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鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第2幕 芸術の都(みやこ)にて
23/66

23:うめぼしのおにぎり食べたい。


   ・前回のあらすじです。


  『外のカフェでやすむことにした和泉いずみたちに、ひとりの少女しょうじょが声をかける』




「なんだ。クラリスか」

 和泉いずみあたまのうしろに組んでいた手をおろし、おおきく息をついた。

「たいそうなごあいさつですわね」

 声をかけてきた少女しょうじょ――【クララ・モリス・ビー・カリオストロ】は、ボブショートの金髪きんぱつを「ふん」とはらって勝気かちきな笑みをせる。

「にしても和泉先生? こんなところにまで出張しゅっちょうですか? ご苦労なことです」

「……まあ。そんなところだな」

 背中せなか()しに和泉はカリオストロに返事した。

 彼女かのじょは「せき、そちらに移ってもよろしくて?」と、相席あいせきを申し出る。

 和泉が答えるまでもなく、彼女――カリオストロは、みっつのおにぎりのったさらとお茶を片手ずつに持って、テーブルを移動した。


 和泉はカリオストロの服装をみる。

「やっぱおまえも【マント】はずしてるんだな」

「ええ。【学院がくいん】にいてきましたわ」

「おもいきったことするなあ」

 和泉は感心かんしん半分はんぶんの声をあげて、カリオストロのために近くから椅子いすを引きずってきた。

「どうも」

 とれいを言って、カリオストロがドレススカートをととのえて着席する。

 このじゅう代なかごろの少女しょうじょ――【カリオストロ】は、和泉いずみ在籍ざいせきする魔術まじゅつ名門めいもん・【学院】の、高等部一年(いちねん)所属しょぞくする魔女まじょである。

 【学院】の生徒にも、教員きょういんたちに支給しきゅうされるような、正装せいそうようの【法衣ほうえ】と略装りゃくそうの【マント〉が配布はいふされ、それらには有害ゆうがい魔力まりょくからをまもる『加護かご』が付与ふよされている。ただ色だけは教員らのそれとはことなり、『黒』ではなく『白』である。

 カリオストロは、和泉のペットのクロに自己紹介(しょうかい)し、自分のことを「クラリス」と、愛称あいしょうぶようすすめた。

 商家しょうけ出身しゅっしんゆえなのか。かつては『爵位しゃくい』もあった【貴族】家の令嬢れいじょうなのだが――ちょっとした事情じじょう没落ぼつらくした――彼女かのじょはほかの、やんごとなき身分みぶんの【魔術師まじゅつし】とはちがい、分けへだてがない。


 和泉はカリオストロの持ってきた皿に、ものほしそうなをやった。

「いいなー。ツナマヨ。オレにも一個いっこくれよ」

「いやですわ。それより……」


 のばした和泉いずみの手から、「ひょい」とおにぎりの皿をとおざけて、カリオストロは食べかけだったツナマヨにぎりをぱくぱくかじる。

美術びじゅつ魔法まほうは、われわれ『呪文型スペルタイプ』の魔術師まじゅつしには管轄外かんかつがいにあたる分野では? それが、なぜいまさら、先生を研修けんしゅうに出したりしたのです?」

「いや、それが……。べつに学校の仕事じゃなくってさ。なんていうのかな。オレの――知的ちてき好奇心こうきしん?」

「…………そういうものなのですか?」

 釈然しゃくぜんとしないようすで、カリオストロはあしを組んだ。ゴスロリ調ちょうのスカートのすそが、彼女かのじょの動きにあわせて、優雅ゆうがになびく。

 和泉いずみはカリオストロに、この学校でおこなわれているといううわさの【悪魔崇拝あくますうはい】について、こうかとまよった。

 カリオストロの実力じつりょくのほどはわからないが、『編入へんにゅう試験』を受けて、魔術教育まじゅつきょういく研究けんきゅう総本山そうほんざんたる【学院】に、転校してきた魔術師なのだ。

 【悪魔あくま】という存在についての知識はあるだろうし、それへの狂信きょうしん――ひいては「召喚しょうかん」に対して、相応そうおうの危険意識は持っているはず。


(つっても、「知らない」って言われたらそれまでだしな。オレも確信があって来てるわけじゃないし)

 ここであっさり否定ひていされたら、モチベーションが一気いっきになくなりそうだ。それに、「ってすぐに切り出す内容ないようでもなかろう」と、このでは保留ほりゅうにして、和泉いずみはカリオストロに、あたりさわりのない話題を振った。

「クラリスは、どうしてここの学園祭がくえんさいに来たんだ。たまたまか?」

実家じっかが【フィレンツォーネ】の近くっていうのもありますけど。あにのフレッドが【プリンピンキア】の学生なのです。それで、招待券しょうたいけんをいただいたので、せっかくだからおまねきにあずかろうかと」

「招待券? 入場にゅうじょうは、だって自由じゆうだろ?」

「五千円(ぶん)の『金券きんけん』がついてきますの。――あら。なんですか和泉先生。そのものほしそうなかおは。あげませんよ」

 説明せつめいのためにみせた小さいチケットの五十枚ごじゅうまいつづり(何枚なんまいかはすでに使ってなくなっていた)を、カリオストロはまばたきひとつせずにすえるおとこのサングラスのまえから、さっと上によけた。

 和泉は「ぐぬぬ……」とテーブルでりょうこぶしをわななかせながら。


「くっそー。かねってのは持ってるやつのところにトコトンあるものなんだな。なあ。じゃあクラリス。オレといっしょに学園祭みてまわろーぜ。で、行く先々のみせでおごってくれ」

残念ざんねんですが、わたくしはあなたとごいっしょするほど、あなたに興味きょうみはありません。それに、おとこの人とあるいているところをあににみられたら……和泉いずみ先生。いくらあなたが腕利うでききの魔術師まじゅつしでも、ひきにくになるのは避けられない未来でしょうね」

「う……」

 カリオストロに四人よにんの兄がいることは、和泉も知っていた。

 聞いたはなしによると、彼らはすえの妹であるクラリスを、そろいもそろって溺愛できあいしているらしい。

 フレッドとやらが何番目なんばんめの兄なのかは知らないが、わざわざ自分から逆鱗げきりんに触れにいくようなまねはしたくない。ひきにくになるのは嫌だ。

「うう……。でも、できればオレ、なるべく出費しゅっぴはおさえたいんだ。ここに来る直前ちょくぜんに、違反いはん切符きっぷきられてさ……。五万ごまん円、【自衛団じえいだん】に取られちまったんだよ」

「あーあ。学校が近い空域くういきって、ふつうは『飛行可能(かのう)』だから、おなじようにうっかりしてて罰金ばっきんとられている人が何人なんにんかいましたわ」


 同情どうじょう的に言って、円卓えんたくにほおづえをつくカリオストロのそばに、メイド喫茶きっさ女給仕おんなきゅうじがやってくる。

 校庭の石畳いしだたみにひろげた客席に、チキンカレーと、緑茶りょくちゃのはいったグラスをのせたトレイを片手に持って、ツインテールの少女しょうじょ和泉いずみたちに声をかけた。

「チキンカレーをご注文ちゅうもんのお客さまー」

「はーい。ボクです!」

 げんきよく返事をして、クロは自分の手前てまえにカレーがくるのを手伝った。

 カリオストロが、去ろうとする女給仕――モカブラウンのかみあたまのうえのほうでふたつにくくった少女に、おもいついたように声をかける。

「レオナさん。ちょっと。――和泉いずみ先生。わたくしも、ただであなたにおかねを差しあげるのは主義しゅぎはんしますので。このかたのたのみを聞いてもらうということで」

 和泉がカリオストロの言葉ことばをぼんやりと聞いているあいだに、メイド服の少女が彼らのほうを振りむく。

 銀色のぼんむなもとにあてて、彼女かのじょはきょとんと、はい色のをしばたいた。

 どうやら彼女。カリオストロとは知りいらしい。


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