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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第2幕 芸術の都(みやこ)にて
27/66

27:しにがみ


 ・前回のあらすじです。

和泉いずみとクロが、トライアンドエラーでレオナの使つかさがしをする』



 〇


「クロ。どーやったらこいつがミーコだっておもえるんだ?」

 和泉いずみ花壇かだんのかげから小動物をいたててきたからすに、自分のこめかみをさえながらうめいた。

 トゲのえた花々(はなばな)をかこうレンガのかどから飛び出してきたのは、まっ白のねずみ……ハツカネズミである。

「よくそらからつけられたなとは思うけどさあ」

 逃げようとするマウスの、ほそくてながいしっぽを和泉はしゃがんでつかまえた。

 クロをほめたものか。しかったものか。

 判然はんぜんとしないまま、感想を告げる。

「確かにこいつはだれかの使つかだな。レオナの――じゃなさそうだけど。……ん?」

「アルバート! アルバートお! どこいったんだよおー!?」

 大声おおごえをあげて、花園はなぞのはしりまわっている少年しょうねんがいる。

 あたま作業用さぎょうようのバンダナをまいて、ティーシャツにはんズボンのうえから、絵の具だらけのエプロンをかけている。

「出てきてよっ。ぼくがわるかった! 横取よこどりしたチーズケーキは、明日あしたちゃんと買いなおしてあげるから――」


(ここの生徒かな)

 とし十二じゅうに、三才ほどの、深緑ふかみどりかみ少年しょうねんだ。

 もとの髪は茶色であるらしい。

 めた頭髪とうはつのはえぎわから、ほんのすうセンチ、のびたばかりの髪の毛がのぞいていた。

「ああっ――!」

 少年は、和泉いずみがつまんでいるものに、はい色がかったあおを留めた。

 スニーカーをばたばたあわただしくらして近づいてくる。

「ぼ、ぼくのアルバートがっ。知らない人に……食べられかけてる!!」

「いや。食べる気は全然ないんだけど――」

「これは……」

 少年は、両手りょうてこぶしにしてなにやらひとりごとをはじめた。

 自分に言いきかせるように。

「――正当防衛せいとうぼうえいだ。ぼくの使つかを、見知みしらぬ変質者からうばいかえすための……」

 決して。一度いちどためしてみたかったじゅつを、これさいわいとばかりに使う口実こうじつがほしいわけでは。とかなんとか。

 ぶつぶつとつづける少年に、和泉はなにか物騒ぶっそう気配けはいを感じつつ言いつのった。


「聞いてくれって。オレも、ちょっと使つかを探しててだな――」

「そんな言いわけ通用つうようしないぞ! どうひいきめにたって、おにいさんは――ねずみを食べそうなかおをしている!」

「それがどういう系統の造作ぞうさくか。具体的な特徴とくちょうをあげてほしいもんだな」

 ずきずき痛むこめかみを、人さしゆびでおさえてこらえつつ、和泉いずみはしゃがんでいた姿勢から立ちあがった。

 つまんでいたねずみのしっぽをかるく振って、ほうりなげようとする。少年しょうねんに返すために。だが。

「アルバート。いまぼくが、その暴漢ぼうかんからたすけてあげるからね!」

「だあれが暴漢だっ。このくそがき!」

 われのない汚名おめいに和泉がわめき返した。その時だった。

 少年しょうねんが、エプロンのポケットから、数枚すうまいかみきれをゆびまたにはさんで取り出す。

(ポストカード?)

 表面ひょうめん印刷いんさつされた葉書はがきである。

 ほんの一瞬いっしゅんだけ、和泉も使いなれている「護符ごふ」かとおもったが、サイズと郵便番号ゆうびんばんごうらんのあることから、すぐに認識を矯正きょうせいする。


 少年しょうねんが、取り出したうちの一枚いちまいを、手裏剣しゅりけんのように投擲とうてきする。

「くらえーっ! ぼくがたましいを込めてえがいた、必殺の一撃いちげきを!」

 徹夜てつやあけのテンションのような――。

 でなければ狂気きょうきじみたげんきさにちた奇声を、少年はあげた。

 ちゅう直進ちょくしんし、またたくむなもとにせまる一葉いちようはがきに、和泉いずみの首のうしろがゾワッと粟立あわだつ。

 はがきは、少年の手をはなれた直後ちょくごあおえあがった。

 かみをめらめら、群青ぐんじょうの火がのみこんで、まるでなかの絵を物質へと成長せいちょうさせるがごとく、むくむくとねつのかたまりを肥大化ひだいかさせ、しずかな花園はなぞのに黒い影を出現しゅつげんさせる。

「し……っ。死神しにがみ!?」

 ぬうっ。

 青いほのおから生まれた黒い巨体きょたい

 がいこつの頭部に、絵本えほんに出てくる「おばけ」のような身体。

 じょうだんのようにあいらしくカルカチュアライズされたその造形は、黒いローブにおおわれて、ほね両手りょうてにはれたようにぎらぎら光る、金属質な大鎌おおがまを握りしめている。


(これも、実体のない……。この学校の入りぐちでたような、幻影げんえい。なのか?)

 プリンピンキアの学校にはいるさいに見た、れることのできない妖精ようせいたちとおなじような――。

 必死に「そうであってほしいと」自分に言いきかせようとした和泉いずみだが、本能ほんのうが、圧倒あっとう的なボリュームで、「ちがう」と警鐘けいしょうらしていた。

 すぐのまえに出現しゅつげんした、ゆうぜんとこちらをおろす背丈せたけ死神しにがみが、手にした大鎌おおがまを、機械的に――なんのためらいもなく、和泉の首めがけて振りおろす。

 ぶおおおうん!!

 と空気が悲鳴ひめいをあげた。

 弧状こじょうやいばは、心のさけびにみちびかれてしゃがんだ和泉の頭上ずじょうを、かぜをまとって横切よこぎる。

 無造作むぞうさに、袈裟斬けさぎりのかたに打ちおろされた大鎌の切っ先が、近くのいばら数本すうほん()り取った。

 がつん。と金属の先端が石畳いしだたみみちに突き刺さる。

 はなちた薔薇ばらが、とたんにくきつるらした。

 斬撃ざんげきを受けた石畳が、溶けたように液状化えきじょうかして、きれいな四角の連続した模様もようだったところが、ケロイドのがらに変わる。


 和泉いずみは理解した。

 少年しょうねんげたはがきから飛びだしてきた、黒い死神しにがみ

 それのはなった攻撃は、れたものに絶対的な破滅はめつをあたえる――。

 少年の宣言せんげんしたとおり。「必殺の一撃いちげき」なのだと。




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