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契約その96 先輩Vライバーとのcollaboration!

「みんなー!いつもめいとちゃんねるを見てくれてどうもありがとう!今日は雑談配信!楽しんでってね!」


 高橋芽生改め「幻夢めいと」は、先日の文化祭について話す。


 最初こそ配信はゲームのみに限っていたが、最近は事務所の意向で雑談配信もやる様になった。


 プライベートでは口下手なメイだが、雑談配信では「幻夢めいと」という「仮面」を被る為か、割とすんなり話せるのである。


「友達だよ?友達なんだけど、その友達がめちゃくちゃ大胆なチャイナドレス着てね、それが似合ってて……」


 今や「めいとちゃんねる」はチャンネル登録者数10万人を超える規模になった。


 まだVライバーを始めて半年程しか経ってないので、この成長速度は異例と言える。


「今日はコラボもあるから!忘れずに見に来てね!メイトでした!メイビー♪」


「メイビー」とは配信を終える時の決めゼリフの様なものだ。ちなみに視聴者考案である。


 雑談配信は三十分程で終わった。普段は土日は一時間程やるのだが、早めに切り上げたのにはわけがある。


 さっき配信で言った様に、先輩Vライバーとのコラボ配信がある。


 名前は「北上かしす」という。


 先輩ではあるが、チャンネル登録者数も配信時の接続人数も、後輩である「幻夢めいと」に追い抜かれている。


 界隈では落ち目と呼ばれているが、メイがVライバーを始めるに当たって参考にした憧れの大先輩だった。


 それ故にキャラが被り、結果的に「北上かしす」の人気を奪ってしまった事は、皮肉としか言いようがない。


 事務所的には、伸び悩んでいる「北上かしす」を復活させたいという意図があるのだろう。


 コラボの場所は瀬楠家のメイの部屋である。


 配信では壁紙を使うので背景は関係ないし、何より瀬楠家には紫音謹製の優れた撮影設備がある。


 そのレベルは事務所のそれを大きく上回る程である。それに事務所の隣という好立地もある。使わない理由がなかった。


「今からコラボ相手がここにやってくるから、しっかり出迎えて欲しい」


 メイは同居しているユニの彼女達にそう伝え、待っているという事務所まで「北上かしす」を迎えに行くのだった。


「ポリプロ」は瀬楠家の隣にあるアパートを丸々買い取り、そこを事務所とした。


 全ては会社の稼ぎ頭、トップアイドル「ルア」の為である。


 メイは郵便受けの「Vライバー課」という文字を確認すると、チャイムを押して言う。


「幻夢めいと」です。「北上かしす」さんを迎えに来ました」


 入っていいぞという事務所の人の声。メイは失礼しますと一言言うと、玄関のドアを開けた。


 芸能事務所を謳っていても、中は古くてせまいアパートの一室である。事務所がこの状況なのも、会場を瀬楠家にした理由なのだ。


 その中で待っていたのは、事務所の人(名前は覚えていない)と、今まで見た事がない女性であった。


 しかし、メイはどうやら彼女が「北上かしす」の中の人である事を察知した。


 ベージュのパーカーにジーンズ。やや暗めのオレンジ髪のショートカットが特徴の女性である。


 その彼女はメイを一瞥すると、何事もなかったかの様にそのままスマホをいじり始めた。


「あ……えっと……『幻夢めいと』として活動している『高橋芽生』です。よろしくお願いします……」


 メイはたどたどしくも自己紹介をする。やはり人と話す事は苦手だ。『幻夢めいと』というガワを使っていても、それを感じる。


「北野()(かん)。『北上かしす』として活動している。みかんって南の方で採れる果物なのに「北」っておかしいでしょ?」


 北野実柑が言った。


「やっぱりこの人面白い!」


 やはり面白い人はプライベートでも面白いのである。メイは心の中で目を輝かせた。


「じゃあ早速行きましょう。えっと……」


「かしすでいい。そっちの方が慣れてる」


 北野実柑、改めかしすは、抑揚のない話し方で言った。


「わかりました。じゃあかしす先輩、一緒に行きましょう」


 そういうメイをかしすは無視し、とっとと玄関へ行ってしまった。


「あなたの家、この隣なんでしょ。先に行ってる」


「え?ちょっと!」


 メイは慌ててかしすを追いかけるのだった。



 一方、瀬楠家では、メイのコラボ相手の話になっていた。


「『北上かしす』……かれこれ五年程やってるベテランVライバーですね。ですが今は伸び悩んでいて……引退説も囁かれています」


 萌絵が説明する。


「でもメイは、事務所が自分とのコラボを復活の起爆剤にしようとしているって言ってたけど」


 ユニが言う。


「うーん、落ち目の人を復活させるより、新進気鋭の人を際立たせる方が事務所的にはいいのかも。アイドルにも『引き立て役』が設定される事あるし」


 アイドルという視点から、ルアが自分の意見を述べる。


「残酷な世界だな」


「それが『芸能界』って事だよ。でも中には引き立て役にすらなれない人だっている。どっちがいいんだろうね」


 ルアがそんな事を言っていると、チャイムが鳴る。


「たぶんメイだ。『北上かしす』を連れてきたんだな」


 世間的には、メイとユニが恋人で、さらにルアも含めた現時点で十三人もの彼女の内の一人である事は知られていない。


 ルアもそうだが、友達とシェアハウスしているというていになっているのである。


 もしこの事が仮に世間に知られたら、それはもうとんでもない事になるだろう。


 それは彼女全員理解している事である。なので玄関にはユニのみがやって来た。


「こんにちは……えっと……」


「『北上かしす』。お邪魔します」


 その直後、何とかメイはかしすに追いついた。


「やっと追いついた……今から配信するから、よろしく」


 メイはユニに一言声をかけ、了承を取った。


「ああ。わかった。配信見てるよ」


 かしすはそそくさと部屋へ行ってしまった。それをまた慌てて追いかけるメイ。


「しかし、何か闇抱えてそうだな……あのかしすっていう人……」


 二人の後ろ姿を見送りながら、ユニは呟く。


 そして、ユニのその言葉は的中するのだった。


 そのコラボでは、ある重大発表がされた。


 それは「北上かしす」の引退であった。


 悪魔との契約条項 第九十六条

普通、悪魔の存在は、人間に知られてはならない。

読んで下さりありがとうございます。

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