14:ブーメラン
・前回のあらすじです。
『ノワールが、超グラマーだ。ってはなし』
アンニュイにうつむく青年から、ノワールは顔をはなした。
「学園祭なんて、魔術師の『研究発表会』みたいなもんだし。べんきょうしがてら、ようすみてきてあげれば? ちょっと異質なシゲキを受けにいくのも、魔術師のウデをあげるのにいいもんよ」
「んー……。と言っても。オレはいまの自分の実力に、あんまり不満はないというか――」
「知ってんのよ。和泉くん」
「は……。な、なにを?」
「あなた、葵ちゃんに【迷宮】で守られて、南部にいったときも、あろうことか同行した『女子生徒』にかばわれたんですってね。そして最近では、高一の女子にぼっこぼこにされて。そいつからたすけてくれたのが……。まーああなたがご執心の、茜ちゃんってはなしじゃない」
「う……。うう……」
ノワールの言わんとすることが、手に取るようにわかる和泉である。
そしてそれは――。
(お……オレだって。『なさけないかも』って思ってたさ。でも……でもさっ。あえて触れないようにしてたんだ。だって。だってさあ……!!!!)
目をそらしつづけようとする青年に、ノワールは、容赦なくとどめを刺した。
「女の子にまもられる男なんて、さいっってーね」
(がっ……)
があああああああん!!!
和泉のあたまにトングラムのおもしがのしかかる。
比喩であるはずのそのおもみに耐えられず、ばたりと広場の地面にたおれ伏した。つぶれたかえるみたいな姿勢になって……。
和泉の白い頭を、ノワールは立ったまま見おろした。追い打ちをかける。
「ちなみに茜ちゃんは、よわい人間がだいっきらいよ」
「ぐっ……」
涙はさとられないように。うつむいたまま、和泉はにぎり拳をかたくした。
口惜しさをいきおいに、立ちあがる。
「いや。待ってくださいノワールさん。昨今では『多様性』って言って、なんか……。よくわかんないけど、『あらゆる価値観をみとめよう』って精神が尊ばれているんです。なので、男の子が女の子にまもられるのも、その一環としてオッケーかなー。なんて……」
「あらゆる価値観をみとめてくれるの? 和泉くんが?」
「え? ……あ。まあ……。はあ……?」
一瞬こんらんしかけたが、他人に「みとめろ」と言う以上、自分も棚上げにはできない和泉である。
「りっぱなこころ構えねー」
両手をたたいて、にっこり。微笑むノワール。
和泉はこのあと、彼女がなんて言うかわかっていた。
そして――。
「じゃあ。私の意見もとおぜん。みとめてくれるわけよね」
「……。……。……。……。……。……。……。……。……。……。……。……」
そして。
自分が彼女の返事に反論することができないのもまた、和泉にはわかっていた。