにした単語に、和泉いずみ反応はんのうした。

 名前なまえのように聞こえたのだ。

 ほかにも「闇の」とか。「帝王」という言葉ことばも聞こえた。

「ちょっとて。その、なんとかのつどいってのを、もうすこし詳しく聞かせてくれないか――」

「ゆ、ゆるせない。あれは、ぼくの聖域サンクチュアリア。いや、ぼくたちの楽園。ユートピアなんだ! おまえなんかに壊させや――しない!」

 少年はふたたび、ポストカードをげつけた。

 葉書はがきにえがかれた絵をリアライズする魔力まりょくあお火炎かえんが、かみをのみこみながら、印刷された水彩画すいさいがを物質へと構築こうちくする。

「どおおおおおおおっ!?」

 パンチの形になって飛んできたおおきな岩塊がんかいを、和泉いずみかおのまえに両腕りょううでをクロスさせて受け止めた。


 反射はんしゃ的なガード姿勢しせいとはかんけいなく、黒い法衣ほうえのまとう魔力遮断まりょくしゃだん能力のうりょくが、イラストタッチの巨岩きょがんをばらばらに破壊はかいする。

 【学院】の法衣は、よほどの魔力まりょくがはたらかないと、その加護を破ることはできないのだ。

 くずれた瞬間しゅんかんに生まれた無数むすういしくれが、生きもののように地面じめんを動きまわる。

 それらは瞬時しゅんじに、和泉いずみの足の下にすべりこんだ。

 一枚いちまいのもようを、ジグソーパズルみたいに組みあわせて、形づくる。

「なっ。……なんだ……?」

 パンチのマークが描かれた、アクションゲームに出てきそうな。踏めばなにかがこるであろう、あやしげなパネルが、和泉の立っている地点ちてんにできあがる。

(と。いうことは……)

 【おもて】(魔法まほうのない世界)にいたころは、ビデオゲームが趣味しゅみだった和泉いずみである。これからじぶんのにおこる事態じたいが、直感ちょっかん的にわかった。

 直後ちょくご

 ばよおおおおん!!

 と両足りょうあしの下で仕掛け(ギミック)が作動する。

 地面から突き出したばねつきのこぶしが、とんでもない膂力りょりょくでもって、和泉を空高そらたかくへとね飛ばした。

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