表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《4》 ~魔窟のエクストリーム~  作者: とり
 第2幕 芸術の都(みやこ)にて
21/66

21:美術魔法(びじゅつまほう)


 ・前回のあらすじです。

和泉いずみとクロが、おまつりの会場かいじょうにはいる』




「すみませーん」

 と和泉いずみ青年せいねんに声をかけた。

 黄色いキャップのしたのあぶらっこい黒髪くろかみおくから、ちらっと東洋とうよう人らしい黒目くろめがにらみあげる。

注文ちゅうもんはそっち。おれは口実こうじつていどにばんしてるだけ」

 黒髪の青年は、生地きじをながしこんだタイのかたのむこうで作業さぎょうをするおとこゆびさした。

 じゅうじゅう。

 屋台の鉄板てっぱんでタイきをつくりながら、金髪きんぱつの男が和泉に笑いかける。

無愛想ぶあいそやめろおフェルマー。――ごめんねきみ。交代制なんだよ。ほかのメンバーは、休憩きゅうけい校内こうないまわっててさ」

「へえー」

 この世界【うら】の本格ほんかく的な移住いじゅう期(西洋史せいようしにおける『中世ちゅうせい』にあたる)に、こちらへ逃げこんできた【魔術師まじゅつし】のあいだで取りかわされた盟約めいやくにより、【裏】ではすべての土地において、『日本にほん語』が公用語こうようごとしてつかわれる。


 最初期さいしょきには、日本にほん語をまなぶのに書き取りや聴き取りなどの地みちな訓練がおこなわれたが、現在は【おもて】と【裏】を区分し、へだてる巨大きょだいな『結界』に、翻訳ほんやくもんが刻まれており、公用語こうようごのみ、転移のさいにつかいこなせるよう言語野げんごやへの干渉かんしょうがおこなわれていた。

 ただし、漢字のみ書きについてはそのかぎりではない。

 さきほど屋台のなかからひょっこりはなしかけてきたハンサムで背の高いおとこは、すっきりとりこんだ金髪きんぱつに、ヘイゼル色のひとみ、高いはなと、いかにも西洋せいよう人の風貌ふうぼうだが、あつかった日本語に、他国にあるようななまりはない。

 黒髪くろかみの男――『フェルマー』が、三脚几さんきゃくきにすわったまま、のっそりとあらためて和泉いずみかおをのぞきこんだ。


 さっきフェルマーが描いて、スケッチブックから具現化ぐげんかさせた六羽の【すずめ】が、すわりこんだ彼の肩やひざのうえに停まっている。

「おたくは、なにそのかみ。染めてるの?」

「いや、これは。…………あ。いえ。そうです」

 和泉は青年せいねんにうそをついた。

 和泉の白髪はくはつは、子どものころにこった魔術まじゅつの事故の後遺症こういしょうだったが、強力きょうりょく魔法まほうというのものは、えてして音声の型に属する技術ぎじゅつである。


 【美術びじゅつ系の魔法まほう】が、どれほどの威力いりょくを出せるのか。どういうタイプの魔術まじゅつなのかがわからないあいだは、あまり『音系おとけい』の魔術師まじゅつしであることをほのめかすようなことは言えなかった。

「ふうん。だっさ」

(ほっとけ!!!)

 フェルマーの感想にぴくぴくほおを引きつらせつつ、和泉いずみはこころのなかで絶叫ぜっきょうした。

 気を取りなおして訊く。

「それより、その魔法はなんなんですか? その――すずめたちを出したやつ。あと――」

「学校のいりぐちに飛びまわってるやつね」

「はい。そうです」

 れた空のしたをきらきら浮遊ふゆうする光のたまゆびさす男に、和泉いずみはうなずいた。

 フェルマーは自分の持っている『スケッチブック』と、つかっていた『カラーペン』をかかげる。どちらも、そのへんの雑貨屋ざっかやで売っていそうな、特筆すべき点を持たない文房具ぶんぼうぐである。

「こっちは【具象紙ぐしょうし】。で、こっちが【点睛筆てんせいふで】って言って、どっちも魔術まじゅつ系の画材屋がざいやにいけば売ってる。値段ねだんはかなりおたかめだけどな」


「じゃあ、【魔法道具マジックアイテム】?」

 マジックアイテム――【魔鉱石まこうせき】をもちいた道具は、えてして高い。材料ざいりょうとなる鉱物こうぶつ自体が入手にゅうしゅできる場所ばしょがかぎられており、流通りゅうつうにおいて数量すうりょう的な制限が掛かってしまうからだ。

 フェルマーは「そう」とペンを一本いっぽん、指で器用きようにまわした。

「よそで出た魔鉱石の端材はざいや、つかいわってちりになったりしたのをあつめて、特殊とくしゅ薬液やくえきにひたして加工する。職人しょくにんによって、その薬液だったり魔鉱石のこな比率ひりつが変わったりするんだよ。いものはえがいたものが具現化しやすいし、出てきた『絵』が多芸になる。もっとも、プロの画工えかきのなかには、絵にあわせて毎回自分で調合ちょうごうして絵の具をつくる人もいる。この【具象紙ぐしょうし】も、もちろんしたごしらえしたうえで、描くって人もいるみたいだけどな」

「かなり手間てまかかってるんですね。その――具象紙ってのに、点睛筆てんせいふでで描いたら、なんでも出てくるんですか?」

「いや。さすがにそこは術師じゅつし技量ぎりょうしだいかな。魔力まりょくが高ければ、実際にみたことのないものだってリアライズできるけど。……しっかし、そんなこと訊くなんて。あんたしろうとだな。中卒ちゅうそつ?」


 【学院がくいん】の教授きょうじゅだわいっ。

 と反論はんろんしたくなったが、和泉いずみはこらえた。

 フェルマーの言葉ことばがつづく。

「それとも……まさか。おと系の高校生とか?」

 ぎら。とキャップのひさしのしたで、黒い双眸そうぼうが殺気をびる。

 和泉いずみはとっさに「いえっ。まさか」とごまかした。

 フェルマーはにこりとして、三脚さんきゃくにまえのめりになっていた身体をもどす。

「だよね。やつらってば『衒学げんがく主義しゅぎ』っていうの? なにかと理論だの方程式ほうていしきだの知識ひけらかしてさー。感覚的じゃないんだよね。あとなに? 楽器がっきひけるのがそんなにえらいのかな。リコーダーとハーモニカができたらじゅうぶんじゃない? ね。そうおもわない?」

「あー。それは……。まあ……」

 和泉はこれも、明言めいげんを避けた。

 子どものころに、師匠ししょうに「絶対音感ぜったいおんかんなんてれだ慣れ!」とたたきこまれ。発声はっせいを鍛えられ。きながら暗譜あんぷし、アコーディオンで【魔術まじゅつ】の下地したじをかためてきたとしては、うそでも青年のげんに「うん」とこたえることはできない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ