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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第2幕 芸術の都(みやこ)にて
24/66

24:まいご


   ・前回のあらすじです。

  『カリオストロが、メイド喫茶きっさの店員をび止める』




「どうしたのクララちゃん? ひょっとして、つかった?」

 レオナとよばれた少女しょうじょは、おずおずとカリオストロに言った。

 和泉いずみたちのいるテーブルからすこしはなれたところから、一歩いっぽも動かないまま。

 カリオストロは、少女――【レオナ】の困惑こんわくなどおかまいなし。

 彼女かのじょの質問には「いえ。まだです」とだけこたえて、和泉に紹介しょうかいする。

教授きょうじゅ。こちら、フォックスのレオナといいます。プリンピンキア美術魔法びじゅつまほう学校のいちねん生で、今年十七(じゅうなな)歳になりました」

「はあ……。って。いきなりそんなことおしえられてもな」

 白いあたまをがりがりと掻いて、和泉。レオナもまた、銀色のトレイでかおのした半分はんぶんをかくすようにして、まごまごしている。

 カリオストロは礼儀ていどに愛想あいそわらいをかえす和泉をして、まどろっこしそうにはなしをつづけた。

 レオナにむかって。


「レオナさん。こちら、わたくしがお世話になっている学校の先生です。あなたとそうとしはかわりませんが、魔術師まじゅつしとしてうではたつほうですわ」

「そうなんですか?」

 うすい――というより、よくわかっていない反応はんのうをレオナは和泉いずみてかえす。

 カリオストロはレオナと和泉を交互こうごゆびさして。

「あなた。たしかこのカフェをひらいてすぐに、『使つかがどこかに行った』とさわいでいたでしょう。それでわたくしがすこしは手伝っていたわけですけど。それをこの人に、まるげしてしまったらどうです」

「ええー!?」

 とカリオストロの提案ていあんにおどろいているレオナだが、ぱっとトレイからあげた可憐かれんかおは、言葉ことばとはうらはらにきらきらと輝いている。

「でっ、でも。そんな……。初対面しょたいめんの人に、私……そんな。しつけなこと……」

 トレイを両手りょうてにかかえて、ふとももまであるスカートのまえにおろし、もじもじベルトシューズの爪先つまさき石畳いしだたみゆかをほじくる少女しょうじょに、和泉ははらはらとなみだのこぼれるおもいがする。

 反射はんしゃ的に、カリオストロを手で自分のそばに引きよせて、レオナのほうに背をむけ、ひそひそ確認した。


「なあ。あの子ほんとうに【魔術師まじゅつし】か?」

「なにをねぼけたことを、和泉いずみ先生。この【うら】にむ人間は、みーんな【魔術まじゅつ】のさいを持ったものばかりではありませんか。そしてレオナは、そのなかでも絵画かいが魔術まじゅつ教育きょういくを受け、なかなかひいでた腕まえをみせる『期待のほし』ですわ」

「そうなのか。……いや、だってさ。オレのまわりにいる女魔術師おんなまじゅつしって、なんかこー。みんながつよくって、あんなふうにつつましやかなのにはったことがないというか……」

「あのー」

 カリオストロとあたまをよせあってはなしている和泉のうしろあたまに声がかかった。

 ると、ツインテールの少女しょうじょが、やはりかわいらしく円形のおぼんでくちもとをかくして、おずおずとくちを開く。

「その。和泉いずみさん、でしたっけ。私のペットのこと……かまいませんか? さがすのおねがいしても……」

 ――私。あの子が迷子まいごになって、知らない人のなかにひとりでいるとおもうと、しんぱいで……。

 と、うるうるをふせるレオナに、和泉はいなやをとなえられようはずもなく。

(か、かわいい~。この子まじで学長がくちょうあかねやクラリスとおなじ、魔術師かよ)


 分野ぶんやはちがうが、【魔術まじゅつ】というのはどんな形式をとるにしても、精神のつよさの影響えいきょうおおきく受ける。

 相応そうおう力量りきりょうを持つ術者じゅつしゃは、相応そうおうがつよい――性格的に「きつ」く、自己主張じこしゅちょうのはげしいことがおおいものなのだ。

 逆に言えば、レオナのように「ひかえめ」な性格というのはめったになく、和泉いずみのいる魔術師まじゅつし精鋭せいえいがあつまる【学院】では、それこそ『稀少種きしょうしゅ』と言っても言いぎではないくらい、おにかかれるものではない。

「ああ――いいけど。えっと、こころあたりのある場所ばしょとかは……。ないよな」

 これにはカリオストロがこたえた。


「ええ。わたくしも、あそびがてらぼしいところはあっちこっちのぞいていたのですけれど、つけられませんでしたわ。もういいかげんつかれてしまって。和泉いずみ先生には代打だいだをおねがいしたいのです。さがしていただけるのであれば、見つかろうと見つかるまいと、二千にせん円の金券きんけんを差しあげますので」

「ごめんね。クララちゃん……」

「いいんですのよ。ここからはわたくしのかわりに、こちらのセンセエにがんばっていただきますから」

「なるべくはやくつけられるように努力どりょくするよ。――あ、なんか。んでるみたいだけど」

 レオナにこたえた和泉いずみは、メイド喫茶きっさの受けつけカウンターのほうをゆび差して、彼女かのじょおしえた。

 テントのしたからレジばん女性じょせいが、

「おーい。四番テーブル。おにぎりとサンドイッチできたよー」

 とレオナを手招てまねきしている。

「こちらのせきのメニューですね。すぐに、お持ちしますので」

 ちいさく微笑ほほえんで、レオナはぺこっと和泉たちに一礼いちれいした。

 屋外おくがいのカウンターテーブルへ、いそぎあしに注文ちゅうもんしなを取りに行く。


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