26:ばら園
・前回のあらすじです。
『和泉がレオナの使い魔のミーコを、自分の使い魔にさがさせる』
〇
すーい。
とクロは学園祭を俯瞰した。
鳥の頭脳でどれほどのことが理解でき、実行にうつせるのかはわからない。が、魔術師と契約をかわした時点で、動物時の使い魔には、あるじの力量に付随するだけの知能があたえられる。
金や栗色、銅や黒、グレー、銀、白……。
まれに青や緑、ピンクの色をした頭髪が、ひろい前庭や奥庭で、わいわい賑っている。
そのうえを、まるい目をこらしてクロは探した。目的のものを。
おっ。と思うものを、いくつかみつける。
滑空して、近づいて、「これは確かだ」と感じたものから、主人に報告しにもどる。
〇
和泉はクロを飛ばした場所から動かなかった。
校舎の豪奢なエントランスにほど近い、高い塀のまえである。
かろやかに上空をすべって、烏が一羽やってくる。
あまったるいコーヒーみたいな――コーヒー飴のような匂いの魔力は、自分の使い魔が常にまとっているものだ。
とはいえ。これは和泉が普段、コーヒーを愛飲しているというわけではない。
使い魔の持つ固有の匂いに、「主人となる魔術師の魔力とおなじ波長」という以外、これといった法則性はない。
また、蛇足だが、和泉はコーヒーよりもココアのほうが好きだった。ミルクとお砂糖がたっぷりの。
「かあ!」
烏が、和泉のそばに停まる。
葉だけになったつつじの花壇に座って、研究手帳のメモを整理していた和泉は、帰ってきた烏に気がついた。
すぐさま空に舞いあがった黒い鳥を追って、彼――クロが発見したターゲットのもとへとむかう。
〇
第一の「ミーコ」候補は、校舎の裏手にひろがる庭園にいた。
前庭の倍はあろうかという面積に、おしみなく花や低木を植えたこの奥庭は、その圧巻をして「花園」もしくは「花畑」と称してもいい景勝だ。
通路をあるきながら見てみると、養成しているのは全て薔薇科の植物だった。
赤や白、黄や青の、大小さまざまな花を育てた薔薇園には、前庭にいたような、食べものをたのしみながらの観光客はすくない。
ていねいに世話をされた植物に、美化に命をかけたような潔癖な空間を、人々はゆるりゆるりと散歩しながら堪能していた。
クロの見つけた猫は、この奥庭のかたすみにいた。
学校の生徒にたんまりと餌づけされているのか。でっぷりと太った成猫である。
「こいつはちがうなあ……」
目があうなり、とら模様の全身の毛を逆立てて、「ふーっ!!」と警戒もあらわにうなる猫を見おろして、和泉はつぶやいた。
どうみても、体格からしてレオナの言った条件とはちがう。
ぼよよおンとたるんだ出っ腹に、子犬ほどの大きさもある全身は、猫として「小柄」とよべるものではない。
「かあ!」
文句を言いたげにクロが鳴いた。翼をひとうちし、つぎの場所へと和泉をまねく。
つぎの候補も、この薔薇園にいるらしく、クロは花畑のうえを飛んでいった。
和泉は花々をよけて通う通路をたどっていく。
空を横切ってショートカットするクロを見失わないよう、苦心しながら案内にならう。