12:プライベート
・前回のあらすじです。
『シロが本題をはなし終え、ついでに【賢者】のたびの目的をばらす』
「で――」
組んだ脚のうえにノワールがほおづえをついて、シロに訊いた。
「その大天才美少女におっかけまわされてるうらやましーやつってのは、だれなのかしら?」
(あっ。あっ。あっ。あーーーーっっっっ!!!)
へいぜんとした表情のまま、和泉は立ちつくした。
こころのなかは、あたまをかかえて悶絶している。
ノワールの質問は、和泉も気になっていたことだった。ただカッコをつけて、あえてスルーしただけで。
シロは「んー」と、ちいさな顎に指をあてる。
「名前までは……私も。ってゆーか。あんまりきょうみなくって。いま言った以上のことは、私もなにも知らないんですよね」
「あらら。ざんねんね。ねーえ和泉くん?」
「は。はは……。いや、まあ……。他人のプライベートに、あんまり首つっこむのも、どうかな~とは思うんで……」
唐突に水をむけられて、和泉はうろたえた。
彼は茜のことを好いてはいたが、そのことはまだ、きっぱりとはだれにも伝えていなかった。
とはいえ、周囲の知りあいに、彼の意中の人を知らない人間は……。
……。当の茜くらいなものである。
「そっ。それよりシロ。なんかオレのこと、『かわりの魔術師がきた』――とかなんとか言ってたけどさ」
「あ。そうそう」
狼狽をさとられたくなくて、和泉は話題を変えた。シロはぽんっと、ぐーにした右手をお皿にした左の手のひらにのせる。
「茜のかわりにさー、だれかほかの人にいってもらおうかなって私は考えてて」
「ギャラが出るならいくぜ、オレ。学校からの仕事ってことになるんだよな?」
「なりまっせーん」
シロはばんざいのしぐさをして、びみょ~な笑顔をつくった。
がちゃん。
和泉のなかで、やる気のスイッチが切れる。
「だって学長である葵さまが、『調査はしない』って言いはってるんだもの。報酬なんて、出るわけないじゃん」
「……そうか。じゃあこのはなしは無かったってことで」
「和泉ー」
背なかをむけてわかれのあいさつに手をあげる青年に、シロはベンチから立ちあがって追いすがった。
「『無償奉仕』って、すばらしい慈善活動だと思わない?」
「無料ばたらきなんざクソくらえだっ!!」
白髪の少女のながいウサギの耳を両方ともひっつかんで、和泉は犬歯を剥いた。
ゼロ円で命をはれるほど――【悪魔】がらみの案件は、それくらい『キケン』と言っていいのだ――和泉は滅私奉公の精神に富んではいない。
「はーあ。やっぱだめか」
「がっかりさせてわるいけどな」
「いーよ。期待してなかったから。――あ、うそ。ほんとはちょっとだけ、行ってくれるかもって思ってた」
シロは自分の耳をさすりながら、和泉のわきをすりぬけた。
かるい足取りで広場を駆けていく。すこしはなれたところから、思い出したように彼女は「ばいばい」とふたりに手をふった。
和泉とノワールが、ちいさく手をふりかえす。
と、シロは人の往来のすくなくなりつつあるメインストリートに消えていった。もうすぐ昼やすみがおわるのだ。
「和泉くんは【学院】にもどらなくていいの?」
木のしたでノワールが言った。
「そうっすね。オレは今日はもともと、講義ないんで。午後からすこし研究報告用の資料をあさりに行くくらいなんですけど」
「ふーん」
訊いておきながら淡泊にノワールはうなった。
彼女にとっては、後半の部分には関心がなかったのだ。
「ねえ。行ってあげたら?」
「うーん……。どこに、なんでしょうね……」
ノワールのうながしを、受けながそうとする和泉である。
彼女がなんのことを言っているのか。わからないわけではなかったが。