2:ポストまえにて
・前回のあらすじです。
『暗い地下にて。くろずくめの集団が、あやしげに笑いあう』
かたん。
郵便局の赤いポストに手紙を投函する。
白い封筒が手をはなれ、細長い穴のむこうにおちる感覚に、ノワールは「ふう」と息をついた。
ノワール――黒い長髪に、金色の両眼。妖艶な肢体にイヴニングドレスをまとい、うえからショールを羽織った妙齢の女である。
いまは人間のみためをしているが、その実はまったくべつの生きもの。
人化をとけば、黒猫のすがたになる――【魔術師】との契約下にある存在、【使い魔】である。
「すみませんね、ノワールさん」
ひょうきんな声がして、ノワールは半ばあきれながらうしろを見た。
白いボブショートの女の子がいる。
あたまにはカイウサギのころの形質がのこったながい耳が生え、中背のスレンダーな身体には、彼女の主人がつくったチョッキやシャツ、プリーツスカートをまとっている。
「まったくよシロちゃん。ここまで来ておいて怖じ気づくなんて」
シロ。とノワールが呼んだ少女――ウサギの耳の女の子は、十七才ほどのみためをしていた。
髪の色や、眼の色はともかくとして、外見的な年齢の差異は、ノワールがシロを叱るすがたをして、仕事の上司がバイトを注意するようなとんまさがある。
「うー、めんぼくない。すみませんでしたってえー。でも、聞いてくださいよ」
シロは首をちぢめながらも、手をふって言いわけをはじめた。
【トリス】の町の中央広場である。
しゃれた外装の市庁舎や、【自衛団】(この世界における警察組織のようなもの)の詰め所などが集中する、この片田舎の要衝ともいえる場所。
ほかにも、ビジネスマンや旅行者めあてのレストラン、雑貨屋や宿屋、銀行も軒をつらねている。
郵便局もまた、広場のなかに設営されていた。
ノワールとシロは、そのちいさな事務所のそとにある四角いポストのまえにいる。
ポストに用があるのは、もともとシロだけだったのだが、わけあって手紙を出すのに戸惑い、ちかくの喫茶店からたまたま昼食をすませて出てきたノワールにたのむ運びとなったのだった。
『理由』とは、たあいのないものである。