13:まっとう
・前回のあらすじです。
『ノワールが和泉に【フィレンツォーネ】に行くよううながすも、和泉はかのじょがなにを言っているのか。わからないふりをする』
ノワールはベンチから立ちあがった。
ずいっ。と自分よりすこし背のひくい青年のサングラスに、人差し指を突きつける。
「つっまんないとぼけかたしてんじゃないの。【フィレンツォーネ】に決まってるでしょ?」
「……ですよね……」
和泉はガクっと肩をおとした。
万が一。ノワールが『ほんとうの人間』であったなら、こんな反応ではすまない彼である。
豊満な胸に、くびれた腰……。グラマラスなそのボディラインを、おしみなくなぞるタイトなドレスに身をつつんだノワールは、艶然とした美貌もあって、官能的な魅力にあふれている。
が。かなしいかな。彼女は【使い魔】なのだ。
人間が、たとえば『犬』や『猫』に恋をするのがないように――あったとしても、希少であるように――よほどの『偏執狂』でもなければ、彼女に対して『異性』としての感覚を持つことはない。
まっとうな【魔術師】であればあるほど、【使い魔】と自分の生物的なへだたりを、つよく認識することができた。
さいわいにも和泉は、その『まっとう』な部類に属する魔術師であるらしい。