契約その97 先輩gamerの世間へのいかり!?
「北上かしす」の引退はSNS上でも大きな話題になった。
「わざわざ後輩とのコラボの時にその話をするのか」
「こうやって注目を集めて、やっぱり引退撤回するんじゃないのか」
といった批判がSNS上でされた。
つまり大炎上である。
そしてメイはというと、あまりにショックだったのか、部屋に引きこもり、配信もせず、ずっと学校を休んでいる。
「ご飯を部屋の前に置くとね、いつの間にかなくなってるの。だから食べてはくれてるみたい」
由理が言う。
とりあえずご飯については心配ない様である。
「だが、心の傷が問題だな」
アキが言う。
「そりゃそうだ。メイ、あのコラボを楽しみにしてたんだ。憧れの人だって。なのにそれが、あんな事になるなんてな……」
ユニが同情する様に言った。
「何とかしてあげないの?」
由理が聞く。
「おれはこの件では完全に『部外者』だからな。メイが助けを求めれば、そりゃどんな助けもするけど、時には待つ事も大事だ」
ユニが答えた。
世間の話題の移り変わりは早い。一週間もすれば、北上かしすの話題を上げる者は少なくなった。
しかし、当事者にとっては、それは忘れる事のできない出来事である。
暗い部屋の中で、メイは一週間前の出来事を思い出していた。
あれは、コラボの一環として格ゲーをやっていた時の話である。
「幻夢めいと」と「北上かしす」のコラボについて、コメント欄では批判が相次いでいた。
「『幻夢めいと』の名を使って売名する気なのか」
「誰もお前の事など好きじゃない」
中には人格否定のコメントもあった。
それに耐え切れなくなった「北上かしす」は……。
ついには引退すると言ってしまったのである。
しかし、これは決して考えなしの口から出まかせというわけではない。
最近チャンネル登録者数も、動画の視聴回数も緩やかに減っていて、そろそろ潮時かという話を事務所ともしていた。
しかし発表のシチュエーションがまずかった。
視聴者にキレて勢いで引退すると言った様に見えてしまったのである。
当然SNSも炎上状態、そして慌ただしくコラボ配信は終わった。
去り際、「北上かしす」が言った言葉が、メイには忘れられない。
「心ないコメントなんて何回も目にしてきたのに、勝手にキレて引退宣言……やっぱり私Vライバーに向いてなかったのかな」
「それは違う」
メイは、そう言えなかった自分に腹が立った。彼女に何を言えばいいのかわからなかった。
メイは悩み続け、そして一週間が経過したのである。
「本当は引退宣言はもう少し後にする予定だったらしいけど、あの場で発言しちゃったせいで事務所も大変な事になってる」
家に帰ってきたルアが、事務所の状況を報告した。
とにかくほとぼりが覚めるまで「北上かしす」と「幻夢めいと」は活動休止という対応になったらしい。
一週間前と比べてSNSはだいぶ落ち着いてきたが、それでもまだ批判の意見は多い。
「社会人なのだから、多少の暴言は我慢するべきだ」という意見もあり、これにはさすがにユニも怒った。
「まず暴言を吐く事が社会人としてどうなんだ!?」
それについては、誰も文句が言えなかった。
それからさらに一週間が経過した。
「北上かしす」の話題を出す者は、もうすでに一部のファンのみとなっていた。
このタイミングで、「芸能事務所 ポリプロ」は、「幻夢めいと」の活動再開を発表した。
そもそも「幻夢めいと」はコラボ先として巻き込まれただけであるという意見が多かったのもあったからである。
その発表がされた直後、メイは二週間ぶりにみんなの前に姿を現した。
やつれているのは、誰が見ても明らかだった。あまり眠れてないのか、クマがすごい。
メイは、誰に話しかけるわけでもなく、冷蔵庫からペットボトルを取り出すと、自室まで戻ろうとした。
その姿を見て、さすがにいたたまれなくなったユニは、さすがに声をかける事にした。
「えっと……メイ、この事に関してはおれ達は関与しないって思ってたんだけどさ、言うよ」
メイは立ち止まる。
「確かにおれ達はこの件については部外者だ。何を言う資格はない。だけど『幻夢めいと』の関係者じゃなくてもさ……」
メイはゆっくりと顔をユニの方に向けた。
「おれ達は、高橋芽生の関係者だ!もし言いたい事があるなら言って欲しいんだ!」
メイは、今度は体全体を向ける。
「微力かも知れないけど、おれ達には悪魔も妹もアスリートも!委員長もインフルエンサーも漫画家も!アイドル、発明家にセレブ!芸術家にオタクに巫女だっているからさ……」
それを聞いたメイは、勢いよくユニに抱きつき、ユニの体に顔をうずめながら心の内を吐露した。
「悔しいんだ……何も知らないクセに誹謗中傷する奴らの存在も、そしてそれに対して何もできない自分も!」
メイは顔を上げて続ける。
「だから、何とかして彼女の名誉を回復させたい!自己満足で、余計なお世話かも知れないけど、彼女はぼくの憧れだから……」
ユニは、彼女をさらに強く抱きしめる事で応えた。
「わかってる。おれ達にはたくさんの人材がいる。だから何も心配しなくていい。おれ達なら大丈夫だ」
強い言葉は、時に誰かの生きる希望になる。少なくとも、メイがユニの言葉で救われたのは確かだった。
「でもどうするの?どんな方法で成し遂げればいいのか……」
由理が聞く。
「当然、動画配信しかないだろうな。でもそれは諸刃の剣。一般間違えればせっかく鎮火しかけてた火種を再び燃やす事になる」
ユニが言う。
「それでも、やるしかない。ごめん。付き合わせちゃうけど、それでもいいかな」
メイが聞く。
彼女達の心は一つであった。
「当然!」
これで味方は揃った。
ユニは改めてメイに言う。
「『自己満足』なのは、おれも同じだよ。おれは自己満足で彼女達を幸せにしたいって言ってる。だから大丈夫さ」
こうして、ユニ達の新たな戦いが始まったのだった。
悪魔との契約条項 第九十七条
誹謗中傷は、犬は勿論悪魔も食わない。
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