24:まいご
・前回のあらすじです。
『カリオストロが、メイド喫茶の店員を呼び止める』
「どうしたのクララちゃん? ひょっとして、見つかった?」
レオナとよばれた少女は、おずおずとカリオストロに言った。
和泉たちのいるテーブルからすこしはなれたところから、一歩も動かないまま。
カリオストロは、少女――【レオナ】の困惑などおかまいなし。
彼女の質問には「いえ。まだです」とだけこたえて、和泉に紹介する。
「教授。こちら、フォックス家のレオナといいます。プリンピンキア美術魔法学校の一年生で、今年十七歳になりました」
「はあ……。って。いきなりそんなこと教えられてもな」
白いあたまをがりがりと掻いて、和泉。レオナもまた、銀色のトレイで顔のした半分をかくすようにして、まごまごしている。
カリオストロは礼儀ていどに愛想わらいをかえす和泉を指して、まどろっこしそうにはなしをつづけた。
レオナにむかって。
「レオナさん。こちら、わたくしがお世話になっている学校の先生です。あなたとそう歳はかわりませんが、魔術師として腕はたつほうですわ」
「そうなんですか?」
うすい――というより、よくわかっていない反応をレオナは和泉を見てかえす。
カリオストロはレオナと和泉を交互に指さして。
「あなた。たしかこのカフェをひらいてすぐに、『使い魔がどこかに行った』とさわいでいたでしょう。それでわたくしがすこしは手伝っていたわけですけど。それをこの人に、まる投げしてしまったらどうです」
「ええー!?」
とカリオストロの提案におどろいているレオナだが、ぱっとトレイからあげた可憐な顔は、言葉とはうらはらにきらきらと輝いている。
「でっ、でも。そんな……。初対面の人に、私……そんな。不しつけなこと……」
トレイを両手にかかえて、ふとももまであるスカートのまえにおろし、もじもじベルトシューズの爪先で石畳の床をほじくる少女に、和泉ははらはらとなみだのこぼれる思いがする。
反射的に、カリオストロを手で自分のそばに引きよせて、レオナのほうに背をむけ、ひそひそ確認した。
「なあ。あの子ほんとうに【魔術師】か?」
「なにをねぼけたことを、和泉先生。この【裏】に住む人間は、みーんな【魔術】の才を持ったものばかりではありませんか。そしてレオナは、そのなかでも絵画魔術の教育を受け、なかなか秀でた腕まえをみせる『期待の星』ですわ」
「そうなのか。……いや、だってさ。オレのまわりにいる女魔術師って、なんかこー。みんな我がつよくって、あんなふうにつつましやかなのには会ったことがないというか……」
「あのー」
カリオストロとあたまをよせあってはなしている和泉のうしろ頭に声がかかった。
見ると、ツインテールの少女が、やはりかわいらしく円形のおぼんでくちもとをかくして、おずおずとくちを開く。
「その。和泉さん、でしたっけ。私のペットのこと……かまいませんか? さがすのおねがいしても……」
――私。あの子が迷子になって、知らない人のなかにひとりでいると思うと、しんぱいで……。
と、うるうる目をふせるレオナに、和泉はいなやを唱えられようはずもなく。
(か、かわいい~。この子まじで学長や茜やクラリスとおなじ、魔術師かよ)
分野はちがうが、【魔術】というのはどんな形式をとるにしても、精神のつよさの影響を大きく受ける。
相応の力量を持つ術者は、相応に我がつよい――性格的に「きつ」く、自己主張のはげしいことが多いものなのだ。
逆に言えば、レオナのように「ひかえめ」な性格というのはめったになく、和泉のいる魔術師の精鋭があつまる【学院】では、それこそ『稀少種』と言っても言い過ぎではないくらい、お目にかかれるものではない。
「ああ――いいけど。えっと、こころあたりのある場所とかは……。ないよな」
これにはカリオストロがこたえた。
「ええ。わたくしも、あそびがてら目ぼしいところはあっちこっちのぞいていたのですけれど、見つけられませんでしたわ。もういいかげんつかれてしまって。和泉先生には代打をおねがいしたいのです。さがしていただけるのであれば、見つかろうと見つかるまいと、二千円の金券を差しあげますので」
「ごめんね。クララちゃん……」
「いいんですのよ。ここからはわたくしのかわりに、こちらのセンセエにがんばっていただきますから」
「なるべくはやく見つけられるように努力するよ。――あ、なんか。呼んでるみたいだけど」
レオナにこたえた和泉は、メイド喫茶の受けつけカウンターのほうを指差して、彼女に教えた。
テントのしたからレジ番の女性が、
「おーい。四番テーブル。おにぎりとサンドイッチできたよー」
とレオナを手招きしている。
「こちらの席のメニューですね。すぐに、お持ちしますので」
ちいさく微笑んで、レオナはぺこっと和泉たちに一礼した。
屋外のカウンターテーブルへ、いそぎあしに注文の品を取りに行く。