契約その89 接客!晴夢学園School Festival!
ユニが教室に戻ってきたのは、ギリギリの十時五十五分であった。
「ごめんごめん。待たせちゃった」
ユニは、謝りながら同じシフトの女子生徒達の元へ駆けつけた。
「もう!瀬楠さん!ちゃんとやってよね!ただでさえ大盛況で人手が足りないっていうのに」
一応時間には間に合ったからいいもののと前置きしながらも、女子生徒の一人が叱責する。
「以後気をつけます」
ユニは反省した。
ユニのシフトに、ユニの彼女達はいない。
最優秀賞を狙う為に、戦力を分散させる意図があったからである。
午前中のシフトが終わり、いよいよユニ達の順が回ってきた。
ユニは、午前中のシフトに入っていたルアとハイタッチして、後は任せろと言うのだった。
そのユニは、今度は午前中のメイド服ではなく、バニーガールの衣装を来させられた。
網タイツに黒のレオタード。お尻にはポンポンの様な白い丸い尻尾、そして頭には大きな白いウサミミが揺れている。
「やっぱり大丈夫かな。学校の文化祭でこんな際どい衣装」
特に黒のレオタードなんか……ふとした瞬間にズレて、見えそうではないか。
「こんなの……やっぱり痴女みたいじゃんかよ……」
ユニはカーっと赤面する。さすがに恥ずかしい。心なしか、どうも視線が気になる。
ユニの胸はGカップ、そのわがままっぷりが、視線を集めないわけがなかった。
そうこうしている内に、クラスメイトじゃない彼女達がやってきた。
「お席まで……案内します……」
ユニは、とにかく動き回れという指示を出されていた。それだけで華になるという理由だった。
バニーガール姿のユニを見た瞬間、モミはつい目を逸らし、次の瞬間にはついのけぞった。
「えーっと……大丈夫?」
ユニが心配する。
「あまりにも破壊力がすごすぎて……つい昇天しそうになりました。心配しないで下さい」
あまりにも心配である。それに、どうやら揉むのを理性で抑えている様にも見える。
そもそも家で衣装合わせした時に死ぬ程揉まれたし、それに公共の場で揉む事のリスクを、一応理解している様だ。
「来てしまいましたわ!」
「さっき来てくれたから、そのお返しにね」
「中々の盛況ぷりじゃな」
非クラスメイトの彼女達は、次々と言うのだった。
「ご注文は……お決まりでしょうか」
やっぱり恥ずかしいモンは恥ずかしい。ユニは赤面して震えながら言った。
「このミルクケーキを一つ……なのです!」
「じゃあこの激辛麻婆豆腐で」
「うーむ……。じゃあこのさっぱりとしたうどんを頼む」
「お寿司を頼みますわ!」
「承知しました……すぐに出します……」
ユニはトランシーバーで注文された品物を調理班へと伝える。
これは、混雑した場合を想定したユニの作戦である。
集団食中毒を回避する為、調理スペースは場所が決められているのでユニ達の教室からは少し遠い。
混雑している時に教室と調理スペースを行ったり来たりしていると、あっという間に時間がなくなってしまう。
そこで考えたのが、このトランシーバー作戦である。これを使う事で、注文を伝える時間を大幅に短縮できるのだ。
時間が短縮できるという事は、店の回転率が上がるという事であり、より多くの利益を得る事ができる。
ユニは、彼女達以外の何組かのお客さんの注文も聞き、トランシーバーで伝えた。
調理といっても、インスタントに少し手を加えるだけである。そんなに多くの時間はかからない。
調理スペースまでの移動時間も考慮して、注文を取り終わってからすぐに移動してちょうどいいぐらいだ。
時刻は十一時を過ぎ、やがて本格的に客足がピークを迎え出した。
ユニは、その人波をすり抜ける様な形で調理スペースへ移動していた。
人波に揉まれてレオタードがズレてしまうのではないかと思ったが、調べてみた所しっかり固定していれば大丈夫らしい。
そこは安心だった。
人波を避けていった都合上、普段より時間がかかってしまった。
料理はすでに完成していた。ユニはそこで料理を受け取ると、何とか教室へ戻ろうとした。
帰りは、身一つではなく料理を持った状態である。当然難易度は爆増する。
が、客も他の生徒も一応事情は把握してくれているので避けてくれる。ユニは何とか教室に帰還できた。
ユニは、彼女達のテーブルにやって来ていて言った。
「こちらが注文の品でございます。ありがとうございました」
しかし、混んでくると当然トラブルが起こる。
さっきからガラの悪い男達が居座っている様だ。
長時間居座られると、その分店の回転率が下がり、利益の減少以外にも行列の原因になる。
なので黒板に書いて注意喚起している程、長時間の居座りはお断りしているのだが……。
ついに耐え切れなくなったユニが、男達の元へ行き、伝えた。
「あの……ここでは長時間の居座りは禁止されているのですが……。要するにに一時間以上はダメという事です」
明らかにカタギではない男達に、ユニもできれば近寄りたくないのだが、仕方がなかった。
男の一人が、ユニを睨みつけながらこう言った。
「『お客様は神様』じゃねェのか」
成程そういう事を言うのか……。できれば穏便に済ませたかったが仕方がない。
「当店にそんな使い古された規則はありません」
男達に、帰る意思がないとみたユニは、そうピシャリと返した。
教室内からクスクスと笑いが漏れる。
恥をかかされたと思ったのか、男は逆上してユニの胸ぐらを掴もうとする。
その腕をユニは掴むと、そのまま強く捻った。そのあまりの痛さに、男は悲鳴をあげる。
「生憎だが、今は掴む胸ぐらはないんだ。パニーガールだからな」
ユニはそう皮肉った。
ユニの言う通り、バニースーツはピッチリしているので、掴む余地はないのである。
そしてユニが、この繁忙期に当てがわれたのには、客寄せパンダ以外にも理由がある。
それは、いざという時の為の用心棒である。混雑していれば、当然トラブルが起こる確率が高くなるからだ。
ユニは無理やり笑顔を作ると、なるべく穏やかに言った。
「連れの方もとっとと出ていってください。あと、ちゃんと代金は支払って下さいね」
その迫力に気圧された男達は、財布からそれぞれ千円札を取り出して机に叩きつけると、そそくさと去っていった。
「パチパチパチ!」
周囲から拍手が湧き起こる。
ユニ達の「コスプレ喫茶」は、強くてかわいい店員がいるという噂を得て、益々繁盛する事になるのだった。
悪魔との契約条項 第八十九条
当然だが、人間も人間側の規則を守らなくてはならない。
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