11:ほれたよわみ
・前回のあらすじです。
『ノワールが和泉をしらんぷりして、シロにはなしのつづきをうながす』
シロはいよいよ落ちこんで、ふたりに語った。
「葵さまのほうにも召喚のうわさは来てて……。というのも、そういうよたを耳にした一部の【貴族】たちがさわぎたてたからで――」
「ほっとけなくなったの?」
「いえ。それでも葵さまは『ほっとけ』って判断なんです。どっこい。そのときたまったま、茜が【フィレンツォーネ】のちかくに滞在してて。彼女の【使い魔】のほうから、おなじうわさを聞いたみたいなんですね。で。手紙で『私いまちかくにいるし。きょーみがあるからさぐり入れてあげようか?』って、訊いてきたんです」
「あら感心ねー。あの子、最近おとなしくなってきたんじゃない?」
「私もそう思いました」
(オレもそう思うぞ♡)
がくーっ。
とベンチでうなだれて、ノワールに同意をしめすウサギの少女に対して、和泉は腕組みして「うんうん」うなずきながらにっこりする。
茜に対する評価については、彼の場合、『ほれた弱味』が多分に作用している。
「って。えらいって思うんなら、なんでおまえガッカリしてるんだよ?」
和泉はシロのがくぜんとした態度にもの申した。
うんざりと、彼女はあたまを持ちあげる。
「それで口論になったの! 茜からのもうし出を受けた葵さまが、水晶玉持ちだして、【遠隔魔法】ですぐに通信したのよ。『ぜったいに行くな!』って」
「あいかわらずのあたまごなしね……。ってゆーか。先方も水晶持ってたわけ?」
「いえ。ホテルのフロントのです。差し出し人のところに所在地が書いてあったので、こっちから送信することができたんです」
「それで? 茜はなんて?」
和泉が急きこんできいた。
あいての落胆ぶりから、だいたいの想像はつくが。
「『なんでなんで!?』の嵐だよ。葵さまも『あなたまだ子どもでしょう!!』とかなんとか。ぜんっぜん説明になってなくて……」
「こどもったって、あの子ももう十七才でしょー」
「十八才未満はお子ちゃまなんですって」
「どーゆー基準よ」
ノワールはほそくてながい脚を組んで、今度は気らくに言った。
「それに茜ちゃんの場合、魔力だってかなりのものじゃない。せっかく自分から行くって言ってくれてるんだし。あまえたらいいじゃないの」
「はい。私もそう思ったんです。で。『あんまり過保護なのはよくないんじゃないですか?』って、意見したんですよ。葵さまに」
「がんばったわねー。そしたら?」
少女のふわふわした白い髪を「よしよし」となでながら、ノワール。返事の予想がついているのかあでやかな顔がニヤニヤしている。
なにがたのしいのか。
「『じゃ。あなたがどうするか決めなさい』っつって、反対の旨だけを認めた手紙を私にやって、茜にとどけるかどうかを一任してきたんです」
「水晶玉でのやりとりじゃラチがあかないって思ったんでしょうね」
「だけど手紙でも結果はおなじだろ? どんな返事のしかたをしようが、史貴学長の意見は変わらないんだから」
「【学院】としての通達なら、きかないわけにはいかないよ。茜だって【賢者】やめる気はないんだからさ。――あ。でも」
シロはふと思い出したように、あごに手をあてた。
「【ソロモンの指環】はかえすって言ってたかな。それで、返却すべき人をさがして旅してるってのは、聞いた気がする」
「そうなのか?」
うん。とシロは首肯した。
三人のそばに植わったポプラのこずえが、秋風にさわさわとゆれる。
(茜に指環をやったのって、先代の学院長だと思ってたけど……)
気にはなったが、和泉は追及をしなかった。