25:いとしのミーコ
・前回のあらすじです。
『プリンピンキアの学園祭に来た和泉が、生徒のカリオストロからメイド喫茶の店員・レオナのペット探しをたのまれる』
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野外のメイド喫茶で昼食を終えて、そこで出会った【学院】の女子生徒、クララ・モリス・B・カリオストロに、茶代をはらってもらった和泉たちである。
さらに和泉は、彼女の知人のペット探しのお駄賃として、前払いで二千リーラ(プリンピンキアの学内でのみ使える、金券の単位だ)を手にいれた。
昼食を配膳してくれた、レオナというツインテールの魔術師に、迷子になってしまった彼女の使い魔の特徴を訊く。
ぽそぽそと、控えめな調子でレオナが伝えたところでは、使い魔は。
「名前はミーコっていって。ねこ――で。……とら縞の……。小柄なほうで……」
とのことだった。
正直、聞き取れたのは部分的で、和泉もとらえきれていないことがある。
だがレオナはペットの心配で張りつめていて、とても無理を言って聞き返すことはできなかった。
腹ごしらえをすませてすぐ、和泉は喫茶店をあとにした。
校舎内の画廊をみにいくというカリオストロと別れ際、レオナのペットの逃げ込みそうなところを確認する。
と。
「人気のないところですわね」
漠然とした答えだけが帰ってきた。
〇
「手がかりは、ねこでトラ縞でちっこい。ってことだけか」
「そんなのその辺にいっぱいいるじゃないか……」
カレーをたらふく食ったクロが、ふくれたおなかをぽんとたたいて、主人である和泉に横から指摘する。
彼の言うとおり、とら柄のねこは、野良でいくらでも見かけることができた。
屋台のテント群からはなれて、洋風の白い東屋や、植木のならぶ区画に和泉たちは移っていた。
まわりには、焼きそばやたこ焼き、わたあめなどを手にした祭り客らが、めいめい噴水まわりのベンチや、梢の下に陣取って、それぞれの食べものにぱくついている。
和泉たちも、キャンパスをかこう塀にめぐらせた花壇に腰をおちつけることにした。
「魔術師の使い魔ってなら、野良とは簡単に区別つくだろ。ラッキーなことに、オレは嗅覚で魔術師と契約した動物かどうかが分かるからな」
「これだけあっちこっちから匂いが出ててもわかるもんなの?」
「……。……。……」
クロの追及に、和泉はグウの音もでない。
よほど対象に近づけば、かぎわけることも可能だろうが。
いろいろな方角から、種々雑多な食べものの香りがただようなかでは、魔法の匂いとそれ以外を区別するのはむずかしい。
「よーっし。じゃあクロ。おまえが先遣隊をつとめてくれ。空からキャンパスを見まわって、それっぽい猫を見かけたら、オレに報告に来るんだ」
花壇の足もとに座りこんでいたクロは、「えー」とめんどうくさそうな声をあげた。
「マスターを呼んでるあいだに、きっと逃げちゃうよ。すばしっこいもん、あいつら」
「なにもしないよりかは可能性があるだろ。……あとでチョコバナナ買ってやるからさ」
「ん~。じゃあやる」
「よしっ。えらいぞ」
不承不承くちびるを尖らせながら立ちあがる少年に、和泉はうなずいてみせた。
クロは、使い魔に唯一そなわっている魔法の能力――変化の術を使って、人間から、もとのすがたであるハシボソガラスへと形態を変える。
ばさり。
和泉のとなりから、クロは蒼穹へと飛びたった。
使い魔の搏ったつばさによる風が、法衣をつけていない和泉の服をあおぎ、十月のつめたさを、パーカーからのぞく地肌に感じさせた。